始まり
日は傾き、その陽光が網膜には過ごし毒に感じる時間。
コンクリートの人工的な硬さを足元に感じ、肩にはそれなりに使い込んだ教科書の重みで力が入る。
ただの学校帰り。
俺たち五人はそんな日常の中にいた。
前を歩く四人の会話とすれ違う人々の声。そして、すぐ隣を大量の車が交通している。
俺は影に埋もれながら口を開くことなく彼らについていく。
彼らは今日の授業もだるかった、とか、昨日の配信面白かった、とか。そんな他愛のない会話をしている。
俺は正直彼らとはそこまで仲が良くはない。
学校生活においてグループに属していることは他人からも教師からもちゃんとしていると見せるには易い方法だと思う。
俺はいわゆる陰側の人間だと自己評価を下している。
テンション高い人にはついていけないし、大勢の中で発言することには抵抗がある。
みんなが知っていることの多くを俺は知らないし、面白さもない。
けれども、俺はない勇気を絞り出して、高校一年生の時、ただ近くにいたクラスメイトということで赤星篤人に話しかけ、彼が作る紫水悠馬、青薔薇聖良、山吹琥珀のグループに属することとなった。
これが失敗だった。
赤星篤人は赤髪で短髪、ガタイがよく不良気質であり、バスケ部に所属し一年生ながらレギュラーに定着するこどの実力者。女子にも人気でまさに陽側の人間。
そんな彼と俺が合うはずもなかった。
最初は彼も乱暴だが気さくに話しかけてくれたが、徐々に俺の人柄を知り、俺のポジションは友人ではなく使用人にシフトチェンを果たした。
紫水悠馬は清潔という言葉が最もよく似合う男で、その淡いパープルヘアーも後押ししている。
あらゆることを卒なくこなし、物腰も柔らか。当然、女子が放っておくわけもなく、彼の周りにはよく女子がたむろっている。しかし、その表情は精巧すぎて時々何を考えているかが分からず不気味に感じることがある。
彼は表面上は俺にも優しいが、よく話す間柄ではない。当然、彼にとっても俺は使用人である。
青薔薇聖良は見た目通りの女子であり、とても騒がしい。ガチガチのメイクで武装をし、艶やかに整えられた青い髪。校則はどうなってるのかと疑いたくなるピアスにネイル。
明らかに俺とは平行線だ。
当然、赤星篤人と同様に、むしろそれ以上に俺の扱いは酷いものである。
使用人というか奴隷。
パシリにするわ金は巻き上げられるわ蹴られるわと散々である。
最後の一人、山吹琥珀は中でもましな方、というか天使である。誰に対しても優しく、こんな俺に対しても微笑みとともに接してくれる。少し主張が弱いような気もするが、他が酷すぎる故か天使である。
それに加え、綺麗な栗色のボブヘアーに守りたくなるような童顔。
行動もどこか天然気質なのかふわふわしていてなお可愛い。
容姿も性格も相まって天使だ(三度目)。
と、彼らの特徴を珍しく振り返ったが、一人を除きどうして彼らとまだこうして一緒にいるのかと自分のことながら疑問に感じる。
けれども、今更彼らと縁を切って新しく友人を探すなど到底できそうにない。
使用人時々奴隷の生活はきっとこの先も続くのだろう。
そう思っていた。
居眠り運転のトラックに巻き込まれるまでは。