笑顔になれるような、味がした。
メニューを決めた俺は、どうやって注文するの ? と沙雪に尋ねた。
「あのレジのとこでお店の人に頼むのよ」
レジには先程、沙雪と話していたおばちゃんがいる。
「おばちゃん、Aセットのオレンジジュース一つと、Bセットのメロンソーダ一つ」
「あいよ。珍しいね、沙雪ちゃんが男の子と一緒なんて。彼氏かい ?」
あーー、よくある事だよね。
おばちゃんくらいの年代の人達って、俺達くらいの年頃の男女を見ると、必ず付き合ってるんでしょ ? 的な事、聞いてくるの。
「いやいや、おばちゃん。私の彼氏だったらもっとイケメンだから。こんな中途半端じゃないから」
否定するにしても、もうちょっと言い方って物があるのではないだろうか。
何で、そこで俺を貶す必要があるの ?? ってかお前、彼氏いたの !!
なぜだかしらんが、二重でショックを受けた。
もう、ほら、あれだ。
俺を主人公にしたゲームが作られた場合、お前が登場する事によりディスクが叩き割られ、メーカーへクレームの手紙と一緒に送りつけられる勢いだわ。
会計を済ませ、先程の席へと戻る。
会計時は俺が奢ると言っているのに、自分の分は、自分で払うと言って聞かない沙雪とひ、と悶着あったが、おばちゃんの「男に恥かかすんじゃないよ」の一言で決着が付いた。
席に着くなり、俺は沙雪へ開口一番、こんな事を聞いた。
「何お前、彼氏いんの ? あれだろう ? 大学生ってパターンだろう」
「はあ ? あんた何言ってんの。さっきの、おばちゃんとの話 ? あれは、おばちゃんに、しずられたから、言い返しただけよ。真に受けないでよね。私、彼氏なんていないから !!」
・・・・ ? しずられる ?? 何言ってんのこの子 ? ってか彼氏いないの ??
「しずられるって何だよ ? てか彼氏いないの ? マジで ??」
おいおい、俺の頭の中、はてなマークで一杯ですよ !!
「ごめん、思わず方言が出ちゃった。しずられるって言うのはね、ここら辺の方言で、いじられるっていうか、からかわれる。って意味よ」
あーーーー、方言なのね。
家では、じいちゃんも、ばあちゃんも方言交じりで喋っているが、聞き返すのも面倒なので雰囲気で理解している。
だが、同年代が使うとどうしても気になってしまう。なんなんだろうなーこの感じ。
「彼氏いないのかー。そうか、そうかー」
なんか知らんが、ニヤニヤしてしまう。
「べっ、別にいいでしょ。彼氏がいないくらい。あんたはどうなのよ。彼女いるの ?」
「えっ、俺 ? いないけど。いない暦、年齢といっしょですが、何か ?」
「・・・・あっ、いないんだ。そうなんだ」
「「・・・・・・・・」」
お互いに黙ってしまい、気まずい空気が流れる。
なぜこんな事になった ?
何か話さなければと、頭をフル回転させるが、こういう時に限って何も思いつかない。
俺が主人公のゲームが出来たとしても、ディスクが割られる事がなくなって良かった、とか、くだらない事はいくらでも思い付くのだが。
ちらっと、沙雪の方を見ると、なんかモジモジしている。
「お待たせしました、お先にジュースをお持ち致しました」
店員さーーーーん、ナイスです。
この気まずい雰囲気を打ち消すように、店員さんがジュースを持って来てくれた。
二人して店員さんに、ありがとうございます、と言いジュースを受け取る。
「あっ、あれだな。この店、平日なのにお客さん結構いるな」
「そっ、そうね。国道の方に行けば、他にもスーパーはあるんだけど、ここのお店の方がいつも混んでるかな」
そんな会話をした後、お互い、ストローでジュースを飲み始める・・・・
気まずさも相俟って、周囲に視線を逸らすと店の窓が見える。
窓からは遠くに大きな建物が見える。
(あー、あれ学校だ。転入試験の時、一度行ったわ)
県立白桜高校・・・・全国的にも珍しい、工学科、農業科、生活科、看護科など、多種多様な科が存在する総合学園高校だ。
俺はこの春から、あの高校の工学・電気科へ通う予定だ。
そういえば沙雪はどこの高校に通っているのだろう ?
って、俺、沙雪の歳しらねぇ。
見た感じ、同い年くらいに見えるけど。
「なあ、お前って何歳 ?」
「えっ、何よ急に。十六だけど」
「学年で言うと ?」
「今年から高校二年」
同い年だったみたいです。
「そういうあんたは何歳よ」
「十六歳でこの春から高校二年ですけど」
「同い年じゃん ! あっ、じゃあ、がっこ・・・・」
「お待たせしましたー、Aセットと、Bセットになります」
沙雪の言葉を遮る様に、料理が運ばれてきた。
目の前に置かれた、俺のBセットは美味しそうな湯気を立てている。
ソースの焦げた、香ばしい香りが堪らない。
「おおっ、美味そう」
「あんた、人がまだ話してるのに・・・・、まあ、いいわ」
沙雪はテーブルの中央に設置された、箸入れから二本の割り箸を取り出し、その内の一本を俺に差し出してきた。
「温かいうちに食べましょ」
サンキューと言いながらそれを受け取り、箸を割る。
何から食べようか。
やっぱ、たこ焼きだな。
一つ箸で摘み、口の中へ頬張る・・・・熱い。
「あっ、あふぃ」
焼きたてだもんな、そりゃ熱いって話だ。
口をハフハフさせ、冷ましていきやっとの事で飲み込んだ。
「美味い」
外はカリカリで、中はトロトロ。
大降りのタコに、紅しょうがが少し多めで、とても美味い。
「でしょ、美味しいいでしょ !!」
沙雪はずっと俺の事を見ていたのか、自分の料理には手をつけていなかった。
今もニコニコした表情で俺の事を見ている。
「おばちゃんの、たこ焼きはね昔から美味しいの。あっ、もちろんお好み焼きと、焼きソバも」
チラッと、調理場の方を向くと、先程のおばちゃんが、沙雪と同様、ニコニコとした笑顔で調理を行っている。
「私ね、小さい頃から、ここへ買い物に来ると、たこ焼とか、お好み焼きとか買ってもらって食べてたの。おばちゃんはいつも笑顔で、美味しいもの一杯作ってくれた。」
そう言って沙雪は、パクっとたこ焼きを一つ食べた。
モグモグと、たこ焼きを飲み込むと、こう続ける。
「将来は私もね、おばちゃんみたいに、誰かを笑顔に出来る仕事がしたいなって。まだ具体的にどういった仕事がしたいかは決めてないんだけど」
ペロッと下を出して笑う沙雪。
ここへ来た時、本当は、「お前、女なのにこういった物が好きなの ?」って、からかってやるつもりでいた。
沙雪の話を聞いて、おばちゃんの働く姿を見て、そういった考えをしていた自分が恥ずかしくなった。
調理場では、おばちゃんが、今も笑顔でお好み焼きを焼いている。
パクッと、お好み焼きを一口食べてみる。
誰もが笑顔になれるような、味がした。