堕天地①
別の島へ移動するために、魔法陣にのった恭弥たちは、急に赤い光に包まれた。
恭弥たちが目を開けた時、恭弥たちはどす黒い荒野に立っていた。そこは枯れ果てた山々に囲まれており、血を想起させるような真っ赤な月で照らされている。そして、山には洞窟の入り口のような大きな穴が2つ空いている。
「…だましたな!さいしょからぼくたちをここにつれてくるはずだったんだなッ!」
「急に何を…?」
リヴが急に、何が起きたか分からない恭弥と智美を指差し、大声を上げた。
「リヴおにいちゃん…ちがう。あいつらがあたしたちをよんだの」
ティアは、いつもの元気な声からは想像のできない冷たい声でそう言いながら、山に空いた2つの穴を睨んでいる。
「ヤッ、ト…コノトキガ…」
低くお世辞にも上手いと言えない滑舌の声が、穴の中から聞こえた。その瞬間、地鳴りにも似た足音と何かを引きずるような音が響き渡り、地面だけでなく、心なしか空気も揺れ始めた。
「あいつらがぼくたちをよんだってどういうことだよ?!ティア!!」
「まってたんだよ…あたしたちが、ここからでもかんしょうできるまほうじんにのるのを…」
「ソノトオ、リダ…」
「ヒ、サシイナ…レーヴェン…エンティア…」
山に空いた2つの穴から、大きな2つの影が出てきた。
「…オロチ…マルコ…ッ」
リヴとティアはその2つの影を、今にも殺しそうな勢いで睨みつけている。2つの穴を出てきたのは、翼の生えたダークブラウンの毛並みをした狼と頭が8つ尾も8つの体全体が真っ白な蛇である。どちらも体育館くらいはありそうな大きさである。
「知ってるのか?こいつらを」
「…こいつらはむかし、あるきんきをおかし、かみのざをはくだつされた、もとカミなの」
(なんかいつものティアじゃなくない?)
(今はそんなこと言ってる場合じゃねーだろ)
恭弥と智美は、口調だけでなく、体から金色のオーラが滲み出ているティアの背中を見つめている。
「とりあえず、こいつらを倒せばいいのか?」
恭弥がリヴとティアの前に立つ。
「は?おまえなんかがたおせるわけないだろ!?くさっても、あいつらはもとカミだぞ?!」
「元、だろ?それに…こいつらに勝てないで、本物の神に勝てるわけないからな…」
「…クロ……」
リヴは恭弥の背中をジッと見つめている。
「クロ、勝算があるの?」
「俺だけじゃ無理かもな…手を貸してくれるか?クロミ」
「もちろん!私だって、いつまでも後ろで守られてるばかりじゃないんだから!行くよ!アル!」
智美もパートナーの蜘蛛と共に、リヴとティアの前に出る。
「私にもお手伝いさせてください」
「私もお願いします!」
ユキとルイも恭弥と智美の隣に来た。敵の一体が蛇だからか、ネロもやる気である。
「…ああ、助かる」
恭弥は一瞬驚いたが、すぐに微笑んだ。
「おねえちゃん…」
「大丈夫!ティアは私が守るよ!」
心配そうに見つめてくるティアに智美が笑いかける。
「…しんじていいんだよな??」
リヴが恭弥の背中に向かって叫ぶ。
「…任せろ」
恭弥はリヴを振り返らずに、その一言だけ残して、大きな狼と蛇に向かって突っ込んでいった。