1-3
小学校に通っていたある時、自分の「力」が暴走し、自分の同級生を傷つけたせいで、僕は犯罪者の様に粗末に扱われるようになった。
だが、暴力的な感情があってした訳じゃない。
暴走する直前、ある友達が野良犬を虐めていたのだ。
それを止めようとしたら、「いいんだよ。野良犬なんだから!」と言って僕を突き飛ばした。
その言葉によって自分の中の何かが切れたような感覚がした。
全身に流れる血がぐわぐわと流れるのを感じる。心臓が鼓動する度に電撃が体を走る様な感覚に陥る。
そして僕は言い放った。
「野良犬が良いなら、お前らみたいなクズ人間でもいいんだよなぁ。」
体の周囲から黒い、うねうねとしたオーラが姿を現す。
「俺がお前らをぶん殴ってもいいんだよなあ!」
そして僕は怒りの感情に身を任せて、前に走り出した。
僕に倒された同級生達は入院した。
そして僕はあの騒動後、先生に散々怒られた。
何とか大人達に事情を受け入れられたので、退学処分が下ることは無かった。
しかし……
「江崎ってさ、めっちゃ不気味じゃね?」
「な〜。マジで不気味だから嫌なんだよね。○○達も江崎が怪我させたんでしょ? 」
「そうそう。てか、アイツの親、2人共死んだらしいよ。」
「マジ?」
「あのさ、アイツの親、アイツが殺したってことにして噂流さね? そしたら、アイツこの学校から消えんじゃね? 」
「いいねそれ。さっさと追い出そうぜ。」
少年達がゲラゲラと笑う。
教室の端の席に座っていた僕に向かって、彼らは僕をのけ者扱いした。
感情に身を任せてた僕も、野良犬を傷つけていた彼らも悪い。
だが、それで僕だけがこんな扱いを受けるなんて。
全てはこの力だった。もしこの力がなければ……。
ジリリリリリリリリリリ!
「うっ、うるさい……。」
彩人は右手を懸命に伸ばし、目覚まし時計を止める。
重い瞼を何とか持ち上げて、手に取っていた時計を確認する。
時刻は6時30分。
彩人はマンション住まいなので、彩人は自分の部屋を持っている。
最近はあまり見ていなかったが、昨夜はあの頃の夢を見てしまった。
原因は昨日のせいだろうと思い、ため息をつく。
昨日魔物に襲われ、少女に助けられ、そして自分と同じ、訳の分からない力を彼女が持っていた。
しかし、彩人と彼女との間にある決定的な違いは、「力とどう向き合うか」という点だ。
彼女は「力」を自分の道具、いや、自分の体の一部である様に話していた。
だからこそ、彩人は彼女がその力を憎まずにいられる理由が分からなかった。
朝食を簡単に作り、食べる。
大抵は食費を抑えるために自炊する。疲れていたりすると、コンビニに頼ってしまうが。
だが、自分が作った料理が健康的で美味しいと思う。コンビニの味は味付けが極端で美味しくないのだ。
時刻は7時半。
今日は平日で、学校に行かなければいけないので、食器を片して学校の準備をし始める。
すると部屋のインターホンが鳴る。
「は〜い。」
とインターホンに応答すると、気だるい朝とは思えない程元気で、少しカタコトな声がインターホン越しで聞こえてきた。
「学校行くよアヤト!」
彩人は玄関のドアを開けて、完全に起きてない声で挨拶する。
「おはようカローナ。」
カローナはこの国がモンスターで溢れかえる前から日本に滞在しているアメリカ人だ。
本来であれば、帰国すべきなのだろうが、彼女は4年経った今でもこの要塞に残っている。
彩人達のいる要塞は「首都圏大要塞」、略して「首塞」と呼ばれている。
広さはおおよそ東京全土から周辺の県を巻き込む様に建てられている。
この他にも日本には幾つかの要塞が存在している。
その中でも首塞は1番大きい要塞である。
しかし、そう言っても完全に安全である訳ではない。
人が集まれば、それを狙う魔物も増える。
それに対処する為に、国が「魔物対策基地」を各要塞に造った。
「首塞」ではその本部(魔物対策本部)が建てられている。
ここまで考え抜いたとき、あの少女のことを思い出す。
「あいつも・・・主塞所属の一員なのかな・・・。」
「どうしたんですか?アヤト。」
どうやら、気づかない内に考えてることが口から出てしまっていた。
どうやら僕は疲れているらしい・・・。
カローナを心配させるわけには行かないので、彩人は適当に流した。
「んーん。何でもないよ。」
当然彼女は顔をしかめるが、彩人はそれに気づかぬふりをして、早歩きで歩を進めた。
カローナとは違うクラスなので、廊下で別れて自分のクラスに入る。
高校では僕のことを知る人間がほぼいない、というか友達がいないので、最近はいじめられることもない。
友達はいなくても生きられる系の性格だからなんともないが。
チャイムが鳴り、担任の先生が入ってくる。
今日も気だるい一日が始まるのか……なんて考えていると担任の先生が話し始めた。
「みんな!おはよう!」
……いつもの熱量以上の挨拶が聞こえてきて驚く。
いつもは元気がない、根暗で評判な男で有名なのだが……。
その理由はすぐに分かった。
「今日はみんなに良い知らせがある!」
『おおっ!』
クラスの陽キャラ男子が声を上げる。
「なんと!今日からこのクラスに転校生が来た!」
その瞬間、クラス中から色んな声が聞こえてくる。特に男子はみんな『女子なのかぁ!』と口々に言う。
やめてやれよ……プレッシャーじゃんかと思えど、この状況を収拾できる程のコミュ力はないので、黙って机に顔を伏せる。
騒がしい生徒達を静止することなく、先生は口を開く。
「とりあえず入ってきてもらおう!いーよ、入って。」
すると、前のドアが動き、廊下から1人の少女が入って来た。
一切遊んでない、綺麗な黒髪。真っ直ぐ見据えた目。
それは間違う事がない。僕を助けてくれた彼女だった。
動揺する僕を見る事なく、彼女は口を開いた。
「辻岡沙良です。よろしくお願いします。」