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咎の妄執  作者: ずんだもち
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天使の声

「ここはどこだ......?」


 赤髪越しに頭を抱えて、赤星篤人は混乱を交えた疑問を呈した。

 俺も腕を抑えながら薄く目を開き赤星篤人を視界に入れる。

 他の三人、紫水悠馬、青薔薇聖良、山吹琥珀も同様に現状を受け入れられない様子だ。

 それもそのはず。

 俺の記憶の最後はトラックが道路を外れて歩道、俺達の方向へ速度を落とすことなく突っ込んで来たところまでだ。

 死の直前、頭が真っ白になり体が硬直していたと思う。内から突き上げてくるこれまで感じたことのない感覚は正直二度と味わいたくはない。

 想像したくはないが、おそらく俺の体はぐちゃぐちゃになって原型を留めていないことだろう。

 トラックの速度はすさまじく速く、それに加えて背後には建物と人間サンドイッチであった。

 考えただけでも恐ろしい。

 そこで気づく。

 事故に巻き込まれ致命傷を負ったはずの体のどこにも痛みや苦痛を感じていないのだ。

 赤星篤人が細々とした声を上げれたのも彼らが五体満足で無事であることを示している。

 その事実に気づき、俺は恐る恐る目を開き、周りの情報を取り入れた。


「は?」


 口から審査なしに飛び出たその一文字はまさしく眼前の光景がこれまでの経験上、実物でもインターネットの世界でも見たことない景色であることを示している。

 遠方はすべての光を吸収してしまうような漆黒色に塗られており、青色や赤色にまばゆく輝く点がいくつか浮かんでいる。また、天の川のようなグラデーションを持つような光も散見される。

 足元は薄く広がった円盤状の薄紫色の光が存在しており、おそらくこれがこの空間で俺達の体を支えているのだろう。

 抽象的な宇宙空間。

 この空間はまさに宇宙のようである。


「ね、ねえ。私たちさっきまで......」


 体が震えると同時に必要以上に手入れがされたコバルトブルーがなびく。

 青薔薇聖良は喉から絞り出すように自身の不安を言葉にした。

 

「わからない。けど、俺たちはさっきの瞬間はトラックを目の前にしていた。なのに今はこうして地に足をつけて立っている。」


 紫水悠馬は容姿道理の冷静な口調と考えを口にする。

 しかし、手足の動きはどこかぎこちなく、上辺とは裏腹に不安が纏わりついているといった感じだ。

 やはり紫水悠馬のような男でもこんな奇想天外な現実に相対すれば恐怖のようなものを感じるのだろう。

 それを理性で抑え込めているのはさすがといったところか。

 正直、赤星、青薔薇、紫水の三人は俺を使用人扱いしてくら彼らはあまり好きじゃない。

 一緒のグループにいるが、別に彼らのことを友人と思っているわけではないし、多分彼らも代わりの効く、いなくてもいいくらいに思われているだろう。

 だから彼らのことは好きじゃない。が、それでも紫水悠馬の胆力というか理性というものはすごいとは思う。


「なんか怖いんだけど......」


「俺もわけがわかんねえ。俺らさっきし、死んだよな?」


 赤星と青薔薇は互いに意思を疎通させながらお互いの憂いを共有するように言葉を交える。

 見た目強そうといっても不足で予想外の出来事にはやはりたじろぐものだ。


「ああ、おそらく死んだ。けど、今は生きている。だから分からないんだ」


 対照的に紫水は正常に動く脳により現状を正しく把握している。

 一方で、山吹琥珀はさっきからずっと黙り込んだまま空を見つめていた。

 彼女は以前からアクシデントに遭遇した時、自分の気持ちを整理しきれずエラーを起こした機械のように固まることがよくあった。

 山吹は中間試験の日に筆箱を忘れていまったことがあったのだが、学生にとっては重要な日の不測の事態にどうしたらいいか分からずに静止していたことがあった。その時は、近くの席の同級生が山吹の不自然に気づき一日を乗り切ったのだが、やはりそういう側面がある。

 ちなみに俺はすでに冷静さを取り戻し、むしろ高揚していた。

 この状況は要するに転生だ。ラノベを読んだことがある人間にとっては一度は体験してみたい状況。

 今までの高校生活にさよならを告げ、新たな世界で第二の人生を送る。

 そんな時は決まって規格外の能力を授かって降り立つのがセオリーだ。

 胸の高まりを抑えることはできるだろか。


「こんな状況で何ニヤニヤしてんだ気持ち悪い」


「これだから黒岩は気持ち悪いのよね」


「もう少しこの状況に危機を感じたらどうだい」


 グループ内カーストトップスリーからの罵倒と軽蔑と呆然を一身に受ける。

 だからお前らのことは好きに......いや、嫌いなんだよ。

 しかしどうやら、俺という共通の敵のようなものを得た三人は一気に冷静さを取り戻したようだ。


「しかしまあ、どうする? これから」


「どうする......と言っても、現状俺達にはどうすることもできない。大人しく外部からのアクションを待つしかない」


「えー。私早くおうち帰りたいんだけど。ね、琥珀」


 お前は自由か。どちらかというと自分勝手か。

 この状況に身を置いた状態で早く家に帰りたいなんて常人には発想にも至らないだろう。

 呑気な青薔薇の問いかけに山吹はようやく自我を取り戻した。


「でも、このままじゃ帰れないよね....」


「琥珀は真面目かよー。もっと気楽にいこうよ」


「お前はポジティブですごいよな。尊敬するわ」


「えへへ、それほどでも」


 傍から見たら容姿が優れた男に媚びる性格の悪い女の図と解釈できるやり取りをしている赤星と青薔薇。

 一切の緊張感がない彼らを横目に紫水は顎に手を当てて思慮している様子であり、山吹は青薔薇に話を振られてから少し気力を取り戻したようだが、まだ暗い。

 しかし、本当にこの状況をどうするか。全く分からない。

 ここがどこかなのかも分からないし、この空間から抜け出す方法も分からない。ましてやどこか移動するにしても目の見える範囲しか動けないほど狭い領域。

 今後の行く先が皆目見当もつかないでいた。

 

 刹那、どこからともなく美しく透き通った声が響いた。


「あなたたちは一度人生の幕を閉じました。しかし、あまりにも若く可哀そうと感じたので私があなたたちに第二の人生を与えましょう」


 突然の声に俺達は再び体を硬直させた。

 そして空間の中心、俺達の前方頭上から舞い降りたその声の主はあまりにも美しい羽根の生えた女性、そう天使だった。

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