問題解決はまだまだ
時間はあっという間に過ぎ、明後日からもう出発しなきゃいけない。
「最近、お嬢様はなんだか変ですわ?」
「そうよ、ずっと書斎と訓練室に引きこもって、口数もすごく減っていますわ。」
「旦那様も奥様もとても心配してらしゃいましたわ。」
メイド達のひそひそ話が耳に入り、最近の行動を思い返す。
(やばい、思わずオタク気質を出しすぎた。何が聞かれる前に対策を打たないと。ああ~ネットが恋しいせめて読んでた連載中小説を読み終えたい!!)
夕ご飯時、長テーブルに座り香りだけでもわかる美食は目の前に並び、食欲を刺激する。まして、訓練後だから尚更魅力的に感じる。
おいしい夕食を頂きながら、お父様が領地の出来事について、お母様は今日出向いたお茶会の話を聞く。本当いつ見てもお似合いの夫婦だよね。お父様はそこにいるだけで威厳を感じ取らせるとてもダンディな人だ、喩えるなら熟成したワインのように深みを醸し出している。対して、お母様は初印象のゴージャスさに加えどこが神秘的な雰囲気を纏っている、思わず見入ってしまう。すべてが絵に描いたような両親、それを子供の頃から見続けたジェネルにとってきっと理想な愛の形でしょう。
「ご馳走様でした、今日のお料理もとても美味でしたわ。あとで是非それをシェフにお伝えしてください。」近くのメイドに感想を述べながら、席を外そうとする。
「かしこまりました、お嬢様。」
「ジェネル、ちょっと座りなさい、話がある。」立ち去ろうとする自分にお父様が呼び止める。
「何でしょうか、お父様?」問いながら再び椅子に腰かける。
「単刀直入に言おう。ジェネル、最近はどうしたのだ?何が悩みでもあるの、お父様とお母様に教えてくれないが。」
心配そうに自分を見つめるお父様とお母様を見て、なんか急に悲しみが込み上げてくる。
(本当にいい両親だね、
でも何で答えたらいいのか全く準備していない、どうしよう…
バレるかもしれない、やっぱもうちょっと足掻きたい…)
ここまで考えて、長いため息がこぼれる。
「不安なの、急にこれから学園に向かうことが不安で仕方ありません。ずっと天才と褒められ続けた自分、でも学園にはきっと私の才を遥かに超える人が現れるはず、もしかしたら私はそこで“普通”になるかもしれません。その未来に恐怖を感じずにいられません、“特別”でなくなった自分をここまで育ってくれたお父様とお母様みんなに失望されるのではないかと、この力を手に入れてから初めてここまで自分の力不足をひどく感じました。」
俯いたまま自分が最近ずっと抱えている気持ちを吐き出す、両手は思わず交差し握りしめる。
「もう最近は自分が自分じゃないみたいで、一歩間違えばすべてが壊れる気がしてなりません。だから、もっと強くならなければ、自分が迷わないために生き残るために。」
「そんなことないのよ、ジェネル。」お母様がすごく悲しい声で話しかけてくる。
それを聞いて胸が疼く、すぐに頭を振る。
「そんなことないってわかっています!だから自分で消化するつもりだったの、心配かけないように。でも失敗しちゃいましたね、逆にお父様とお母様に心配をいっぱいかけてしまいましたね。ごめんなさい!」
椅子から立ち上がり、深くおじぎする。
(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!
最愛の娘の死を知らせることすらができない卑怯で嘘つきな自分で、せめて謝りだげでもきちんとしたい)
この場面を迎える前に本当は避けようと思えば方法はあったはず、では何故ここに来てからずっと周りと接触極力控えている本当の理由も私は知っている。両親や屋敷の人々が無意識な時でも感じ取れるジェネルへの愛に私はどう反応すればいいのがまったくわからなかったのだ。両親がそれぞれ再婚し子供が生まれている自分にとって親の愛はすごく曖昧な記憶しか残っていない。確かに自分を生み育てる人達ではあるにもかかわらず、何故か時々ひどく遠く感じる。だから、自分だけに向けてくれる親の愛に戸惑い羨ましかったと思う、同時に消しようがない罪悪感に苛まれていた。避け続けることであわよくば、このまま疎遠して学園へいけるのなら最適だとすら思っていた。
「ジェネル、顔を上げなさい!君は自分を誰の娘だと思っている、この国で5人しかいない侯爵の一人娘だ。」
考え込んでいたら、いつの間にか目の前に両親が立っていて。お父様の力強い声が耳に響く。頭を上げ、ここに来てから一番厳粛な顔をしているお父様と涙目のお母様見て自分も涙で視線がぼやけていた。
「生まれた瞬間君はすでに特別だ!例え周りからあなたを疑っても、俺とミレーヌにとってジェネル君は他の誰にも比べることができない最高の特別だ。」
「そうよ、ジェネル。何も迷うことはないわ、私達がいつまでも見守っているから。」
ずっと我慢し続けた涙が溢れてくる、嗚咽を押し込みジェネルの記憶で見た最後の笑顔を思い出しながら言う。
「お父様お母様、大好きです!」
でも、この時私は全く気付かなかった、お母様はこれが初めてちゃんとジェネルの名前を呼んでいることに。




