結
「――んで、今回もなにも見つけられずに帰ってきたわけか」
ツチノコ探しの翌々日。
こちらの報告を聞いてゲラゲラと笑っているのは、大学内での数少ない友人――いや、悪友だ。
缶コーヒー程度の小物でも、顔が整った人間が持つと絵になるのだから、思わず嘆きたくなる。
「あぁ、山を降りてラーメンを食べてから解散したよ。テントで起きた時にもアレを結構食べてたと思うんだけど『今はワリカタより、バリカタが私を呼んでいるっ!』ってさ」
「あのちんまい身体の、どこに入るのかねぇ……」
「本人の前で言うなよ? 気にしてるんだから」
普段は講義の後や、帰りに偶然会ったら遊びに行く程度の接点だが、今回は僕から連絡を取った。
というのも、ワリカタの目撃情報について聞きそびれていたので、大学で顔が広いコイツに頼る運びとなったわけだ。
「それでまぁ、本題なんだけど――」
「お前が探すのを頼んでいた、司書みたいな人な。大学にはいなかったぞ」
「あれ、そうなのか?」
「そもそも、日本人離れした銀髪の美人さんなんて、いたらすぐ分かるっしょ」
「確かに……」
だとしたら、あの日会ったのは偶然だったのだろうか。
しかし、そんな人がどうして、僕の所属同好会を知っていたんだ?
……深くは考えないほうがいい気がする。
「あんまりフラフラして、ちびっこ先輩に愛想尽かされるなよ?」
ニヤニヤといやらしい笑みをしながら、からかってくる。
「そんなんじゃない、余計なお世話だ」
「なら、さっさと告白しちまえよ。手遅れになってからじゃ遅いぜ?」
「分かってる、分かってるんだが……」
今の関係が壊れないか、心配なんだ。
でも、このままで良いとも思っていない。
「……おーい、後輩くーん!」
中庭にいる僕に向かって、手を振る姿とともに聞き慣れた声が、遠くから届く。
「ほら、呼んでるぜ。……さっき言ったこと、忘れるなよ?」
「あ、あぁ……」
背中を押し、追い払うように手を振る友人。彼なりの励ましなんだと受け取り、手を振り返す。
さて、ワリカタの件について、先輩になんと言い訳をしたものかな。