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本日、二度目の「じゃあ、帰るか」だった。

 「わたしゃーもう、おなか一杯ですよ」

 腹を擦りながら残ったメロンソーダを飲む。

 お好み焼きも、焼きソバも大変おいしゅうございました。


「そ、なら良かったわ、はい。口の周りにソース付いてる」

 沙雪はバックからポケットティッシュを取り出すと、俺に渡してくれる。

 右手で口の周りを触ってみたところ、ベトリとした感触が指に付く。

 気付かなかった・・・・


 サンキューと言ってティッシュを受け取り、口の周りを拭いていると、可笑しそうに沙雪が笑った。

「ぷっ、私、弟っていないんだけど、いたとしたら貴方みたいな感じなのかな」

 口元を押さえ笑っている沙雪に対し、「いや、どっちかと言うと、おかんだろ」と思ったが口には出さないでおいた。 


「そういえば、この上の階にも店ってあるんだよな ?」

「ええ。日用雑貨とか色々売ってるわよ。行ってみる ?」

 今後の生活の為にも下見しておいた方がいいのかもしれないが、二人とも結構な荷物を持っている。

 流石にこの荷物を持ったまま、見て回るのは辛い。


「いや、荷物も多いし、今回はやめておくよ」

 こんな事なら、先に上の階を見て回るべきだったな。失敗、失敗。

「別に見て回ってもいいのに。じゃあ、今度にしましょう」


 今度 ? という事は、また俺と買い物に来てくれるという事だろうか ??

 まあ、社交辞令みたいなもんだろう。

 中学生じゃあるまいし、そんな事にいちいち反応してどうする。


「じゃあ、帰るか」

「ええ」


 食べ終えた食器を持ち、返却口へと向かう。

「ごちそうさまでしたー。美味しかったです」

 食器を、返却棚へ戻し、おばちゃんにお礼を言う。

「あいよ、お粗末様。また来ておくれ。彼氏」

「是非。今度来る時までに、カップルシート用意しといて下さい」


 手を振りながら、その場を立ち去る。

 おばちゃんは最後まで笑顔だった。


「カップルシートとか、キモ !!」

「お前ね、本人がいる時にそういう事言うなよ。言うなら陰口にしてくれ」

「陰口ならいいの !?」

 いや、陰口も嫌だけどさ。

 直接言われるよりは、俺の耳に入らないところで言ってもらった方がいいじゃん。

 正し、絶対に俺の耳に入らない事が前提だ。


 帰り道の階段をテクテク下りる。

 なぜか知らんが、下りのエスカレーターは無いらしい。


 店を出た後、高架橋まで歩くと目の前に駅がある事に気付いた。

 さっきは、スーパーに気を取られていたせいか、駅がある事に気付かなかった。

 スマホで確認してたのに・・・・


「おー、駅だ、めっちゃ駅だ。電車の駅だ」

「在来線の駅よ。私も友達と買い物に行く時とか利用するわ」


 確かにこの町じゃあ、最近の女子高生が着るような服は売ってないような気がするな。

 そりゃあ、町までお買い物にも行くだろう。


「買い物って服とか ?」

「そうよ、電車に五十分くらい乗れば、東北最大級の町に行けるんだから !!」

 いや、そこ一時間って言えばよくね ?


