ふっくらした方がいいよね・・・・たこ焼きの話だよ。
商品の袋詰めをしていると、沙雪が「汁や油が垂れるような物は小さい袋に入れてから」と言ってきた。
というか、小さい袋に入れて手渡してくれる。
どこまでも面倒見のいい奴だ。
「あんたエコバック持ってないの ?」
お店で買った袋に商品をしまっていたからだろう、沙雪が聞いてくる。
「そんなの持ってねぇよ、男子高校生がそんなの持ち歩いてると思うか ?」
「あーー、まあ確かにそうね。」
沙雪は猫の柄が入ったエコバックを使っている。ちょっと可愛い猫だな。
「そのバックの猫、可愛いな」
一瞬、きょとんという表情をした沙雪だったが、ああ、これの事 ? とバックを指差した。
「かわいいでしょ~、このバック自分で作ったんだから !!」
荷物の入ったバックを俺の目の前まで持ってきて見せ付ける。
てか、そのバック手作りなのかよ。
「バックって手作り出来るもんなの ? 見た感じ、店で売ってるようなクオリティなんだけど ??」
沙雪の持っているバックは、縫い合わせ部分などが綺麗に作られており、そこらへんで売っているバックよりも丈夫に出来ていそうだ。
「出来るわよ、生地とミシンさえあれば。可愛い柄のバックが欲しかったんだけど、いいのが無かったから。それなら自分で作っちゃえって」
・・・・無いなら作ればいいって、あなたどこの天才ですか ??
出来る人間はすぐそういう事いう。
俺だったら無いなら諦めるか、適当な物で妥協してしまうところだ。
「お前って、実はスゲーんだな」
「急に何よ ? このくらい皆出来るわよ」
少なくとも俺の周りにはお買い物バックを作るどころか、ミシンを使える人間すらいなかったぞ・・・・
「その猫のキャラクターって何年か前に流行った奴だよな ?」
「そうよ、五丁目のタマ。もしかしてタマ、好きなの ?」
「スゲー好き。そのキャラクター。なんならグッズも幾つか持ってる」
何を隠そう、昔から五丁目のタマや、ジムとジョリーなどといったキャラクターが好きなのである。
「以外ね、そういうものに興味なさそうなのに」
「そうか ? 男だってそういったキャラクター好きな奴、結構いるぜ」
「私の周りには、そういう男子あんまりいないのだけど・・・・」
買い物カゴを片付けている俺の脇で、苦笑しながら沙雪がそう呟く。
ふと、店の壁に掛かっている時計が目にはいった。
それじゃあ、そろそろ帰りましょうか、と歩き出す沙雪の後ろを付いていきながら声を掛ける。
「なあ、十二時過ぎたし、どっかで飯でも食っていかねぇか」
「えっ ? あっ、本当だ。もうこんな時間なんだ」
スマホで時間を確認する沙雪。
「どうする ? このまま帰るか ? 俺としては買い物に付き合って貰ったお礼って事で、何かご馳走したいんだけど ??」
付き合って貰ったお礼がしたいだけだ。それ以外の気持ちは一切ない。誰に言う訳でもなく心の中で呟く。
うーん、どうしようかなー、と、スマホの画面を見ながら呟く沙雪。
暫くして・・・・
「まっ、いいか。じゃあ、食べて帰りましょう」
その一言に、ホッとしてしまう。
何故だろう ? 別にこいつの事は何とも思っていないはずなのに。
異性として意識した ? 昨日会ったばかりの女の子に ??
確かに可愛いし、世話好きな女の子ではあるが。
「ねえ ? ねえったら」
「んあ ? 悪りぃ、何か言ったか ?」
何とも整理できない感情のせいか、沙雪の話を聞いてなかったようだ。
「もう・・・・、あんたは何が食べたいのってさっきから聞いてるの」
そういう事か。
「お礼にご馳走するんだから、沙雪が食べたいものでいいよ。それに俺、この辺にどんな店があるのか知らないし」
恐らく駅前だから、何かしら飲食店はあるのだろうが、どんな物を扱っているのか分からない。
それに、これといって今、食べたい物があるわけではなかったし、何しろ俺がご馳走するって言ったんだから、沙雪が食べたい物を選んで貰えれば、それでいいと思っていた。
「本当に ? 私の食べたいものでいいのね。じゃあ行きましょう」
嬉しそうな表情を浮かべ、再び店の中へと入って行く。
「おい、どこ行くんだよ ? 飯食いに行くんじゃねーの ?」
「ふふん、付いてきて」
店の中で弁当でも買おうというのか ? 確かに、美味そうな弁当ではあったが。
先程通った、道を逆戻りする。
「ここよ」
沙雪に連れられて付いた場所は、この店のフードコートだ。
「えっ、ここでいいの ?」
「ここでいいのよ」
まさかお店のフードコートに連れてこられるとは思いもしなかった。
何だ、あれか ? 動くのが面倒臭いから近場にしたのか ?
