ゲシュペンス島①
恭弥たちはネームプレートを握り、空中散歩を楽しんだ後、昨日探索したアリマン島の次に着いた島は、ゲシュペンス島である。
「ゲシュペンス島も図書館で見た本に書いてなかった?」
「あったな」
「どういう島なんだっけ?」
「妖怪とかがでるんだったと思うけど」
「うん…そんな感じがする…」
恭弥と智美、ティアの目の前には、廃れた昔の民家がいくつも建っている村があり、どんよりとした空気が流れている。ティアは不安そうな顔をして、智美の腰の裾をギュッと握っている。
「行くぞ」
恭弥は歩き始める。しかし、智美とティアは動かない。
「行かないのか?昨日はあんなはしゃいでたのに」
「だって…出るんでしょ?妖怪が…」
「あれ?お前、そういうの苦手だっけ?」
「ホラー映画とかは見るだけだから楽しめるけど、実際にやられるのは…無理!ほら、ティアも怖がってるし…行くのやめない?」
「…ティアのお兄さんがいるかもしれないんだから、一応見て回らないとな」
恭弥は、ニヤニヤと笑っている。
「クロだけで行けばいいじゃん!」
「俺、お兄さんの顔知らないし」
「…確かに…」
「ほら、行くぞ」
「あっ、待って!私たちも行くから〜」
恭弥が再び歩き出し、慌てたように智美とティアも早足で歩き始めた。
3人が村に踏み入ると、より一層不気味な雰囲気と心なしか冷たい空気が流れていた。
__カタッ
「!?絶対なんかいるよ〜…」
智美とティアは、ガシッと恭弥の腕を掴んでいる。
「うん、結構いるみたいだな」
「だよね…って、えっ!いるの?!!」
「ああ、家の中に気配がある…入ってみるか?」
「入んないよ!」
智美だけでなく、ティアもブンブンと首を振っている。
「まぁ、中に人の気配はないから、入って確かめる必要はないけどな」
「じゃあ、早く行こうよ〜!」
ティアは智美の意見に賛成のようで、うんうんと首を縦に振っている。その後も、恭弥たちは廃れた村をぐるぐると見て回った。
「ねぇ、誰かいない?」
智美は、広い庭がある大きな民家を指さした。その指の先には、黒い質素な着物を羽織り、犬のような仮面をかぶっている何かが庭先に座っている。
「プレイヤーかな?話しかけてみようよ!すいませ〜ん!」
「あっ、おい!そいつは…」
智美は、ゲシュペンス島で会った初めての相手が人の姿をしていた為、安心したように話しかけた。
(…なんでこいつはあんな無鉄砲なんだよ…)
恭弥はまだ腕を掴んでいる智美をチラッと見てため息をつく。
「あの…大丈夫ですか?」
終電を逃して駅前にいる人のように座りこんでいるそれを、智美とティアは覗き込んだ。
「あぁ…」
話しかけられたそれは顔を上げた。
「お、お嬢様!!お嬢様〜!!!」
それは急にティアに突っ込んできた。恭弥はサッと、それとティアの間に立ち塞がる。
「お嬢様…私でございます!ユキでございます!ずっと…ずっとお待ちしておりました…」
ユキは恭弥をすり抜け、ティアに抱きつくが、スカッとすり抜ける。
「おい!」
恭弥は声をあげ、智美とティアを自分の背中の方へ引っ張る。
「お嬢様…!お嬢様!」
「ティアちゃん!こいつのこと、知ってるか??」
「こんなひとしらないっ!!」
恭弥が質問した瞬間、ティアはブンブンと首を振る。その姿を見て、ユキはあからさまにショックを受けた様子で、ズゥーンとその場に膝をついた。