「一時間も掛かんのかよ、遠すぎだろ」

 都内なら山手線一周出来ますよ。

「一時間じゃないわよ、五十分よ。そこ間違えないで」

 うわー面倒くせーな。それ田舎のこだわりか ? 都会まで一時間掛かりませんよっていう。

 変なところでプライド持つなよ。ドブにでも捨てちまえ。


「あっ、ちなみに、お姉ちゃんは仙台で働いてるから」

「へー、じゃあ毎朝この駅利用してんだ」

 ・・・・あれ ? なんか沙雪が微妙な顔してる。


「えっと、お姉ちゃんは、新幹線で通勤してる・・・・」

 新幹線で通勤してんのかよ !! どこのブルジョアだ。


「マジかよ、一月の定期代いくら掛かんだよ。なんだったら、仙台で一人暮らしした方がよくね ?」

「・・・・あーー、うん、そうね。一人暮らしした方がいいかもね。電車の分だけは交通費出てるみたいだけど、新幹線分は自腹で出してるみたいだから」


 さっきから沙雪が俺と目を合わせようとしない。

 どうやら、この話はこれ以上突っ込まない方が無難なようだ。


「にしても結構遠いな、ここまで来るの。これは早々に、じいちゃんの愛車に乗れるようにしないと」

「じいちゃんの愛車 ? 車の免許なんて無いでしょ ? 無免許運転なんて駄目よ」 

 こいつ勘違いしてるわ。


「原付だよ、原付。50ccのバイク。家にあるの見たことないか ?」

「原付って、おじいちゃんがたまに乗ってる黒いバイクの事 ?」

 それですよ、あのいかにも田舎でじいさん連中が乗ってるようなバイク。


「原付の免許持ってたんだ」

「こっちに来る前に取って来た」

 親父が、あっちに行くんだったら絶対に原付の免許はあった方が良いから、取れって五月蝿かったんだよなー。

 ぶっちゃけ、乗ってみたら意外に面白かったし。


「あのバイクって原付免許で乗れるんだー。スクーター ? っていうやつしか乗れないと思ってた」

「俺もスクーターしか乗れねぇもんだと思ってたよ・・・・さっきまでは」

 クラッチが付いてるバイクって何だよ。クラッチなんて、車の走り屋マンガでしか見た事ないぞ。


「本当はそいつに乗って買い物に来るはずだったんだけど、いろいろあって乗れなかった」

「何で ? 壊れてたの」

 言えない・・・・操作方法が分からなくて運転出来なかったなんて。

 アクセルと、クラッチを巧みに操作しないと動かせないバイクだったからなんて、恥ずかしくて言えない。


 クソ、何で教習所で教えてくれなかったんだよ。

「あっ、あーまぁ、そんな感じ。エンジン掛かんなかったみたいな。まったく、じいちゃんめ。ちゃんと整備しておけっての」

 じいちゃん、ごめんさない。僕は嘘をつきました。

 だって女の子の前で、出来ないなんて恥ずかしくて言えないもん。プライドがあるもん。


「よっこいせ」

 自転車のカゴに、買ってきた物を入れる。

「ほれ、お前の荷物」

 はい、っと言って手渡された荷物だが、俺の荷物より重い・・・・


「悪りぃ、こんな重かったんだな。持ってやればよかった」

「別にいいわよ、いつもコレくらい持ってるし」


 そうは言う物の中々な量だ。

 いつもこんなに買い物してんのか・・・・


「まあ、今度は持ってやるよ・・・・」

 俺は明後日の方向を見て呟く・・・・


「えっ ? 今度があるの ?」

 うわーー、この子、露骨に嫌そうな顔してますよ。

 何なのお前 !? さっきスーパーで、今度、上の階を見に行こうって言われた時の、俺のときめきを返せよ。


 はああ、と盛大に溜息をつく。

「もういい、さっさと帰るべ」

「しょうがない、帰りも乗ってやるか」

 この野郎・・・・!!


 来た時と同じように、横座りに自転車に乗る沙雪。

 その手はシャツではなく、腕ごと俺の腰に回された。

「掴まってあげるんだから、しっかり運転しなさいよ」

「・・・・おう」


 それしか言えず、俺は自転車を走らせた。


 走らせた、走らせたのだが・・・・


 ウウーン、

 どこからとも無く、パトカーのサイレンの音が聞こえる・・・・


「そこの二人乗りの自転車、止まりなさい」

 嘘だろーー、おい。


 この状況で、普通パトカー出てくるか ? 空気読めよ !!


「・・・・ねえ、止まった方が良くない ??」

「ですよねーー」


 俺は、お巡りさんに言われた通り、路肩に自転車を止める。

 すると、直ぐ後ろからパトカーがやってきて、俺達の少し前くらいで停車した。


 バタン、という音がしてお巡りさんが一人、パトカーから降りてくる。

「あなた達、自転車の二人乗りは危険ですよ、って沙雪ちゃん !?」

 運転席から降りて来た女性のお巡りさんが注意をするやいな、沙雪の名前を呼んだ。

「茜さん !!」


 なんだ、おい、お前ら知り合いなの ??

「まさか、沙雪ちゃんだったなんて・・・・えっ、もしかして彼氏 ? ちょっとやめてよね。その歳で彼氏とか。私や、美咲より先に彼氏作るのやめてよ」

 なんだこの人 ? 現れてすぐに説教したと思ったら、俺と沙雪の事勘違いして。


「違いますよ、彼氏じゃないです」

 冷静に否定する沙雪。


「えっ、彼氏じゃないの良かったー。もし彼氏だったら、今晩は美咲とやけ酒になるところだったわよー。って、そうじゃなかった。オホン、あなた達、自転車の二人乗りは危険だからやめなさい」

 全然しまらねー。

 しかも、貴方のおかげで美咲さん、(沙雪の姉と思われる)にも彼氏がいない事が判明したぞ。

 

 何こいつ、という人を蔑んだ目でこの女性警官を見ていると、パトカーの助手席からもう一人のお回りさんが降りてきた。


「おや ? 君達は」

「昨日のお巡りさん !!」

 あろう事か、昨日、色々とご迷惑をお掛けしたお巡りさんがパトカーから降りて来たのだ。


「林さん、この子達と知り合いなんですか ?」

 茜さんと呼ばれた、女性警官が、お巡りさんへ話しかける。

 そうかー、このお巡りさん、林さんって言うのか。


「うん、昨日ちょっとね。そうかー君たちだったのか。そうか、そうか」

 なぜだか林さんはニコニコしながら頷いている。


 一頻り頷いたあと、林さんが

「うん、ここら辺は車とかもそんなに通らないし、二人乗りして帰っても大丈夫だよ」

 笑顔でそう言ってくれた。

「えっ、ちょっと林さん、そんなの駄目に決まってるじゃないですか」


「まあ、まあ、諏訪さん。この子達は今、青春をしてるんだよ。大人としてこの子達の青春を温かく見守ってあげようじゃないか。諏訪さんだってあっただろう ? こんな時期」

「えっ、私ですか、えーーっと、どうでしたかねー」


 あーー、林さん、この人にそういう話題は駄目みたいですよ。

 表情が、どんどん暗くなってる。

 さっき子供達が捕まえてた、死に掛けの魚みたいな目になってますもん。


「それじゃあ、気をつけて帰るんだよー」

 そういい残し、林さんは死に掛けの魚の目をした女性を伴い、パトカーで立ち去って行った。

 林さんは終始、笑顔のままだった。


「・・・・じゃあ、帰るか」

「・・・・ええ」

 本日、二度目の「じゃあ、帰るか」だった。

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