戦前の静けさ
戦前、せんぜんと読まずいくさまえと読んでください。
かなりお待たせしました。
季節と行事の移り変わりというものはとても早い。
気を抜いてると自分だけ、置いてかれてしまうぐらい、あっという間に巡ってしまう。
その証拠に、黒板に書かれてる月も、水無月(6月)に変わっているし、通学路の並木達も、つい前まで、桜が咲いてたはずなのに、気づけば緑の葉が揺れている。
とは言っても、卒業するまで同じ通学路を歩くので、来年からは趣も何も感じなくなるだろう。
(もっとも、今じゃ春と秋がほぼない気もするし……)
一時期は、散々言われてた地球温暖化も、今となっては耳にしない日の方が多い。
「……」
まぁ、地球温暖化なんて地球規模の問題を1人の学生が解決出来る訳ないので、どうしようもない。
学生として、目を向けるべきこと……学校行事に目を向けると、こちらも早いもので、中間考査の答案返却まで済んでいる。
ついこの前まで、テスト1週間前と嘆いていた人も多かったのに今の教室は、そんなことありましたっけ?と言わんばかりの雰囲気が流れている。
高校初の考査だったからなのか、全科目、内容は簡単だった。
そのおかげで、欠点を取ってる人はいなかったみたいだし、クラスも学年も平均は大体70後半ばかり。全体的に割と高めをマークしていたと思う。
(もっともその結果は、まぐれとも言えるよな)
もちろん、普通にテスト勉強をしていた人達には、余裕しかなく、平均を聞いて低いと思った人も少しぐらいはいたと思う。
自分もそちらに属し(それにも属さないぼっちというのは如何かと思う)、その中でも高得点を取ったものは、学年トップに迫るものもあった。
(入試と違って範囲狭いしな……)
自分は徹夜漬けなどの短期暗記は苦手なので、それで切り抜けられる人がほんの少しだけ羨ましい。
教える側の先生からすれば、その場限りの徹夜生徒よりは、地道に学習する熟睡生徒の方が嬉しいとは、分かっている。
……もっとも、友達というものがいたらテストの点数を見せあったり、言い合ったりで楽しむことも出来たかも知れない。
(当然というか、見ての通り出来る訳もないか)
それこそ、過去にあったような陰湿な蚊帳の外状態ではないし、普通に会話をしようと思えば、恐らくは出来る。
今までの学生生活では、もっともいい環境だと思う。ただ、友達と呼べる存在は未だにいない。
(作れないのか作らないのかさえ分からなくなってくる……)
今も、朝のSHR前だというのに、周りに話しかけるなオーラを放つように、読書に耽っているのだから、どうしようもないだろう。
しかし、ぼっちのせいで凄い苦労をしてはいないし、精神的苦痛も強いられていない。というか、小中と独りは慣れているので何も感じない。
もちろん、学校とは集団行動の場なので、個人より何かと班活動やらペアワークは多い。が、体育の時は出席番号が近い人と組めばいいし、授業の時は隣人に協力を仰げばいい。班活動はその拡張版だと思ってる。
そう現状、基本はなんとかなる。
「お前ら、分かってるだろうけどSHR後、即グラウンド集合だからな」
しかし、一筋縄で上手くいかないことも、現実多い。
……体育祭は、そういう行事。そして、それは予行でも変わらない。
「今何分?」
「9時までに集合やったやんな!!
