”高度(標高)”が”レベル”になる世界
短編初投稿です(笑)
高度がレベルになる世界。
そのまんまの意味だ。
自分が今いる高さから1m高くなれば、レベルが1上がる。
地球で考えれば、
海面で泳いでいればレベル0。
エベレストの上に突っ立っていればレベル8844となる。
一般的には、レベルが1上がれば各ステータスに1~3が付与されると言われている。
ステータスには体力、魔力、敏捷、器用、運があり、それぞれ初期値は20だ。
特に魔力によって発動できる魔法は強力で、最大まで上げれば10平方キロメートルを更地にできる。
このステータスを上げるために、世界の頂点では日々争いが繰り広げられ、屍が積み上げられる。
そして、頂点に登り詰めた者は、”世界の王”として君臨する。
タチの悪いことに、この世界のレベルは『ハイスコア』制なのだ。
一度世界の頂点に登ったものは、永遠にその能力を失うことはない。
だから、人々は高みを目指す。
いつか世界の王となる日を夢見て。
そんな世界に、ある時、高度4000mの山岳地帯の集落に男の子が生まれた。
彼は幼い時から聡明で、尊敬と畏怖の感情を込めて”神童”と呼ばれた。
彼の正体は異世界転生者だ。
21世紀の日本から来た彼は、空を自在に飛び回ることが出来る”飛行機”というものを知っている。
そこで、彼は”空を飛ぶ”という方法でレベルを上げようとした。
しかし、この世界の技術力では飛行機など作れる筈がない。
彼が目を付けたのは魔法だった。
その魔法の中に、魔力5200以上で取得できる『転移』と言われているものがある。
この魔法は1km以内に転移できるが、外れ魔法と言われている。
念入りに場所を指定しないと地中に埋まるし、再使用には2日もの時間を要する。
起死回生の一手として逃げに使われることがあるが、大体の場合は魔力の残影から転移先を特定され、追撃を喰らってTHE ENDだ。使えるのはせいぜいレベル500以下に囲まれた場合ぐらいだ。
彼は、この魔法で上空1kmに転移できるのではと考えた。
試しに1m上に転移してみた。
成功だった。
レベルも1上がっていた。
しかし、このままだと連続で転移できない。
一度だけ1km上にテレポートしたとしても、せいぜいレベルを1000上げてから地面とキスするだけだ。
彼が次に目を付けた魔法は魔力3000以上で取得できる『魔法保存』だった。
その名の通り魔法を保存することが出来る。
保存する数に制限はないが、再使用には10日もの時間を要し、丸一日眠りについてしまう。
とても頂上を目指す者たちに使えるものではなかった。
彼がこの二つの魔法を発見するまでに要した時間は僅か2日。
魔力量は二つとも余裕で取得できる6586だ。
そこからは、『転移』を『魔法保存』で保存し続けた。
幸いこの集落はステータス以外の場所も鍛えられており、度々頂上を目指す者に襲撃されていたが、集団戦法と圧倒的な戦闘技術数人の犠牲者を出しながらも勝利していた。
この集落では農業と酪農が行われていたが、食料が足りなくなると、傀儡にしている平野部のレベル500以下の国から奪い取ってくるので、彼が眠っていても怒られたりはしない。
むしろ『よく考えるからエネルギーを使って疲れている』と好意的に受け止められていた。
目が覚めるたびに食事が豪華になっていくのには流石に困惑したが。
そして彼は15歳の誕生日を迎える。
多くの集落の者が旅に出るか、ここに残るかを決める年だ。
戦闘技術も同年代でトップクラスになっていた彼は、ついに作戦を実行することにした。
彼は旅に出た、ということにして、付近の山岳地帯で最も高い場所を目指した。
道中一人の頂上を目指す者に襲われたが、200以上のレベル差を全く苦に感じることなく完封。レベルだけの雑魚に負けたりするほど柔な鍛え方はしていない。
少しずつレベルが上がっていくのに笑みをこぼしながらも、目的の場所についた。
ここの標高は4500m。
彼は深呼吸して、辺りを見回す。
誰もいない。
とうとうこれまで貯めてきた500回分の転移を解き放つときが来た。
そのうち半分を行きに使い、残りを帰りに使うつもりだ。
今の世界の頂上は8045m。
これから250000レベル上昇することを考えた彼の顔は、歪にゆがんでいた。
何故なら、この世界では5000レベルの差があれば傷一つ付けられないと言われているからだ。
現在の”世界の王”如きは作りだす風圧だけで余裕で殺傷出来るだろう。
空を見上げる。
雲一つない青空だ。
まるで空が彼を祝福しているかのようだった。
もう一度深呼吸を繰り返し、目をつむった。
そして彼は叫ぶ。
「転移ッッ!」
刹那、体がぐいっと持ち上がる感覚がした。
目を開けると、自分が青空に浮いていることが分かった。
幻想的な風景だ。
落下が始まったころ、彼は本来の目的に気付き、再び叫ぶ。
「転移ッッ!」
◇
10回程叫んでいると、体が凍えてきた。
成層圏下部に到達したのだろう。
気温は-50度ほど。
前の世界では確実に凍死確定だ。
だが、この世界は違う。
体力が肩代わりしてくれるのだ。
ここから暫くは、叫ぶたびに温度が上がっていく。
オゾン層が紫外線を吸収しているのだ。
紫外線があるということは、この世界にも太陽はある。月は3個だが。
しかし、計50回ほど叫んだところで再び気温が下がっていく。
80回目にもなると、-100度近くになった。
ここまでは中間圏とならったことがある、と叫ぶのに精いっぱいの思考の中で彼は考えた。
それからはまた気温が上がっていく。
熱圏に到達したのだ。
250回目には1500度ほどになった。
レベルが254267(転移してから叫ぶまでの間のロスがあって少し低い)になったことに満足し、下を向く。
異世界も、地球と同じく青かった。
「転移~~~ッ!」
声にならないほどかすれた声で彼は叫んだ。
気温が上がったり下がったりしながらもと来た道を辿る。
やがて、見慣れた山岳地帯が目に入ってくる。
1時間も経っていないのに、酷く懐かしく感じられた。
いつの間にか、彼の目には涙が浮かんでいた。
ああ、何もかもが懐かしい...
最後に、地面に埋まらないように微調整し...
「転移ッッ!」
着地。
ああ、酸素がある。
山岳地帯なので平野部より薄いが、それでもないよりはよっぽどマシだ。
彼は再びレベルを確認する。
254267。変わっていなかった。
彼は思わず高笑いを始める。
その顔は歪に歪んでいた。
「フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!」
通りすがった頂上を目指す者がぎょっとしながらも、彼に仕掛けた。
瞬殺だった。
彼の拳が頂上を目指す者の脳天を貫いた。いや、貫く必要すらなかったのかも知れない。彼の拳が放たれた時点で風圧が先に脳天を貫いていたからだ。
頂上を目指す者は彼が動いたことすら視認できないままその一生の幕を閉じた。
彼は山を下り、平野部を目指す。
彼が真の”世界の王”となった瞬間だった。
もはや、この世界、いや宇宙で彼に敵う者はいない。
人類に残された選択肢は、”服従”か”死”の二つだけとなってしまったのだ。
面白かったらブクマ・評価・感想等頂けると有り難いです。
長編で書こうとも思ったのですが、この先の展開が考えられないので...
「まな板姫様に魔王を釣ってくれと頼まれた件」も連載しておりますので、そちらもよろしくお願いします。