状況把握
日記内容を読み終え、椅子に身を預ける。
「重いわ。愛してるのだとよくわかっていたけど、やっぱり予想以上だわ。それならあのエンディングに走ったのも納得いく」
窓から反射する月光に照らされている少女はセミロングのオレンジ色を煌めかせ、小鹿のようなスカイブルーの瞳を目の前にある日記を向け夢中に読み進む。まるで、人の誰にも見せれない秘密を暴くような背徳感と興奮を感じながら、実際そうではあるけれど。でも、今は自分の秘密で言うべきかなあ。
「内容見る限り、もうストーカー寸前だよね。でもバレたら徹底的に終わるから、これ以上ひどくならないようにめちゃくちゃ抑えてるの健気なくらい文字から感じとれるなあ」
手で髪をぐちゃぐちゃにかき回し、ページをめぐる。
「きっかけはわからないけど、婚約者関係なのは間違いない、共に滅びるよりも自分を世界から消す。良心的だと褒めるべきなの、それとも“このバカ”で罵るべきなの。しかも、一番最悪なのはどれだけ文句言ってももう届くことがないこの現実だ」
椅子から立ち上がり、キングサイズのベットにダイブする。今、自分の状況を再整理する。
この世界は乙女ゲーム《Save Me》から誕生したものだ。時代は中世に当たりで8つの大陸に6つの国が存在する。異能があり、常人が理解できない存在もうようよ生きる世界。そして、大陸一つを占める学園が佇んでいた。各国から優秀な生徒を集め主に異能を鍛える、卒業すれば将来有望を約束されるマンモス校だ。もちろん、乙女ゲームの舞台もここから始まる。攻略対象は全員で確か6人、それぞれの大陸を代表する生徒や学園関係者だ。主人公は一般枠からの新入生、いろんなきっかけで攻略対象と知り合い、イベント通して悩みを抱えている攻略対象を救い、好感度を上げる。そして、邪悪な敵と悪役の婚約者や恋敵などからの妨害を乗り越え恋愛成就。最後は結ばれた攻略対象と共に学園を悪組織が企んだ崩壊計画から助ける。まあ、よくある乙女ゲームの設定だ。
でも、このゲームの愛好者から常に文句を言われるのが、このゲームハーレムエンドを用意していない、絶対的な一対一だ。今、自分が使っている体は日記でも書いてるように攻略対象の婚約者だ。主人公と同じ新入生で但し特別枠から入校、婚約者の気持ちを取り戻すために必死に足掻くけど、主人公に敵うはずもなく。最終的には婚約破棄からの深淵投入、主人公を傷つけた罪として。確かどのルートでも結局はなんやかんやで深淵行きが決定しており、違うのは心身状態の違いくらいかなあ。
正直に言おう、ゲームであればそれこそどうでもいい。しかし、これが今私の現実だ、まったくもって冗談じゃない。
申告しよう、私は乙女ゲームをほぼ遊んだことがないのだ!
このゲームを知ったのも悪友がこのゲームにドハマりし常にどこまで攻略したのとかあと攻略がいかに難しいかスチールと共に嬉々として教えてくれるから。今この状況において、すごく後悔しているもっとちゃんと話を聞いてあげればよかった、それなら事態把握と行動をもう少し何とか対応できそうなのに。
「なんで登校時、普通に角を曲がる行為に異世界転移とつながるのよ。いや、この場合は憑依それとも乗っ取り。でも彼女はもう死んでるから…
で言うかもっとよくある車に弾かれそうな子供を助けるためにとか寝てるときとか学校で友達と一緒に集まってるとき召喚陣が現れるとかそういうのが一般的じゃないの!
あと、確かにアニメも漫画も小説も読みあっさているけど、でももっと別の世界を所望したい、それこそここは悪友が来るべきでしょう!
もうツッコミたいところがありすぎで疲れる」