表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

「しょ、しょうがないじゃないかぁ! 今朝帰ってきて、今日のお昼までしか時間がなかったんだから!」


「それなら、もう少し情報を集めてからでも良かったのでは……」


 隔日(かくじつ)で活動したことは今までもあったけれど、連日は初めてじゃないだろうか。


 おっと、今なにか動い……兎か。


「だって、早くしないと後輩君の予定が埋まっちゃうんじゃないかと思って……」


 声をトーンダウンさせつつ、怒られている子どものようにしょんぼりとしてしまった。

 部室の時もそうだが、そうやってしょげた顔をするのはずるいと思う。普段はとても明るいのに、このギャップは否応なしに僕を惹き付ける。


「……先輩も知っての通り、僕は友達が多くはありません。なので、言ってくれればいくらでも付き合いますよ」


 遠くの風景から目線を外さずに答える。今の顔を見られるのは、少し照れくさい。


「……分かった」


 少し持ち直したのか、返事ははっきりしたものだった。


 それから少しの間。

 互いに一言も発すること無く、僕は山の生態系の調査を行い、先輩はアレを一房(ひとふさ)消費した。




―――




「ところで、毎回私が情報を仕入れている気がするんだが、キミもなにか未確認生物について情報はないのかい?」


 二房目も半分を過ぎた頃、テントの中から先輩が聞いてきた。

 その間、ツチノコを探すのは(もっぱ)ら僕の担当だった。(いま)だに、その姿は確認できない。


「そういえばそうですね……なにかあったかな」


 さて、と考え始める。書物として知った知識はあれど、口伝(くでん)で知ったものはあるだろうか。

 いや、そもそも講義の時間外に人と話すことは、殆ど無いじゃないか。


 自身の交友関係の少なさに、我ながら呆れてしまう。


 ……いや、待てよ。そういえば――


「以前、学食で食事をしている時に教えてもらった話が、一つありますね」


「ほほぉ! 興味深いね、一体どういう話なんだい?」


 お腹が満たされたのか、中で仰向けに寝転がりながら耳を傾けている先輩。当初の目的を忘れているかのようだ。


「『ワリカタ』という怪異の話ですが、聞いたことはありますか?」


「いや、初耳だね。どういった内容だい?」


「人型の怪異で、見た目は人そのものらしいです。ただ、特定の言葉とその意味について知らないので、そこで見分けられるとその女性は教えてくれました」


 説明を終え、語ってくれた司書風の女性を思い出す。講義では見たことがないから、おそらく同学年ではないだろう。

 校内の図書館受付でお世話になったことはないが、もしかしたら本当に司書なのかもしれない。


「女性、だって……?」


「? えぇ、僕がUMA同好会の人間だと知っていたのか、相席になった時に――」


「っ!! 後輩君! 私というものがありながら、キミってやつはぁ!!」


「せ、先輩っ!? 僕が聞いてほしいのはそこじゃないです! あと、あの女性とは特になにもないですから!!」


 本筋ではなく別の場所に反応されてしまった。そして僕は、先輩の彼氏ではない。

 残念なところである。


「そ、そうか。それならば良いんだ、うん! キミも分かっているじゃないか! はっはっは!」


 意図せず怒られ、いつの間にか納得されて、少し困惑する。

 ただまぁ、これで話を進められるならば、良しとしておこう。


「落ち着いたところで先輩。この話、どう思いますか?」


 ふむ、と言いながら、顎に手を当てて考え始める。背伸びして大人の真似をしているようで、少し微笑ましい。


「人への擬態(ぎたい)といえばドッペルゲンガーを思い出すけど、性質はまるで違うね。外面は取り繕っておきながら、特定の知識がない、か……」


「はい。見分ける基準として提示されている以上、特定の言葉とは、おそらく専門的な知識が必要な事柄ではないと思います。僕も、トリニトロトルエンの化学式は書けませんし」


「その条件なら、文系大学のうちの学生は、殆どが厳しいだろうね。しかし、その仮説には同意だ」


 とすると、一般常識レベルの知識がないモノが怪しい、か……?


 思考の海を泳いでいた僕を呼び戻すかのように、


「分かった!」


 という大声が背後から突然聞こえ、その場で少し飛び上がってしまった。


「なにが分かったんです?」


「ワリカタのことだよ! 人に擬態しながら一般知識がない……これは宇宙人が、地球を視察している証拠に違いないっ! つまり、正体は宇宙人だ!!」


「それはさすがに無理が――いや、有り得るの、かな……?」


「よし! 次に探すのはワリカタで決定だっ! さっき言った通り、ちゃんと付き合ってくれよ?」


「仰せのままに、会長殿」


 結局、ツチノコが見つからないまま日付は変わり、就寝することになった。


 UMAが見つかるのと先輩の寝相が良くなることだと、どちらが早いだろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