「それなら余裕じゃん」
「予行だし、スマホぐらいいいよな?」
「あとで生指にバレたらめんどくね」
そんな会話を聞き流しながら、早足で更衣室から出る。普段は、長袖シャツなので、未だに半袖の体操服は腕元がスースーする感じが慣れない。
つま先で、靴をコンコンとする。
(授業よりかは楽だし、嬉しいよ)
そんな自己催眠をかける。恐らく、更衣室内で言葉を交わしていた彼らは、授業カットが嬉しくて仕方ないだろう。
目線を上にやれば、空はまさしく快晴という言葉が似合うぐらいの青さを放っている。どこか腹立たしく思えるほど。
そして、それに反するように心の中は曇天。自分は、こういうイベント行事では、日陰にいる人間なので出来れば避けたい。
もちろん、今から体育祭の予行をする訳なので周りには、体操着人間まみれ。全学年参加。
(いや、当たり前なんだけどさ……)
さっきグラウンド集合って言ったのは(あんな口調のクラスメイトなんて1人しかいないけど)、体育委員の麥瀬だし、明日は明日でそれも当然ながら、体育祭の本番が待っている。
立ち止まっていても、誰の為にもならないので少し急ぎ足で、グラウンドに向かう。整列を早めにしたらその分を早めに終わるかもしれない。
(はぁ……今だけ二宮金次郎像になりたい)
そんな無茶苦茶な現実逃避が出来たらな。と、今となってはお見かけしなくなった彼に思いを馳せる。
(薪は重そうだけど)
彼がどんな人なのか、実際にいたのかすら知らない。
ただ、こういう時は、歩きながらでもいいから本を読めたらと思ってしまう。打開は無理なので、今の状況に向き合わなければいけないが。
「──みやくん」
「……!?」
そんなことばかりが頭の中を埋め尽くしていたので、まさか自分が呼ばれてるとは思わなかった。
「──っ、汐宮君ってばー!!」
「うわ……!?」
耳の近くで叫ばれ、ようやく気付き、隣に目をやるといつの間にかクラスメイトがいた。
「鼓膜破れたらどうするんだよ……」
「そんな情けない鼓膜ならいくらでも破くわ」
そうなったら耳が聞こえなくなるということを彼女は知っては知らずか、ニヤリとしながら返答する。
こんな状況……うんざりしている様子を出している自分に気遣うことなく話しかけるのは、お馴染みというかなんというか……唯一女子クラスメイトで話しかけてくる九条さんだった。
女子としては髪が短い彼女は、とてもスポーティーに見えるし、実際いつの間にか隣にいるので、運動音痴ではなさそうだ。……ただそこに不似合いに映るようにジャージを羽織っているが。
「…………」
「なんで、話しかけたのって思ってるのは分かってるわ」
彼女は以前、他人の心が読めると豪語している。本当なのか確かめる方法は無いので残念だが、ある意味まぐれと片付けられている。
(でも、ほとんど当ててきてるから読心術はありそう)
「なんか、心が凄い読めるとか思ってるけど、そんなことないわよ」
(なら、こっちは一言も発してないのになんで分かるんだよ……)
そんなことをツッコむ。もちろん、止まったままだと朝礼台から何か言われそうなので、整列場に向かいながら言葉を繋ぐ。
「……暑くないの」
その言葉を吐いてから、周りに目をやるが彼女以外に上着を羽織ってる人は見当たらない。
「何のこと?」
しかし、何かを言わせたいのか惚けてくる。本当にやりにくい。
(そもそもこんな集団行動中になんで声掛けてくるかな……)
ただでさえ、変な女子に目をつけられてないか不安なのに。
しかしながら彼女はそんなのお構いなしで、こちらの隣にピタリとつくので正直お手上げ。
「上着だよ……あと、女子の列行って」
「あーこれ?日焼け対策!!ほら、私って色白美人ちゃんだからさー」
だからさーと言われても聞いたことがない。それに、日焼け対策で上着を羽織る女子はいるのか。と心の中で疑問が出来る。そこで、疑問をかければ思うツボなので、あくまで平然と返答するしかない。
「…………………そうなんだ」
「絶対信じてないでしょ」