「なあ、もう少し、ちゃんとした店でも良いんだぜ ? 奢ってやるんだから」
「あんた何も分かっていないわね。このお店に対して失礼よ」
気遣ってやったつもりだったのだが、何が気に食わなかったのか不機嫌になる沙雪。
まずは席を取りましょう、と言って近場にあった給水器から二人分の水を取る。
お昼の時間帯という事もあってか、結構席が空いていない。
子供を連れたお母さんや、制服を着た学生達、よく見るとスーツ姿のサラリーマンなども数人いる。
「あっ、あそこ空いてる。あそこにしましょう」
二人用のテーブル席が空いているのが見えた為、俺達はそこに席を取ることにした。
「ちょっと待って、テーブル拭くから」
給水器の脇に置いてあったセルフ布巾を持ってきた沙雪がテーブルを拭く。
几帳面だなーと感心していると、拭き終わったのか手を洗ってくると言う。
「ちょっと、あんたは手を洗わないの ?」
「いや、俺テーブル拭いてないし」
「ごはん食べる前は、手を洗うって学校で習わなかったの ? 良いから行くわよ」
どうやら俺も手を洗わないといけないようだ。確かに買い物とかで手は汚れているが。
何も強制的に連れて行くことはないと思う。お前は俺のおかあさんか・・・・
フードコートに設けられた洗面台で手を洗い終わった後、注文に向かう。
メニューはファーストフード店のように、上部の方に大きく貼ってある。
「おばちゃーん、こんにちは」
何にするかメニューを見ながら考えていると、沙雪が店で調理をしている店員とおもしき女性へ声を掛けている。
「おや、沙雪ちゃん久しぶりだね」
二人は顔見知りなのだろう、楽しげに何か話している。
一頻りメニューを見終え、それでも悩んでいると、沙雪が戻ってきた。
「何にするか決まった ?」
「・・・・まだ決まってない、ちなみに何にするご予定で ?」
メニュー数がそこそこ多い。ちなみに俺、ちょっと優柔不断なんです・・・・
参考までに沙雪パイセンのメニューを聞かせて頂こう。
「あたしはね、Aセットのオレンジジュースにするけど」
Aセット・・・・どんなメニューか確認してみる。
写真と共に、詳しいメニュー内容が書いてある。ええっと、お好み焼き一枚に、たこ焼きが四個、それと焼きソバと、好きなジュースね・・・・ボリューム多くね ??
ちなみにBセットという物も存在するようだ。
内容はお好み焼きがハーフになって、たこ焼きが八個、焼きソバに好きなジュースといった感じだ。
「おまえ、これ全部食えんの ?」
メニューを指差しながら沙雪に尋ねる
「余裕よ、何 ? まさか、これくらい食べれないの ?」
おい、なに驚愕の表情で俺を見てんだよ。俺の方が驚愕だつーの。
上から下まで、沙雪の体を眺める。
言っておくが、いやらしい目で見てはいないぞ。
眺めるた限りでは、太っているようには見えない。
むしろもう少し、ふっくらしてもいいように思える・・・・胸の辺りが。いや、今のままでもけして小さいわけではないんだよ。うん、ホントだよ。
「何よ。ひとの事じろじろ見て」
視線を感じた為か、沙雪が身じろぎしている。露骨に見すぎてしまったらしい。
「いや、何でもない。気にすんな」
後ろめたいものを感じた俺は、目線を逸らして、そう答えた。
あっ、そうだ注文・・・・
「俺はBセットにしようかな」
迷った挙句、たこ焼き多めで行くことに決めた。