学園到着と試験
目を再び開いた瞬間、既に周りの景色は一変していた。
まず先に視線に入るのは大きく聳え立つ校門と壁、中の様子が全く伺えず、辺りは見渡せば森しか存在しない。
さらに、校門をガードする人影もなく、木々がそよ風になびく音しか聞こえない。昼間であるにも関わらずなんか不気味だ。
(陸一つ占有しているにも拘わらず、この閉鎖感。それとも内側で違う結界の異能で遮っているのかなあ)
「新入生だな、やっと来たが、さっさと入学テストするぞ。俺がお前の監督試験官だ。」
横から急に声をかけられ、振り向くと見知らぬ男性が気だるそうに立っていた。何轍したであろうひどいクマ、髪も服装も少し整えてきたように見えるが、清潔さとは程遠い。もう漂う社畜感、乙ゲーで登場してよいビジュアルではない。
「今からですか?」
「今じゃなければいつだ、お前はまだ入学してないんだろう」
「そうですけど、試験は学園内で行われるのではないのですか?」
「簡単に言おう、入学していないお前に門をくくる資格がない」
「そういうことですが、わかりました」
(ゲームの始まりは既に入学後、しかもヒロインは一般枠。経緯を知ったところで意味がない。しかし、この人は単純に特別枠の生徒を好んでないように見える。特権嫌いでやつかなあ)
「ついてこい、説明は道中でやる」
「その前にあなたが学園の関係者である証明はどこにありますか?」
「ほお、俺を疑うのか」
「当然です、入学前の学生失踪率は15%。私はその一人にはなりたくありません。ならば、疑うことは必須です。特に目的達成前の失脚はかなりこたえる。学園の敷地内とは言え意外はいつでも訪れます」
「だか、言うの早すぎないか」
「いいえ、ここだからこそ意味があるのです。」
(ここであれば、十分に学園が駆け付けれる騒ぎを作ることが出来る。物理攻撃として異能はあんまり役に立たないけど、使いようでいくらでも派手に演出することが出来る。)
「さあ、証明を」
じっと睨み合いながら、その間異能を溜める。
しばらくすると、
「合格だ」
「...」
(え、これでいいの?)
「やっぱり、特別枠のガキは面白くねえ。まあ、ヴィスフィデス学園へようこそ」
返事せず立っている自分を見て頭をぽりぽり掻きながら、ぶっきらぼうに歓迎言葉を言う。
それに合わせたように、重厚な扉がゆっくりと内側から開く。
「ほら、さっさと入れ。 異能テストやるぞ」
「お願いします」
「もう安心したのか?」
「いいえ、疑い出したらキリがありません。門も開きましたのでここで膠着しては時間の浪費です。」
「やっぱかわいくねえ」
門を踏み越えると、別空間にいた。
本当に別空間、校舎ではなく墓地が並んでいた。薄暗い街灯がちかちかと周りを照らし、空気も淀んでいて、幽霊とかゾンビにとってそれはもう最高の住処であろう。
しかも、隣にいたはずの監督試験官と名乗り上げた男の姿もなく。完全に置いてけぼりだ。
(落ち着け、確かに学園の扉を超えたはず。何故墓地、ここが自分の居所だとでも言いたいのが)
「おい、聞こえるか?ここが異能テストの場所だ、お前にぴったりだろう。やることは簡単だ、一時間でできる限り“幽霊”を排除せよ。」
「分かりました」
空間に響く試験内容を聞き、カサシス・イグニスを持つ私にとって、確かに簡単でかつご親切なテストだ。さあ、かかってこい。
「なんでゾンビとスケルトンが大量発生しているのよ!!!」
全速力で走りながら、最初はちょっとだけ墓から這い上がり、逃げる途中でどんどん部隊が膨張し。もうどれぐらいついてきてるのがわからない、移動速度はそこまで早くないけど、量が量だけに迫力満載だ。
今はどういう気持ちだというと、後悔だすごく後悔している。
(これ絶対どこかで監視して大笑いしているに違いない、図られた!)
通り道で幽霊を見つけ火あぶりして消し続ける、全部底辺幽霊ではっきりとした姿形はなく、ゆらゆらと自身の墓周辺に定まる方向無く徘徊しているのが特徴だ。全くもって私の異能の相手にはならない、例え今のこの状況でもだ。
(しかし、ゾンビとスケルトンは排除対象外だから、消したくでも異能使えないじゃん。なんとなく嫌な予感はあったけど、この量は何なんだよ!)




