シャルルと不思議な猫の恩返し
「ちょっとアルフレッド! 本ばかり読んでないで大掃除を手伝ってよ!」
『うるさいわ! こっちは原稿の締切が近いんじゃよ!』
「仕事と家の掃除、どっちが大切なのよ!」
『仕事に決まってるだろーが、バカドリー!』
「あ、バカって言ったわね! バカは言ったほうがバカなのよ!」
『うっさいわバーカ! 胸がぺったんこのバーカ!』
「んなぁぁ! ゆ、許さないんだから。ギルマスに言いつけてやる!」
「ただいまー」
『残念だなドリー。あいつは今、エルニア公国へ出張中だぁぁ!』
「だからどうしたのよ! いくら勝ち誇ってもギルマスは帰ってくる。吠え面をかく姿が楽しみだわ!」
「え、えっと……。た、ただいまー」
『そうか、なら決着をつけなければならないな。この長きにわたる戦いに!』
「そうねアルフレッド。アンタが二度と私に逆らうことができないようにしてあげるわ」
『やるぞ、野球拳! お前が負けたら服を脱ぐ! ワシが負けたら中身を読ませる。降参するまでやり続けるぞ!』
「やってやろうじゃない! アンタの恥ずかしい思い出、読破してやるわ!」
「二人とも、ただいまー!」
『「おかえり、シャルルー!』」
「変なことで盛り上がらないでくださいよ! しかも私を置いて!」
『いやー、すまんすまん。ついヒートアップしてしまったわい』
「もぉー! 石達も見ているんですからやめてくださいね!」
「やめるも何も、石って興奮するかしら?」
「とにかくやめてください!」
「はいはい」
『わかったわかった』
「本当にわかったんですか? もぉー」
「それよりシャルル、頼んでた石鹸は買ってきた?」
「え、えっと、それがそのぉ……」
「アンタ、もしかして変なことにお金を使った? あ、またスレインから石ころ買ったでしょ!」
「そ、そんなことしてないですよ! でも、お金は確かになくなっちゃって……」
「どういうことよ?」
『ここにいたか、恩人よ!』
「ふえっ!?」
『なぜニャーから逃げる! 恩人、ニャーはあなたのためにとびきりのプレゼントをしようと申し出ているというにょに!』
「い、いらないって言ってるでしょ! というか、なんでついてきたんですか!」
「…………」
『…………』
「ねぇ、アルフレッド」
『なんだ、ドリー?』
「私、夢でも見ているのかしら? 猫がピシッとスーツを着てピシッと背筋を伸ばしてピシッと立っているんだけど」
『ワシも同じ光景が見える。もしかするとワシら、まだ夢の中かもしれないな』
「よし、じゃあ大掃除をやめて寝ましょう。そうすれば目が覚めるはずよ」
『ワシも筆を置くかな。目が疲れているかもしれん』
「二人とも、ふざけてないで助けてよ!」
『にゃにゃー。そうかそうか、そちらにいる方々は恩人の同居人か。これは申し遅れた。ニャーはニャルヒネル二世という者にゃ。シャルル、いや恩人に恩返しをしたいと思い、参上したにゃ』
「シャルルに恩返し?」
『それは一体どうしてなのかな?』
『ニャーには生まれ育った国があるにゃ。当然、王様もいて王子様もいるにゃ。とてもおだやかでポカポカした国にゃんだが、王子様が結婚をなかなかしてくれにゃいんだにゃ。だからニャーは旅に出た。王子様のお嫁さんになってくれる方を探していたんだにゃ。そしてニャーは出会った。行き倒れていたニャーにご飯を与えてくれた恩人、シャルルににゃ!』
「つまり、シャルルは王子様のお嫁さんになるってこと?」
『お前、とんでもない玉の輿になるな』
『幸せすぎて空を飛ぶにゃ! 王子様は優しい方だからしっかりかわいがってくれるにゃ!』
「だから、嫌ですって言ってるじゃないですか!」
『どうして嫌なんだにゃ? こんな大変な生活をしなくてもよくなるにょににゃ』
「何度も言ってますが、私はドリーさんや先生と一緒に探索したいんです。確かに大変ですけど、二人がいないなら絶対に嫌ですから」
『シャ、シャルル……』
「な、なんていい子なの――」
『にゃにゃ! なら全員、ニャンダフル王国に連れていくにゃ!』
「え? なんでそうなるんですか?」
『安心するにゃ。帰り専用の転移魔術にゃけど、一瞬で王国につくにゃ。そこでシャルルと王子の結婚式をやるにゃ!』
「ま、待って! 話を聞いてました!?」
『それじゃあ、行くにゃ。それゆけ、ニャンダフルぅぅぅぅぅ!』
「きゃあぁぁぁぁぁ!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」
『のおあぁぁぁぁぁ!』
「あたたたっ」
「ひどい目にあったわね、もー」
『視界が揺れる……。くそ、魔力酔いか』
「あれ、お城がある。ユルディアにあんなのあったっけ?」
「見て、二人とも! 猫がいっぱいいるわ!」
『もしやここは、あいつが言ってたニャンダフル王国か!?』
「「えぇー!」」
『不味いぞ、帰ろうにも帰り道がわからん』
「わ、私、猫のお嫁さんになりたくないですよ!」
「まさかここまでするなんてね。何にしても見つかる前に脱出しないと――」
『あ、御一行様を発見しましたにゃー』
「見つかったし!」
「や、やだぁー! 猫のお嫁さんになりたくないー!」
『逃げるぞ、お前ら!』
『にゃにゃ! なんで逃げるにゃ! 待つんだにゃー!』
『ワシらは夢中になって逃げた。しかし、いや案の定バラバラとなり、はぐれてしまった。どうにかドリーと合流したワシだが、思いもしない情報を耳にする。それはシャルルが王様と結婚するというものだった、と』
「何変なの書いているのよ? ほら、退いて。大掃除の邪魔」
『今佳境なんだ! ああ、インクが跳ねたっ。ワシの顔にぃぃ!』
「シャルル、石ころ捨てられたくなかったらしっかり寄せなさいよ」
「はーい」
『のん気でいいな、お前らは! くそ、締切が近いってのに!』
「何を書いているんですか、先生?」
『これか? ワシらを主人公にした物語だ。猫に囚われたシャルルを、ワシとドリーがカッコよく助けるという物語さ』
「面白そぉー! できたら後で読ませてください!」
『いいともいいとも。さて、頑張って書かないとな。やるぞワシ、負けるなワシィィ!」