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咎の妄執  作者: ずんだもち
6/8

無我の律

 瞬きの合間に赤星のえぐれた腕が健康的な腕に戻っていた。

 その所業におそらく当事者である山吹も含め、この場の全員が釘付けとなる。


 この短時間に体験したことのない経験をいくつもしているせいで全てが夢のようですらある。

 フリーズしかけた思考をなんとか解凍させ、今起こった出来事に適切な解を与えようと脳をフル稼働させる。


 おそらくこれは山吹に与えられた律なのだろう。

 その力は、状況証拠から類推するにかなり高度な治癒能力か。

 だとすると相当強力な能力である。

 天使、フレイが俺達に与えられる律はなるべく協力なものにすると約束してくれた通り、赤星も山吹も素人目に見ても優れた律が与えられている。


 その事実に俺は胸が躍るのを抑えられないでいた。

 

「これ、お前がやったのか」


 赤星は自分に起きた現象を理解できず、その答えを山吹に求める。

 山吹は静かに頷いた。そして、信じられないことを口にした。

 

「たぶん、私の律は......無にする律......」


 弱々しく自身に与えられた律を山吹は俺達に説明する。

 無我の律――あらゆる事象をなかったことにする律。

 とんでもない力だ。

 彼女の律は、例え世界が終ろうともそれをなかったことにできる代物だ。

 今この世界の律にレアリティを与えれば無我の律は確実に最上位のグレードがつけられるだろう。


「最強だな」


 赤星は子犬を愛でるときのような笑みを浮かべ、山吹にこぶしを突き出した。

 男友達に感謝の気持ちを示すような赤星の行動は、山吹には理解が及ばなかったようで疑問符を浮かべていた。

 しかし、その意図はしっかり胸の奥に届いていたようで、山吹も安堵の笑顔と小さなこぶしで呼応した。


 確かな絆が生まれたその現場には、柔らかな空気が漂う。

 赤星のことが嫌いな俺ですら尖った心が研磨されていく。

 その片隅でただ一人、青く艶やかな髪を手でまとめながら敵意を秘めた視線を注ぐものがいた。


「ちょっと私もケガしたから直してくんない? 琥珀」


 トーンが一段下がった声で山吹に治療を促すのは青薔薇だ。

 

「今行くね」


 山吹は青薔薇の敵対心を一切感じ取れていないようで、素直に治療をする。

 治療というのは不適切かもしれない。

 青薔薇の傷をなかったことにしたのだ。

 

「ありがとー」


 どういうわけか満足気な青薔薇のその姿は、勘違いかもしれないが山吹の処置の前後で変わっていないようだった。


「うん、どうやら一難去ったようだね。それじゃあ森を抜けよう」


 一部始終を見終えて、紫水は行動を次に移すように促した。

 

 刹那、次の刺客、再び黒い表皮に覆われた狼たちが木の陰から襲い掛かった。

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