天使の目的
フレイと名乗る金色の長い髪をたなびかせている天使は俺達に再び生命を与えたと言った。
「どういうことだよ」
髪色と同調するようなしかめ面をして赤星は天使に問いかける。
「そのままの意味です。あなたたちは一度死に、私の権限を持って別の世界に転生させます」
「は? 何言ってんのこの人。ていうか人?」
青薔薇は眉間にしわを寄せて敵意丸出しである。
「私は天使です。今言ったとおり、あなたたちを生き返らせました」
フレイは俺達の心情とは真逆にゆっくりと落ち着いた様子である。
この状況はまさしく転生ものだとフレイは言うのである。
俺としては願ったり叶ったりの状況だが、他の四人は未だに困惑している顔だ。
現世で一度死んだ後にこうしてその事実を伝えられ、この先二度目の人生があると言われてもすんなり飲み込める方が希少というものだ。
そんな中でもただ一人、怪しい契約書を提示された経営者のようにフレイに切り込みを入れる者がいた。
「ただの善意で生き返らせてくれた、というわけじゃないですよね?」
紫水は目を薄くさせてフレイに尋ねる。
確かに一理ある考えだ。
世の中、というか前世の世の中にある転生ものは突然だったり意味もあるわけでもないことが多いと感じる。
なんの見返りもなく善行をするといった人は少ないように、人ならざる天使にも画策があるのではないかと紫水は睨んでいる。
「勘が鋭いようですね」
その疑念がどうやら的を得ていたようであった。
「あ、あの。その思惑って?」
さっきまで口も開かず電柱のように微動だにしなかった山吹がようやく声を発した。
「それはこの世界、その成り立ちからトーラと呼ばれる世界における五大災厄と称される魔物を討伐することです」
「それって俺達が戦って倒せってこと?」
赤星がフレイの真意をなぞる。
五大災厄の討伐。
なんとも香ばしい話である。
当然ながら善意のみというわけではなく、やはり裏があったようだ。
その点は全然気にすることではなく、むしろ高揚するばかりである。
「で、その五大厄災って私達でも倒せんの?」
「今のままでは当然難しいでしょう。よって、私があなたたちに律を授けます」
「律とは何ですか?」
「律というのはトーラにおける異能のことです」
お決まりの特殊能力授与らしい。
フレイの話によればその『律』というのは所謂パッシブ系の能力であるらしい。
律によって永続的であったりある条件下において効果を得られる。
故に必殺技というものではないらしい。
「まあ話は何となく分かった。で、その律があれば倒せんの?」
赤星は当然の問いをフレイに返した。
わざわざ転生させてまでこの世界に呼ぶということは相当強力な律を与えてくれることだろう。
「あなたたちに授ける律はトーラにおいても強力で希少性の高いものばかりです。それがあれば必ず討伐できるというものでもありませんが、間違いなく助けとはなるはずです」
「それで、どんな律を授けてくれるのですか?」
そこが一番重要で楽しみなところだ。
ここでチート級の能力、律を貰っていきなり最強というのは憧れる所。
これまで日陰に生きてきた俺が賞賛される未来を想像すると口角が自然と緩んでくる。
「なにニヤついてんの。キモ」
青薔薇は鋭利な刃物は投擲するように罵声を浴びせてくる。
正直慣れたものだし、チート能力を持って転生できるのならばこいつらにわざわざ付き合う必要もなくなってくるだろう。
力があれば友人なんてあっさりできるだろう。
「ま、まあまあ。黒岩君も少し動揺してるんだと思うから」
こんな俺にも山吹はすかさずフォローを入れる。
彼らとさっさと縁を切りたいが、山吹とはこれからも仲良くしていきたい。
「こんなやつどうでもいいから、早くどんな能力か教えろよ、天使さん」
「それは今は教えられません」
「どういうことよ。意味わかんないんだけど」
口は悪いが青薔薇の気持ちは最もである。
五大厄災を倒してほしいから転生させたし強力な律を与える。というのに律の詳しい効果は教えられないというのは不可解だ。
「それは実際にトーラの大地を踏まないことには律を得る条件を満たせないからです」
「ほんと何言ってんの?」
フレイの返答には正直首をかしげたくなる。
「律というものはトーラの大地の恩恵です。ですので、私主体で扱うことができないのです」
「じゃあどんな律を使えるかってのは分からないってことか?」
「そういうことになります」
「ふざけんなよ。強いかも分からない律になるかもしれないってことだろ?」
落胆の声を上げる赤星。
少し思った話から逸れてきて姿勢が後ろ向きになってくる。
「安心してください。律にもその効果によってグレードがありまして、具体的な効果までは手を出せませんが、最上位のグレードになるようには細工ができます」
「まあそういうことならいいでしょう」
「紫水くんが言うんだったらまあいっか!」
まったく分かりやすい女である。
「それでは皆さんの同意も得られたようなので、今から律則の大地、トーラに転送しますね」
俺も含め全員まだ完全には納得したわけでは無さそうだが、ぶっちゃけどうすることもできないので仕方なく受け入れたという感じだ。
というかここってトーラじゃないのか。
確かにこんな宇宙みたいな空間があるとは考えにくいが。
じゃあどこなんだって話。
ここに来てから少し時間が経つためあまり疑問にはならなくなってはきたが、気になりはする。
「その前に、ここがどこか教えてもらっていいですか?」
「お前って口あったんだな。飾りかと思ったよ」
赤星はスルーして俺はフレイにこの場所の詳細を聞いた。
「ここは意識だけの空間。次元の狭間のようなものです」
道理で幻想感溢れる空間だと思った。
「話はここら辺にして転送を始めます」
フレイは強制的に会話に区切りをつけると、俺達の手のひらを向けた。
するとそこから蛍のような光が湧き出してきて俺達の体を包み始め、次第に光の強さが大きくなる。
「あなたたちが無事、五大厄災を討伐することを祈っています」
満面、というほどでもない笑みを浮かべフレイは声援を送る。
しかしどこか含みがあるような気がした。
刹那、視界は完全に光に包まれた。
次の瞬間には俺達は木々茂る森の中にいた。