「……」
「はぁ……」
いかにも呆れた態度をとる彼女にカウンターをしたいのは山々だったが、グッと堪える。それよりも言わなければいけないことがある。
「……それより、女子列行った方が」
「図書委員会の特権よ」
「……………は?」
「汐宮君と私の関係は、誰にも袂を分かつことが出来ないのよ」
かっこいいことを言ってるようだが、どこをかっこいいことは思わない。人間の言葉とは大体そんなものだ。
「その関係は……………」
「ただの図書委員。それ以外のなんでもない」
溜めを木っ端微塵にするように、言い放つ。
たかだか、委員会が同じだから、彼女の場合は狙ってかもしれないが、それだけで分かつことの出来ない関係にはならないと思う。
「そういうデリカシーのないことを言ってるとダメよ」
「デリカシー関係ないだろ……」
もちろん彼女の存在は、クラスメイトの情報などにおいて、有難い。 そして何より、気を遣やずに話すことが出来る。
(それなりに助かってはいる……)
彼女は、何を考えているのかよく分からない。
「さりげなく心遣いが出来る人が、やっぱりモテるものなんだからそういう所をもっと磨かなきゃ……」
今だって、こんなよく分からないこと、全く関係ない方に話を逸らされている。
(それが良さなんだろうけど、状況を弁えてくれないかな……)
ただでさえ、普段他人と会話しないせいか、こんな風に話してると驚かれることも多々……。
「ちょっと汐宮君、聞いてる?」
しかも、女子生徒。それに、こんな集団行動中。
(間違いなく誤解に繋がる)
変な先輩に連れ(拉致)られたり、黒縁眼鏡キター!!的なこと言われたりと、この学校に来てからやたらと身勝手女子に関わらされた。 こちらとしてははた迷惑な行為にしか思えないが、一部の男子生徒からはご褒美と思っているため理解されない。
(九条さん、全然聞いてないし……)
「ちょっと汐宮君!!」
どっちが話を聞いてないのかと聞きたくなりつつも、声を出す。
「ごめん、九条さん」
意を決して、彼女の方に顔を向ける。
「だから汐宮君、話は……」
あまりクラスメイト相手にはしたくはないが、そろそろ切り抜けないとといけないと本能が言ってるので、あくまで苦渋の選択だ。
「……話の途中で悪い。男子、結構集合してるから急ぐよ」
学年主任に見せる爽やかな微笑。
すぐに、前に顔をやり彼女から離れるように走った。
「今の見た??」
「え、何あれ、めっちゃいいー♡」
そんな感じの会話がチラリと耳に入ったが恐らく、気の所為だろう。
(じゃないと、あんまり多用出来なくなる……)
彼女から逃れ、列に並ぶと、そのまま工程は進んだ。
あくまで予行なので、競技をすることは無く、放送テント(本部?)で呼ばれた種目に参加する生徒が、各々位置に向かうだけ。
自分が出場するのは、学年競技を含めて3種目。
(多い気がするけど、決まりだからしょうがない……)
クラスの男女比率関係でさらに出場する人はいたり、当日の欠員がいたりすると思いもよらぬ競技に出なければいけない確率もあるので、あくまで3種目は最低出場数だ。
(騎馬戦とか綱引きとか団体戦に組まれてなくてよかった……いや、リレーは団体か)
そんな具合であくまで予行なので、そんな疲れないだろうと舐めていた。
予定より1時間近く早く全体の位置確認が終わったのが、ラッキーとも思っていた。
(予行関係で午後からカットだし、以前衝動買いした海外SFでも読もうかな……)
そんなことをぼんやりと考えていた。少しずつでも解消しないと、すぐに積み本が増えてしまう。
「位置確認は、先程ので全て終了でーす。皆さんお疲れ様でした!!」
朝礼台でマイクを片手にそんな風にこちらを労ってくれる女子生徒。恐らく生徒会役員でいたはず。
(さて、早く着替えてSHR済まして、サッサと家で読書を)
「そしたら、皆さんお待ちかね!」
……イマナンテイイマシタ?
「各団ごとに分かれて、行進、応援練習に移りまーす!!!!」
(……ナンデスカソレ??)
