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無口な少年の描いたセカイ  作者: 遥野 凪
プロローグ
2/26

何度目かの春

時は過ぎて高校生になった主人公…

だけど、本当の自分なんて誰も知らないんだ。

大抵、起床時間は6時だが、(たま)に早く目が覚めてしまう時がある。

(また、あの日のことか……)

人の記憶とは実に不便なもので嫌な記憶はいつまで経ってもこびりついている。覚えなければいけないことは全然入らないオチなのに。そのせいで、テストの度に授業したところをもう1度覚え直す……実に面倒な構造である。左側には壁が見えないほど大きな棚。その中には書籍が整列している。その隣には学習机があって、その上にも何冊か本が積まれている。学習机の背にあるカーテンに手をかけ一気に開く。窓からは朝日が今日もおはよう!!と告げてくるように眩しい光を浴びせてくる。うんざりするほどの平凡な毎日。

(また、今日を過ごさないと…)

面倒臭いを超えて、無気力なまま、ぼんやりとしながらも自室を後にして、洗顔をしに1階に行った。

汐宮家の朝はいつも、祐希1人だけがいる。昔はペットを飼おうとか母が言っていたが、結局流れた。母の仕事は時間にルーズなので、基本的に全て1人でこなす。脱水場に溜まった洗濯物を洗濯機に入れてスイッチを押す。それからキッチンに行き、トースターにブレッドを入れてタイマーを設定。料理できないという人がいるけど、たった焼いたり、煮たりするだけなのに何が難しいのか。理解ができなかった。その間に、軽く部屋を掃除する。潔癖症って程でもないが、家が汚いのは嫌だからこんな風に毎朝掃除してしまう。結構、広いめの家のせいなのか掃除が終わる頃には、洗濯もトーストも出来てるので2つを適当にさばく。慣れれば全然手間もかからない。その後に弁当用のおかずを作り始めた。

(今日はおひたしでも入れようかな)

弁当作りも慣れれば面白いものだ。意外と料理は好きな方だ。


「祐希」

お弁当を作り終わり、朝食も取り終わった頃に母は起床する。そして、真っ先にリビングに向かう。顔も洗わないで。そういう所は好きじゃない。元々、母は好きじゃなかったけど。最近はますます嫌いになりつつにいる。

「おはよう、祐希」

仕方なく母を一瞥して、弁当箱を持って2階の自室に戻る。

「おはようってば」

自室に戻ってからは、鞄に学校の用意を入れて、サッサっと済ます。さっきまで着ていた寝間着を脱いで、制服に腕を通す。おろしたてのようなまっさらな白いワイシャツ。まだ馴染んでない感じだが、きっと1ヶ月が経つぐらいには馴染むだろう。

「……祐希、新しいクラスはどう?仲良くなれそうな人いたー?」

母は階段下からそんな声をかけてきた。

(……仲良くなれそうな人ってどんな人だよ)

つい先日、人生三回目の入学式があった。訳あって今回の入学式が最初であったが。入学先は、最近作られたばかりの国立衣ヶ丘大学の付属高等部だ。

「裕希、あなたは本当に凄いわ。国立大学に入学できるなんて夢みたいな話よ!!」

確かに、母の言うことも分かる。というのは国立衣ヶ丘大学は少し特殊なシステムを持つからだ。

国立衣ヶ丘大学の付属高等部ということもあり一般的な高等学校とは違う。普通の高校ならば、おそらく公立は国数英の3教科か国数英理社の5教科の入学試験という名のテストがある。私立はそこに+αで面接とか適性検査的なものがあるはずだ。しかし、ここ……国立衣ヶ丘大学付属高等部の場合は上記を受ける前に入学資格・条件があるのだ。入学資格・条件は、中学校の校長からの推薦、()しくは国からの推薦を貰うか、学業成績で中学時代に優等生として3年間維持するか、才能などが著しく秀ているかのどれか一つは必要である。当然、入れるのは強豪校に通った生徒か、才能が秀逸している生徒か、よほどのガリ勉ぐらいになる。中には国からの推薦……昔でいう遣唐使とかに送られるような人もいるかもしれないが凄い人しかいない形になる。しかし、それでは多くの一般生徒は、受験することすら権利を剥奪される形になる。なので、先程のようなモノがない場合は救済手当として、自己スピーチを課せられるシステムになった。まぁ、そんな気持ち悪い高校を受けたい人がいるのかと突っ込みたいがいるらしい。

「しかも、芸術科に!!」

因みに、汐宮祐希は芸術科と言われる学部である。とりあえず、それは置いといて……無論、以上の項目を合格したとしても、入学試験でも特定の点数以上は取らねばいけない。いくら人柄が良くても頭脳が無ければ魂のない仏であり、頭脳明晰であっても人格が話にならなければ見てももらえないというシステムである。いわば、この国のエリートを育成するために作られたような施設みたいなものだ。だから、保護者目線から見れば、息子や娘が合格したことは自慢すべきことである。一般的にはこの功績は素晴らしく輝いているだろう。……母がここまで褒めるのだから。

「…………」

「本当によく頑張ったよね!! 私ね、祐希が息子で本当に自慢できるもの」


小学1年生の頃を取り戻すように身体は華奢ながらも強くなった。この学校に入る為に中学校でも勉強は精一杯やってきたし、神様の悪戯なのか才能にも恵まれた。本当は、この高等部に入れたのも天性と言われた才能があったからかもしれない……けど。

「裕希!! 聞いてるのー?」

母の問いかけに何一つ返さない。もし、自分が母ならこんな態度をされたら怒るかもしれない。もしかしたら、息子の部屋に入り込むかもしれない。もし、父がいれば逆鱗に触れてるかもしれない。よく父は親を尊厳しろと頭の硬い事ばかり言う人だから。けど幸いなのか、本人は出張で半年近く帰らないって言っていたから家にいない。ブレザーを着て、鞄を背負い、母がいる階段をかけ降りる。案の定、下には寝間着の髪のボサボサな女がいた。信じたくないけどこれが母だ。何かと着飾ってくる母だ。彼女は耳まで赤くして掴みかからんとばかりに迫ってくる。

「ちょっと裕希、少しは返事しなさい!」

刹那、口を開き言葉を出す。――


「えっ? 今なんて……」

そのまま真っ直ぐに玄関に向かい、革靴を履く。振り向こうかと思ったが、逃げる様に扉を開けた。

(どうせ……聞こえてないし、聞いてない。)

例え、言葉を自身が発していたとしても、届いていなければきっと会話にはならない。聞こえなければ意味が無いってこの世界の偉い人は言う。そんなこと許されるはずがないのに。ブレザーのポケットの中にある音楽再生機に繋がれたイヤホンを引っ張り耳につける。こういう時、あえて曲は流さない。家から離れるように足早で学校に向かった。少しでもノイズを消せるように。


「…………はぁ。」

イヤホンをしても聞こえる騒々とした世界。聞きたくないなら音楽を流せばいいだけだけどそういう簡単な話じゃない。だけど、考えるのも億劫になる。いっそ、全てなくなってしまえばいいのに。それが無理なら自身を「存在しない」存在にしてほしかった。もし、存在しないならそれでいい。みえないまま、ここにある全てを消してしまいたい。


……いつからだろう。そんなふうに思うようになったのは。

高校生活はどうなのか…そして、過去の出来事

彼が生まれた原因とは一体…

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