伊黒家とポートマン家⑧
「まさか…白虎…」
昔エデンが存在した場所に転送された恭弥たちが最初に目に入ってきたものは、美しく輝くオーロラだった。そして、耳には神の歌声のような音が入ってきた。それらは、恭弥がアムシュタークで初めて逃げた敵、白虎と出会った時のものと同じ光景である。
「白虎って、まさか…四獣の…ですか?」
「そうです」
恭弥たちはオーロラの下にいる大きな影から目を離さない。そして、白い霧のようなものが晴れていき、その影の全体像が見えてきた。
「あれは…違う!白虎じゃないよ、クロ!」
「ああ、そうみたいだな…」
全体像が完全に見えた時、その上には名前が表示されていた。
◇◇◇
コンティノ〈青龍〉
◇◇◇
その名前の下には、青い鱗と白い毛を纏った、神々しさを感じさせるような大きな龍が佇んでいた。
「青、龍…こいつも四獣の一体か…」
「コンティノに敬意をって…そういうことだったのですね」
「えっ、どういうこと?」
「青龍、コンティノがエデンが崇める神のような存在ってことですよ」
圧倒的な存在感に恭弥たちは武器を構えたまま、一歩も動けないでいる。先にコンティノが動いた。
コンティノはフッと白い息を、ため息をつくように軽く吐き出した。その白い息は、一瞬で恭弥たちが立っている氷のフィールド全体を包み込んだ。
__パキッ
「冷たッ!」
足元からどんどんと体が凍り始め、白くなっていく。
(やばい…なんとかしなきゃ…)
恭弥は凍える手でアイテムボックスに手を突っ込んだ。恭弥が取り出したのは、先端にナイフのようなものが付いたワイヤーだ。
「オラァァァァアァァァァァァアア!!!!」
恭弥は寒さで近くにシェリーやキーラがいることを忘れたかのように人目を気にする様子もなく、大声で叫びながら、ワイヤーをブンブンと回し始めた。ワイヤーの回転はどんどん速くなっていき、ワイヤーはまるで止まっているかのようであった。そして、その勢いよく回るワイヤーは扇風機の強のように、もの凄い風が発生し始めた。その風は、辺り一体を包み込んでいるコンティノが吐いた白い霧を上空へと誘導していく。
__パキッ…パキパキ
叫びながらワイヤーをぶん回す恭弥だが、白い霧を完全に氷上から取り払うよりも先に体が凍りつきそうである。
(…こいつばかりにいい格好させた…ままで終わってたまるか…ッ)
キーラは遠のきそうになる意識を、唇を噛み締めることで耐えた。そして、腰に挿してある2本の剣を抜く。
(見せましょう…私の剣舞)
キーラはまるでサーカスのように剣をクルクルと回し始めた。恭弥より回転の勢いはないが、何故か恭弥と同じくらいの勢いで白い霧が上空へと誘導されていく。恭弥は嫌がる風を無理矢理誘拐するかのようだが、キーラの場合は嫌がらない風を先導するかのようである。
少しして、周りに充満していた白い霧が完全に消え去った。
「【煎水作氷】」
霧が消え去った途端、コンティノの背中から声がした。その瞬間、コンティノは口から青白い光線のようなものを恭弥たちに向かって放出した。
(くそっ…動けないッ)
恭弥たちは足が凍りつき、上手く動けない。しかし、1人例外がいた。シェリーである。氷属性への耐性が強いのか、動きは鈍りつつも、凍りついてはいなかった。
(スキルを発動する時間はない…でもッ…キョウヤ様を…ッ!)
シェリーは、キーラと恭弥と智美の一歩前に出て、バッと両手を広げた。そんなシェリーに青龍が放った光線が直撃した。