ただいま
「これはどこに向かっているんだ?」
恭弥は先頭を歩くリヴとティアの背に問いかける。
腕を振って意気揚々に歩くリヴが、歩を緩めて横を歩き始める。
「ぼくらのいえだよ!」
「それは知ってるよ。どこにあるんだ?」
「あのきのうえだよ!ひとはせかいじゅなんてよぶきのさ!」
(人…それに世界樹の上に家、ね…)
「ちゃく!」
「とうちゃく、な…ティア。ついたよ、ぼくたちのいえのいりぐちに!」
ティアとリヴが振り返ってそう叫んだ。
その場所は恭弥も智美も来たことのある場所で、どう見ても家には見えない場所であった。
「図書館…」
智美がつぶやく。
リヴが家の入り口と言い切る場所は、世界中の書物という書物が集まるエデン図書館であった。
恭弥と智美目を合わせる。口には出さなかったが、いよいよ恭弥たちが考えていたことが確信に変わる、そんな予感を恭弥たちは感じていた。
「あっ、ここからはユキとルイははいれないけどだいじょうぶか?」
「えっ、どうして?」
ルイが驚いた様子で質問を投げる。
「ひといがいははいらないんだ…ぼくらはれいがいだけど」
「そんなことって…」
「ありますよ…わたしたち、ラーズ島の神社に入れなかったじゃないですか」
「あっ、そういえば!」
ルイの頭の上に電球が浮かぶ。
「確かにあったね〜そんなこと」
智美はリヴの行方を知るためにルイが巫女をやっていた神社に行った時のことを思い出す。
「そうだな、じゃあ一旦戻るか?」
「そうね、それがいいかもですね!」
「ルイ様がそうするなら私もそうします」
「分かった。じゃあ、またな」
「戻ったらすぐ呼ぶからね!」
「はい、待ってます!クロミ!」
恭弥と智美は、ルイの涙とユキの涙、2人の耳についているピアスに手をかける。
「「魂上」」
2人がそう唱えると、ルイとユキの体が光り輝き、ピ◯コロ大魔王が魔封◯で電子◯ャーに吸い込まれたように、ピアスへと光が吸収されていった。
ピアスに変化はないが、目の前からルイとユキはいない。
「よし、行きますか」
「このなかだよ!」
ティアがお菓子コーナーに親を急かす子供のように指をさす。
「図書館の中…か」
恭弥はシェリーと青龍と会った時のことを思い出す。
《エデン図書館へようこそ》
一生かけても読み切ることのできない量の本が並んでいるエデン図書館に、2度目の恭弥たちは圧倒される。
「ん!」
「えっ、何?ティア」
ティアは手を智美に差し出す。
「にぎってってことだよ、ここからはぼくたちにふれてないといけないばしょだからね」
「…分かった!」
智美はティアの手をとる。
「ほら、クロも」
リヴは少し顔を赤く染め、手を恭弥に突き出す。
「……おう」
恭弥は少し微笑み、リヴの手を握る。
そして、リヴとティアが目を合わせる。
「「ただいま」」
リヴとティアは声を揃えてそう囁いた。
《お帰りなさい》
恭弥と智美の頭には、ゲーム初期から聞こえていた、つい先程エデン図書館に入った際にも聞こえた声が響いた。
その瞬間、4人の体が光の粒子に変わり、その場から姿を消した。
次に恭弥たちが目を開けた時は、緑に囲まれた場所に立っていた。リヴの発言から、世界樹の上なのだろう。
正面には草木で椅子のように象られた場所には、女性、いや天使と言った方が近いような存在が座っており、その頭上には見覚えのある金色の果実が2つぶら下がっていた。
「「ただいま、お母さん!」」
その座っている存在にリヴとティアはそう言いながら、駆け寄った。