頭が処理落ちしたかのように動かない。それか現実から逃避してしまっているのか。
「グラウンドの白線で4ブロックで分けまーす!!赤団の皆さんは、私から見て北西……」
そう言って、各団の練習スペースを指示していく。
(ええ…………)
そして、周りの人達は、面倒くさそうにする人はいるが、この練習のことは分かっていたのか、ダルいなぁ……と呟くぐらい。
確か、予行だけにしては午前全部は長いとは思ってた。思ってたけど……。
(この練習をもしかして終わりまでやるんじゃ……)
「……緑団の皆さんは、私から見て南東……砂場あたりです。皆さん、分かれて下さーい!!12時半になったら入場の予行しますんで、それまで各団練習に取り組んで下さーい!!」
彼女はそう言いながら、にこやかに微笑む。自分にとっては、悪魔にしか映らない。
(今、11時半。……え、1時間近くやるのそれ)
無力な自分は列の流れに抗うことは出来ず、行進、応援練習に挑むことになったのだ。
体育祭。それは盛り上がる方の学校行事の1つだろう。
青春系の作品では、高確率で描かれる内容だし、普段気にしてない男子や女子に謎の美化補正がかかりやすい。
何より、体育祭マジックというものもあるらしい。
(あの子、あの人の意外な一面を見て云々って具合に)
傍から見ればとんだ夢幻……なんて言いたくなる。まぁ、そういった一個人の考えは、この際置いとくとする。
たださっぱり、何がそんなに盛り上がるのかは、よく分からない。そして、そういうイベントは温度差が激しい。
「大丈夫?」
そんな心配を口にされながら、誰かにポンと後ろから肩を叩かれる。
声が低かったので、先客だった彼女ではないとホッとし、振り返る。
「………」
話しかけてきたのは、同じクラスのクラス対抗リレーのメンバーで顔見知り。
そして、こんな人混みだというのに何故か上着を着ていた。
(なんで揃いも揃ってとクラスメイトばっかり……)
「2回目なんだよ…………」
「?」
こっちの呟きに対して不思議そうな顔をしている姿は、小動物みたいで可愛らしく映る。
このまま止まっていて話していても後ろの邪魔になるので、さっさと前の人について行く。
「ねぇ、汐宮くん」
彼もそれを察したのか、小走りでこちらについて来る。銀縁眼鏡のフレームが陽射しを浴びて、輝く。
「何かあらぬ事考えてない?」
銀縁眼鏡くんは、そんな指摘をこちらに振りかける。 あらぬ事がどんなことなのかは、気になっても口に出してはいけない。
「だ、大丈夫……何も考えてない」
「……ふーん」
疑いが消えず、じっとこちらを見ていたが、諦めたのかため息をつき、そういう事にしとくよ。と返事が来た。
きっとたまたま九条さんも彼も上着を着ていただけだ。そう思っておこう。ただ、それで放置できないので、仕方なく2度目になるツッコミをかける。
「……暑くないの」
「?」
一瞬、なんの事なのかと首を傾げ、周りを見渡す。
そして、やがて自分が着ている上着に気付く。
「ええと……汐宮くん、刺繍見て」
そう言いながら、自分で右胸に施された刺繍を指す。
サイズとジャージの袖などにある線以外で区別するのが難しいからなのか、一人一人の名字が刺繍であしらわれている。
ちなみに、刺繍は男女関係なく赤。線の色は、1年は青で、他の学年は確か赤とか緑だった気がする。
彼の着ている上着には【渡邉】と記されていた。
よく邉って縫えるな。と思いながらも言うべき言葉を吐く。
「渡邉……」
「流石に、まだ名字すら覚えられてないとは思わなかったよ」
「……」
どうやら今必要なのはボケではなかった。
「……分かってるって長田」
そう言うと、彼は本当かなと、呟く。
「でも、なんで渡邉……さんの上着を」
「それは、単純に他人の。残念ながら、むさい野郎の」
「別に他人のだけでよかったんじゃ……」
「男か女かって気にならない?」
「……」
確かに、掃除の時にどの女子がタイプかという話をしていたから不必要ではないかもしれない。しかし、ここで気になることがまた出てくる。
「他人のって」
「あー正確には、先輩の。ほら」
そう言いながら、今度はピシッと腕を伸ばす。袖に入ってる線の色が普段見かける青ではなく、赤だった。
「……本当だ」
「ま、こんな集団の中じゃ殆ど分からないけど」
そんな辛辣な言葉を吐きながら、こちらをチラリと見る。
「それより、顔色悪いけど大丈夫?」
こちらの顔色を伺い、心配そうに聞いてくる。周りは、今からの練習を楽しみにしてるのかはしゃいでいるようにも映る。
自分ではそこまでしんどくはないが、どうやらしんどく見えてるらしい。
「……人混みは苦手で」
彼の方を見ようとするが、どこを見ても人しかいないので、自ずと目線は前の人の背中に行ってしまう。
