とある朝の話
なんか序章終わりとか言いつつも、何故か書いてます。
この日で4月編は終わります……
ピッ。
財布から定期券を出し、それを改札で接触させる。これで人1人の情報がネットワークに張り巡らされ、どこ駅で乗車したかという情報が読まれる。
(そう考えると駅って凄いな……)
そのまま、学校方面のホーム階へ降りると、さっきの電車を乗りそびれた人やら、次の電車がいつもの電車と決めている人やらがそこそこ並んでいた。
(珍しいな……いつもこんな並んでないのに)
そんなことを思い、ふと電子掲示板に流れるメッセージを見る。
流れる内容は、優先座席付近での……という注意喚起、あとは4月なので新入生、新入社員などへのエールなどが流れることが基本だが、その日は赤字で、信号トラブルによる確認という内容が流れていた。
よく見れば、普段乗る電車が4分近く遅れていた。
(ま、しょうがないか……)
事故にどうこう行ってもしょうがない。結局、1番階段に近い車両に並んで待つことにした。
(電車は遅れても遅刻にはならないし楽だ)
普段乗る(よりは4分以上遅れた)電車に乗り、学校最寄りの丘ノ駅に降り立つ。
(今日も、明日も、明後日も……か)
1人が出れば1人入ってくようにされる改札。
(改札はどんなこと、考えて毎日生きてるんだろ)
ぼんやりと考えてしまい、さっき通過した改札を少し離れた場所で立ち止まって、振り返って見てみた。
ある人にはパスケースで思いっきり叩かれ、またある人には切符を挿入され、またある人には財布をかざされるが反応出来なくて、バーで引き止める。
当然、止められた人は舌打ちしたり、中にはそれを無視して通過していく人もいる。……立ち止まってみるまでもない、当たり前の日常光景が目の前ではずっと続けられていた。
(改札がもし人ならば、こんな目には合わなかったんだろうな……)
これが人と物に対する扱いなのだろう。人にこんなことすれば、暴力や窃盗罪になるはずなのだから。
(物を大切に……か)
物に感情なんて絶対にない……はずなのに、日本人を含め多くの人々は物に魂が宿ると信じている。恐らく、職人さんとかが誠心誠意を込めて作っていたら、何か感じるみたいな感じの曖昧なものだ。
…まぁ、物が勝手に動き出せばポルターガイストやら祟りとか言ってるのだから、無茶苦茶な口実を言い出すオチだけど。
(全くもって都合良すぎる話だ……)
臭い物に蓋をするという諺の通りの世の中。所詮は、大人が偉い。どこか平和ボケな国家。このままではヤバいとか言ってるけど、結局は国の借金は解消されないし、国防もユルい。
……いつまでも続く退屈な毎日。そんな日々が終わるわけが無いからこんな風に腐ってしまったんだろう。
だけどそう言うと同時に、自分はそんな他人とは違うだとか、明日になれば平穏な日々は無くなって非日常になる。なんていう一抹の期待を持ってる自分がいる。糾弾せざるを得ない。
(似た者同士、どんぐりの背比べだ)
特別ならこんな所にいない。そう決め、平凡なら平凡らしく……自分は昨日も歩き、明日も歩くはずの道にまた足を向けた。
学校に着き、普段通りクラスで決められたロッカー室に向かう。
(今日は新刊の発売日だっけ……)
靴を取り出し、履き替えつつ、そんなことを思い出す。
今となっては、本のある空間が好きになっているので、図書館は月に2、3回行き、学校の図書室も常連客と言われるほどの利用者なのだから、昔から好きだと思われそうだが、実は興味さえなかったぐらいだ。
(ソラ……)
この前、図書棟……白虎棟に行った時も含めて、書店に行く度、本を手に取る度、とにかく教科書ではない本に触れる度に思い浮かぶのはたった1人の少年の名前だ。
アスカノソラ。本の素晴らしさを教えてくれて、たった1人の親友。
――ほんをえらぶんじゃないよ。ほんがえらんでるんだよ
肩から掛けてる鞄の中には、授業セット(テキスト、ノート)、電子辞書、筆記用具、そして一応スマートフォン。そして、ハードカバーの単行本と文庫本を1冊ずつ入れている。
――ほしめぐりならぬ、ほんめぐりだね
顔をクシャっとしていた、猫みたいな彼はそう言いながら本を持ちきれる限界まで持っていた。
そんなことを思い出すと、少しだけ頬が緩んだ。
(そう言って、いっつも借り出し禁止のも取ってたな……)
たった1人の親友のことをきっと親は知らない。 ……自分も親友とか言いながらも彼が今、どこで何をしているのか分からないからほぼ変わらないけど。
――ね、きみ。あそばないで、そんなたいくつなことして、たのしい?
