待ってなさい
(逃げ切った……)
ギリギリに捕まえそうな瞬間は何回もあった。特にすれ違う時、捕まってからどうするかは分からないけどいいことはないのは確実だから、異能を地面にぶっ放し宙へ2~3秒間停止して距離を取った。
何故異能を相手に向かって放たないのは、攻撃系の異能は禁止だから。浄化系故に元々火の威力はコンロの弱火に当たる、けれどどんなに弱くても火傷を負わす可能性がある。ましてや、私がジェネルになってから火の威力は上がっている。怪我を生じた時点で私の異能に攻撃性が認められ、この試合はカウントされない。さらに必要以上に戦う相手の警戒心が高まる、温度の異変に気付かれる可能性もある。今でさえ向こうが何したいのかよくわかっていないのに、これ以上斜め上の方向で来られてはひとたまりもない。
とにかく今日は耐えれたから良いとして、それにしてもこんなに動いて顔に汗一つかかないこの体が本当に好き、自分元々超汗かきだから、夏になれば前髪が顔にくっつくし、学校に辿り着いた瞬間歩いて登校したにもかかわらず一人だけ全力疾走してきたみたいに汗がぽたぽたと地面にシミを作る。
それを見た悪友に毎回いじられる。
“あら、親友……今日も全力疾走してきたの?さすが、陸上部のエース!お疲れ様、よかったらハンカチ使う”
“いらない、ハンカチいつも私の貸りてるくせに。あと、勝手に私が入ってる部活を捏造しないで、安定の帰宅部だから”
“知ってまーす!本当いつ見でも不思議だね、どこからそんなに汗が湧き出てくるの?見てるこっちも汗出そう”
“ない汗を拭く動作をやめい、体質としか言い様がない。こういう時マジで体交換して欲しいと思うわ”
“その点については同意せざるを得ない、誰かこの陳腐な肉体を昇華させてくれないかなあ!"
“え、何?天国行きたいの..."
“そうだとも、私の追い求めた楽園。乙女ゲームの世界へ、さあ友よ、共に行こうではないか"
“はいはい、チャイム鳴るから先に教室行こうね"
(あれ、私あの時にフラグを立てた……ハハ、過去の自分殴り飛ばしたい、今ならきちんと実行できそう)
息を整え、制服も気崩れがないかをチェックした後、ピロに転移をお願いした。
「Au revoir、ピロが寂しくなる前に会いに来てね」
「ええ、来月にきっとまた会えますよ、待ってくださいね」
林に再び戻り、案の定さっきの人達が待ち伏せていた。
「ふん、今日は見逃してあげる。待ってなさい、次は必ずその制服を剥がしやる」
「まさか追い剥ぎが真の目的ですか、怖いです~」
「な...話すだけ無駄なようだったわ。みんな、行こう」と捨て台詞を言い残し、去っていく姿はそれはそれは颯爽としていて、自信に溢ているものだった。
(いや、私よりも余程悪役令嬢の役合うじゃないかなあ。才能あるわ、すぐやられそうなセリフしか言わないけとね)




