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第2話 アルナイ

 美味い食事のために人を殺せるのが職業殺し屋だ。少なくとも僕はそう思っている。

 人によっては快適な眠りのためという奴もいる。女とよろしくやるためだと答える奴もいる。ギャンブルの種銭のためだと答える奴もいるだろう。

 殺しを生業とする者は殺しに酔ってはいけない。

 一撃にて殺す。

 ニ撃目など存在しない。

 ジャイアントキリングに挑む時は特にだ。


「姫さんからの依頼。とびっきり厄介な相手のようだな。」


 朝一から仕事の依頼だ。朝食を取ってる時間はないようだ。せっかくいい卵があるから卵かけご飯を堪能しようとしてたと言うのにだ。

 とはいえ切り替えは大事だ。

 ターゲットは紫電の魔王サダラムラーマと名乗る危険人物。ショッピングを楽しみたいから店が開き始める前に処理しろとの事だ。

 現在時刻は8時。店が開き始めるのが9時くらいからだから1時間もない。相変わらずの無茶ぶりだ。

 この街を治めるアモン会議の1員でなかったら受けてなかっただろう。

 仕事道具の入ったリュックを背負いターゲットが暴れているヴィヌシュ広場へと向かう。ここから歩いて10分の場所だ。

 ぶらりとまるで散歩でもしているかのように歩いてターゲットの下へ向かう。まずは溶け込むことだ。暗殺者の身バレなどあってはならない。

 僕は広場が一望できる建物の屋上に登る。

 広場では全身を金で固めたド派手な優男が突っ立っている。

 依頼にあった魔王と特徴が一致している。おそらくは本人だろう。

 周囲に隠れていた男達が魔王を銃で撃つも意にも返していない。呆れた硬さだ。

 クソ、こんなのやってられるか。アイツを片付けたら今日は仕事をしない。食事処 倉田で唐揚げを食ってやる。それにスパゲティに豚汁もだ。

 決意を新たに僕は目出し帽を被って仕事着に着替える。

 しかし、今回使う武器が定まらない。

 もう少し観察しないといけないな。


「ムッ、あれは同業者。毒殺か。」


 何個か離れたビルの屋上に小太りの男がライフルを構えている。それもアンチマテリアルライフル。普通は戦車なんかに穴を開けるような威力の物だ。

 おそらくはそれに致死性の毒を中に込めた弾を使用してるはずだ。

 防御力が要塞並みに高い個人を暗殺するための方法。この街で培われたジャイアントキリングのノウハウの一つだ。

 つまりは高威力のアンチマテリアルライフルで吹っ飛ばす。それがダメでも食い込めば毒で仕留める。流石にこれで傷一つつかないなんてのは考えたくもないな。


 射撃の準備を着々と整える小男。あいつが殺してしまうと報酬は無しだが、それはそれでいいかもしれない。なんせ命がけの仕事をしなくてもいいのだからな。

 そんな事を考えてるうちに小男は照準を合わせて狙撃の構えを取る。ターゲットは小男に気づいてはいない。当たれば終わるだろうが一応隠れておこう。世の中には想像を超えるデタラメがいるからな。


 パァン


 乾いた音と共に弾丸が吐き出される。狙いはターゲットの心臓を狙っての一撃。ヒット。しかし、弾丸は肩に逸れてしまった。肩に当たった弾丸がその威力を存分に知らしめることなくポロリと地面に落ちる。少しだけ服に滲み出ている血が確かに傷をつけたことを示している。小男の毒牙は確かに届いた。しかし魔王は動く。苛立ちのこもった目でこちらを、正確には小男を見る。瞬間、小男の体がはねる。電撃。無様な踊りは三秒ほど続いた後にピタリと止まる。黒焦げになった小男がバタりと後ろに倒れる。


「デタラメだ。」


 思わず呟いていた。何をやったのかが理解できる。おそらくは生体電気の増幅。それによっての感電死だ。他人の体には別々のパターンの魔力が流れている。そのために他人の体にかける魔法は体の表面に効果を及ぼすものが一般的だ。回復魔法も例外じゃない。


「あれは倉田のところの給仕か?」


 狙撃と同時に物陰から走り出す2人の少女の姿がはっきりと見える。行き付けの店の店員。彼女達を見殺しにしたとあっては今後も倉田での食事を最高のものとして味わう事が出来なくなる。仕事終わりの1杯しかり、風呂上がりの牛乳しかり、食事をする時には気持ちも大事だ。きっとあの給仕を助けた後の食事はいつもより気分よく食べられるだろう。ハンバーグも追加だな。僕は美味しい食事を思う事で恐怖を意図的に遠ざける。

 僕はリュックを漁って魔王を殺すための道具を取り出してビルを降りる。

 静かに、慎重に、そして大胆に魔王に近づく。見つかったら終わりだというその事実が心を蝕む。荒くなりそうな呼吸を意図的にコントロールする。進む足からは音を消す。僅かな匂いも許さない。秘密裏に近づく。僕にはそれしか出来ないのだから。

 亀よりも遅い接近ではあるが確実に近づいていく。

 残り10m。流石に隙がないとこれ以上の接近は困難だ。僕は街路樹の影に隠れて様子を伺う。


「それ以上言わんでいい!」


 少女達の隠れた店から声が漏れる。間違いなく給仕の子の声だ。まずい、逸る心とは裏腹に身動き一つ取ることが出来ない。下手な動きは死を招く。感情や感傷で動いてはならない。動くなら完勝、必殺を持ってして動くのが暗殺者だ。


「こんな所にも我に従わぬ愚か者がいたか。ひれ伏さぬなら死ね!


 魔王が静かに宣告をする。少女達は助からない。手に持った武器を握りしめる。感電する少女達を見る。1秒、2秒、3秒、4秒、5秒、少女達の苦しみが続く。死なずに続く。


「忌々しい。対電撃魔法の付いた魔道防護服か。」


 魔王が本当に忌々しそうに吐き捨てる。2人も伊達にこの街で生き残ってはいないということだろう。しかし絶体絶命な事には変わらない。

 何とかしなくてはならない。痺れを切らして飛び出しそうな心を抑え込む。


「フハハハ、いい事を思いついたぞ。お前達、この場で服を脱げ。ストリップだ。」


 何を言ってるんだ?感電している彼女らに指を1本動かすのも困難だ。とてもじゃないが服を脱ぐなんて出来ない。ましてや電撃から命を守ってる服だ。指が動いたとしても応じるわけがない。


「我を睨むか。なら白い服の貴様から脱げ。そして死ね。」


 魔王が告げる。そしてゆっくりと不自然に給仕の少女の指が動く。手が服へと伸びる。そうか、生体電気の操作。つまりは電気信号を操って体を動かさせているのか。

 これはチャンスだ。僕は街路樹から飛び出して静かに忍び寄る。

 給仕の少女に集中している魔王の気づかれることなく背後を取り、スプレーを顔に吹きかける。100%の酸素。それを魔王に浴びせかける。効果はすぐに出た。倒れる魔王。殺した。仕事の完了に安堵する。終わった。

 僕は仕事の終わりを確認すると踵を返して帰路につく。体操服ブルマな少女とバニーの少女に何も告げずに消えるように去る。


「今日はカレーにするか。」


 アルナイの頭の中では熱くて辛い茶色のカレーライス。そしてそれを食す己。運んできた少女の笑顔があった。

 体操服ブルマなままなのはきっと明かしてはいけない事なのだろう。


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