……もし、あの時。彼が間違えて入ってこなかったら、あんな変哲な質問を投げてこなかったら。こんな本の虫にはなってなかったかもしれない。
(本当に……最後まで何もかもソラはソラだった)
彼は、読書は暇潰しとか時間の使い方の2番目に無駄なこと。とか言ってたけど、そんなことは無いと今は思う。
実際、読書は語彙力を上げれる手段の1つだと思うし、何より読んでるだけで他の誰かの人生を見れるから好きだ。
彼は、読書を勧めてきた時から難しい本をよく読んでたが、それは引き継げなく、よく読んでるにも関わらず、特段好きなジャンルや凝って本は集めてる訳では無いけど、今でも続けてることだ。
「ゆうき先輩」
名前を呼ばれると同時に、クイッとブレザーの袖を掴まれ、そちらに目をやる。
すぐ横には気付かぬうちに立っていた少女は、大人しげで、背は小柄。前髪を眉下に整えて切って、黄色のナイロールフレーム眼鏡女子がこちらを見つめて立っていた。言うまでもないが、小柄なので首ごと少し起こして、目線を上げているが。
(誰、このぱっつん?女子)
訝しげに見ていると、慌てるように、顔を逸らす。
「す、すみません……つい、いつもの癖で」
(最近の女子は袖掴むのが癖なのか……)
頭の中でショートしかける回路を、急いでクールダウンさせる。
しかし、現実で行われている行為には何も変わらない。視線を再度、手元にする。
(世でいう、そ·で·く·い……だよな)
袖クイ……彼女にされて嬉しい甘えの行動ベスト何位かに入る行為の1つだったはず。
(いや、そもそも興味が疎すぎるからなのか知りませんが、どう反応すればいいか分からない)
あの変な先輩といい、女子の一挙一動が分からない。怖い。度し難い。
「あ、えと、呼び止めたのは……ってうわぁぁぁぁ!!!!??」
彼女は話しながら、自分の手が何かを掴んでいる……無意識にやってたことに気付いたようだ。
一気に紅潮し出し、俯きつつ後ずさっていった。
(あれ、この行為が癖じゃなかったのか?)
「ご、誤解しないで……こ、こ、これは……えと、その……そう!不可抗力ってやつです。決して、く、癖じゃないから……その、えと…………」
どうやらわざとでも、意図的という訳でも無さそうで、かなり困惑した様子を見せている。
(まぁ、知らない赤の他人に袖クイをしてしまったんだから……)
しかし、この話し方には聞き覚えがあった。
「……」
(というか、彼女はここにいる理由って、ここに用があるってことならさ)
彼女の足元に目をやると、案の定ローファーであった。
そこからゆっくりと視線をあげていくと、特徴的な服装だった。
(……マントじゃないな。……フーデットケープか?)
母がよく言う言葉でなんとか整理して試みようとしたが、分からない。
だが、ブレザーの代わりにその何かを肩から羽織っている。その間からは、グレーのカーディガンが見えている。
「あの……ゆうき先輩、さっきはすみません」
そして、この先輩呼び。間違いない……。
(多分、同じクラスの誰かだ……)
曖昧なのは興味を持って自己紹介の時に聞いてなかっただ……これは本当にどうしようもない。
「わかる……かな。隣の席なんですけど」
勇気を出してくれてるのか、さっきの慌てた様子が嘘みたいに話してくれる。……さっきの自己紹介で分かればだが。
(……隣、両方似たような女子なんだけど)
確か、両隣共に同じぐらいの髪の長さだったし、授業中はカーディガンだったような気もする。……最も、授業中に左隣の人は楽しげにスケッチして、右隣の人は怪しげに微笑を浮かべているという選択肢だが。
(どっちもどっちだよな……行為は。)
そして、出来ればこの人は右隣でないと祈りたいが。
「……あ、どうせ同じクラス。またの機会に話します!!」
答えを聞こうと思っていたが、彼女は慌てて靴を履き替えて駆け上がっていった。
「…………」
別に遅刻でもなんでもないのに、なんで急いだんだろ……なんてぼんやりと考える。
一応、時刻を腕時計で確認してみると8:15を過ぎた頃だった。
(あ、そういうことね……)
そういうと彼女が去った方に少し駆けるように上がった。
ここの学校は、8:15~8:30に集団登校並みに生徒が来るらしい。……と頭で思ってるとさっきまでいた所は偉く騒がしくなっていた。
しかし、そんなことより頭の中では1つの定理が確立された。
(この学校の女子生徒=マイペース過ぎる)
そのまま、階段を駆け上がり、教室の扉を横にスライドさせる。
さっき、登校ラッシュが来たばっかりなのでまだちらほらしかいないはずの教室……だと思ってた。
「こんな時間に来てるのか、汐宮」
奇妙なことは、想像もしない形で起こりうるようで。
何故かこんな時間にいたことのない担任がいたのだ。それも……。
(何やってるんだ、この人……)
黒板に普通に上手い絵画を描いてた。
「お、これは葛飾北斎のだな……」
今回は改札を描写……いや、物には感情宿るんでしょうか。
ただ、物に足は生えてるんじゃないかと思います。すぐものなくすので




