お茶会
孫と曾孫たちが帰った後、私は横になり目を閉じました。
──夢うつつに、十年ほど前の、若様と真琴さんが眠る山を訪れた時のことを思い浮かべました。
「あらまあ、こんなに立派になったのね」
有島の屋敷と丈部の館。その両方を合わせたよりも大きくて華やかな薔薇園。かつては荒れ果てていた丘が、今では多くの観光客が訪れる、薔薇が咲き誇る美しい丘となっていました。
「若様、真琴さん。どうですか、私がんばったんですよ」
二人の名前が刻まれた石の前で、私は手を合わせ微笑みました。真琴さんの遺志を継ぎ、荒れ果てた丘を薔薇が咲き誇る場所にしようと考えたのが四十年前。事業は難航し、相続した丈部の財産を使い果たしてしまったけれど、立派な薔薇園となっているのを見て肩の荷が下りた気分でした。
「もうじき私もそちらに行きます。思い切り自慢話させてくださいね」
私がそうつぶやくと、穏やかな風が吹き、薔薇の香気が鼻腔をくすぐりました。
イケないな、もう少しのんびりしてからおいで。
若様のそんな声と、真琴さんの柔らかな笑い声が聞こえたような気がしました。
──ええ、そうですね。でも、もう十分のんびりしましたよ。
「いい加減、私に自慢話をさせてください!」
夢の中で少女に戻った私は、薔薇園の中で優雅にお茶を飲む若様と真琴さんに文句を言いました。
お二人はあの頃のまま、相変わらずの美男美女カップルです。
「やれやれ、イケないな、そんな大声を出さなくても聞こえるよ」
「では、お話を聞かせてもらいましょうか」
若様が立ち上がり、椅子を引いて「どうぞお嬢様」とおどけました。私は「ありがとう」と淑女らしく立ち振る舞い、優雅に腰を下ろしました。
真琴さんが真新しいカップにお茶を淹れてくれました。それを一口飲むと、重かった体がふわりと軽くなりました。
「時間はいくらでもあるよ。さあ、好きなだけ自慢したまえ」
若様の楽しげな声と、真琴さんの優しい笑顔。
私は満面の笑みを浮かべ、私の人生がどれだけ幸せだったのか、ゆっくりと語り始めました。
※このお話は 雨音AKIRA さまの
「背景画集 ~薔薇騎士物語の世界~」-「薔薇の庭園」
https://ncode.syosetu.com/n7608fp/2/
に掲載のイラストに着想を得て書かせていただきました。