「僕も同じような感じだよ」
そう同意を言いながら、同じように目線をやる。
「……」
「……」
しかし、同士だとしても2人ともそんな喋るタチではないので、あっという間に無言の時間が長くなってしまう。そもそも、リレーの練習でも喋ることはない。
(正味、今回がちゃんと喋ったかもしれないし……)
ほぼ感覚が同じようだと思い、さっきまで予行中に考えていたことを尋ねてみる。
「…………なんで、体育祭って盛り上がると思う」
その要因は、各団に分かれて競い合う面!!……な訳ないだろうし。
競い合うなら小学校の赤組、白組で散々してたし、それにカラーバリエーションを増やしたと断言すると、あまりにも味気ない。
もちろん高校生にもなって、紅白帽を使うことはなく、例えば赤とか青とかの色種で団分けされている。
(これが7色とか12色とかだったらと思うとゾッとするけど)
「内容面では、無いよね」
あくまで周りに聞こえない絶妙な声量で、返答をしてくれた。……にしてもその言い様は、あまりにも雑然としてる気がするが。
だが、あくまでそれぞれの種目で、点数の争奪戦をするのが体育祭。優勝団にはトロフィーと+αが貰えて、それを目指して頑張る。陳腐で1番分かりやすい勝敗の付け方。
「そもそも全員が、盛り上がるなんて現実的に不可能だと思わない?」
「……」
「例えば、万人受けする人がいたとしても必ず1人ぐらいは嫌いって人はいるでしょ?」
「……まぁ、その通りだな」
「それと一緒。これが文化祭なら絶対こうはいかない」
そんな風に決めつけるのは如何かと思うが、あくまで彼は言葉を止めない。
「でも、本当に凄いよ。絶対楽しいから!!とか言える人の神経って。どっからそんな確証出るのかって聞きたいぐらい」
「……」
あまりにも身も蓋もない発言をするので少しヒヤヒヤするが、心のどこかで1度は思うことを言うので聞いていて、すごく共感が出来る。
「だからさ、体育祭=盛り上がるイベントじゃない。盛り上がれるような人が体育祭してるだけ。それが答えなんじゃない?」
回り道をしながらも、こちらの質問に自論を持ち得て話す。
「お、おう……そうかもな」
ただ情けないことに、そんな素敵な組み立てられた言葉に対して、こんな薄い言葉しか返せないのだ。
(しかし、彼の言葉は核心を突いているだろうな……)
盛り上がる種目の1つに各団の応援合戦があるのだが、そのクオリティーはかなり高く、感動する。と新入生歓迎会の際に生徒会長あたりが言っていた。
昼休憩後に行われるため、昼休憩は弁当はもちろん、化粧だの衣装への着替えだのと、かなりハードスケジュールなんだとか。
「楽しめる、盛り上がるとしても僕は絶対、応援団とか入らないから結局は盛り上がれないんだけどね」
応援合戦とは名ばかりで、実際は5分間のダンス。
しかしながら、多くの人は、応援団に所属し、放課後、早朝をたった1回の本番のために練習をしてたりするのも事実だ。
「汐宮くんも、建前上の自由参加の闇を見たと思わない?」
「……確かにあれは酷かった」
世の中には多数派が有利になることが多いように今回の応援団でも、とりあえず1年はしよ!!みたいな重圧は確かにあった。雰囲気的には半強制感も強かった。
「僕で2回ぐらい。汐宮くん、何回?」
恐らく彼が聞いてるのは断りの回数だろう。銀縁眼鏡の似合う少年は運動系には見えず、あくまで先輩からの可愛い犬系後輩枠で考えられてたのかもしれない。
それに比べれば自分は……。
「幹部みたいな人に、5回。もっとあったかもだけど……」
「やば……それでも入らなかったってある意味凄いよ」
「……ありがとう」
ここ最近まで、先輩にひたすらお断りをしてたのは記憶に新しい。
もちろん、そんな事何度頼まれたとしても、応援団に入る気は無いので、 意思が変わることは無かった。それに例え、変わったとしても今更入ってもダンスなんて覚えられやしない。
自クラスでも応援団に入った人が大半で、入ってない人の方が珍しいぐらい。
「──だから、気をつけて」
なので不意に聞こえたその言葉に反応ができなかった。
「巻き込まれないように」
「え……」
「……忠告、しといたよ」
今までとは、トーンが違ったので、とても重要なことなのは確かだ。
「ちょっ……」
「みんな、聞いてくれるか!!」
「よっ!!団長カッコイイぜ!!!!」
彼を呼ぼうとした声はあっという間に、掻き消える。
そう、こうやって自分はよく分からないまま、ことが進んでいくんだ。
モブでいてもバチは当たらないはずなのに、いつの間にか舞台に上がらせれている。誰も知らないうちに。
来月で体育祭編完結目指します!!
クラスメイトたちと関わって欲しいな汐宮君