プロローグ
世界初のVRMMO「アムシュターク」
2035年、アメリカのゲーム会社“フォース”が誰でもかぶるだけでVR世界を体験できるヘルメット型の機器“ノヴァーツ”を発表してすぐに世界中で人気になった。
20歳になってから15年間、傭兵として働いていた伊黒恭弥は昨日で傭兵稼業を引退した。理由は単純、今後生きていく上で十分な金が溜まったからだ。
恭弥は目を覚まして、しばらく布団の上でボーっとしていた。
「いい加減起きたら〜」
下から声が聞こえてきたので、近くにあった目覚まし時計を確認すると朝の11時を指していた。15年間、傭兵として働き続けていた恭弥にとって、こんなに遅く起きるのは久しぶりだった。
「おはよ〜」
欠伸をしながら、下に降りると食卓に昼ご飯?が並べられていた。
「仕事を辞めたからって、だらけすぎじゃない?」
冗談混じりに話しかけてきたのは、恭弥の妹、伊黒智美である。
智美は、恭弥の5つ年下で25歳の時に結婚して、子供を産んだが、結婚した男に捨てられて、今は恭弥と一緒に暮らしている。恭弥が傭兵を辞めたのも、智美とその子供である明美に心配をかけたくないという理由もあった。
「私が15歳でお兄ちゃんが20歳の時にお母さんとお父さんが事故で亡くなってから、15年か〜」
しみじみと智美が言い、恭弥もその当時のことを思い出していた。
両親の訃報を聞いた、当時大学に通っていた恭弥は、すぐに大学を辞め、傭兵稼業を始めた。恭弥は頭の良い方ではなかったが、小さい頃から自衛隊である父親に武術を習わせられてきたので、傭兵のセンスはあった。
そして、当時中学3年生だった智美は成績も良く、賢い子であったが、高校に行くか迷っていた。
恭弥は、頭のいい智美だけは高校と大学を出て大人になって欲しかったので、傭兵としてお金を稼げることを証明するために、より傭兵稼業に精を出し、余裕で学費を払えるくらいには傭兵として活躍するようになっていた。傭兵を始めて10年も経つ頃には、最強傭兵“黒の一匹狼”と呼ばれ、傭兵界隈では有名になっていた。
恭弥が昼ご飯を食べ終わって、リビングでだらけていると
「もう仕事がないんだったら、何か趣味とか見つければ?」
と智美が提案してきたので、確かにと思い、近くのショッピングモールへと出かけることにした。
「こうやって、街を歩くのも久しぶりだな〜」
と呟きながら、面白そうなことがないか色々見て回った。
しばらく歩いていると、ある広告に目が止まった。
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【アムシュターク】
世界で初めてVRMMO!!
現実世界ではできない冒険・出会い
VRだからこそ味わえる感覚をあなたに
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ゲームに興味はなかったが、体を動かすことは好きで、VRだとどうなのかという好奇心が湧いてきたらしい。
店に入り、そのゲームを買うとそのまま家に帰った。
家に着くとすぐに、ヘルメット型機器“ノヴァーツ”をセットし、布団に寝転んだ状態で装着した。
右耳辺りにあるスイッチを押すと視界が白くなる感覚がして、何も見えなくなった。