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無口な少年の描いたセカイ  作者: 遥野 凪
プロローグ
1/26

幼き頃の夢

初めまして遥野と言います。

今回初めて書かせていただきました

よろしくお願いします

『しようがこうはたのしみてす!』

入学前に大きな画用紙に書いた目標みたいなもの。ひらがなも、ぐちゃぐちゃでなんとか読めるぐらいのレベル。

そんな時に書いたのだからよっぽど楽しみだった。

多分、遊園地に行くよりも美味しいお菓子の家に行くよりも、学校が楽しみなぐらい……。


小学校の時、いろんな夢を描いていた。空を飛びたいとか魔法使いになりたいとかそんな感じの。

(でも、ぼくははやくがっこうにいきたいな!)


とはいっても、小学一年生の時は身体が弱くて、病院に住んでた感じで最初はあまり行けなかった。何せ入学式から休んでたぐらいだ。

未熟児で生まれたから親に小学生になるまでに、どれほど迷惑をかけたのか、正直分からないほどだ。きっと、何度も泣いたんだろうって思う。


「今日はいつにも増して元気ねえ……」

どこかのんびりとした口調で声をかけてくれる。その時の担任の佐々木先生である。

「ぼくはいつだって、げんきだよ!」

結構、歳をとった感じの人だったが、何かと世話を焼いてくれていた。

「元気がいいねえ……私もそれぐらい元気だったかなあ」

佐々木先生は時間を見つけてはわざわざ病院まで見舞いに来てくれた。その度に、学校に行きたくなるような病気を持っていたような気がする。

その事を話すと、登校(スクール)症候群(シンドローム)とお医者さんはふざけてつけてきたけど、それは無いだろうなと思っていた。

「ねえねえ!ぼく、はやくがっこういきたい!いきたい!!いきたい!!!」

ベッドの上で暴れてミシミシ言わせると、看護師のお姉さんとかおばさんに怒られちゃうけど、先生の場合はいつも笑ってくれる。

「早く元気になって小学校においで」

こうやって(なだ)めてくれるように声をかけてくれた。


こんな日々を続けていたら自然と毎日思ってしまう。

(がっこうに、はやくいきたい!)

だから、早く元気になって、学校に行きたい思いが募り、心はそれでいっぱいになった。

頭の中でも、色々思い描いた。給食を食べたり、遊具で遊んだり、友達を作ったり……。

とにかくしたいことがありすぎたし、全てをやりたいと思っていた。きっとそれが体調面にも来たのかもしれない。


小学校に初めて行ったのは確か、初めての遠足終わりの6月。それも中旬ぐらいだろう。

実をいえば、それより前から……4月下旬から、体調面も安定してきて、少しずつ外出できるようになっていた。ようやく先週、病院から家に住むことも許可され当たり前に過ごせるようになった。

「うわぁぁ!!!凄い!」

家に行くと……自分の家だから、行くなんておかしいけど、帰ると書くのはどこか言葉が合わない気がした。

それほど、病院に慣れてしまったという悲しい現実のせいだけど。家にはきず一つ無いランドセルや鍵盤ハーモニカ、そして、見たことないものばかりが詰まった箱があった。

僕は、あまりに興奮しすぎて眠れなかった。もちろん、凄く怒られたけど、懲りずにお道具箱を抱きしめて目を輝かせていた。

その後、明日持って行くもの全部、没収されてしまったけど……それでも全然眠れなかった。


翌朝、学校に行く準備をしていたときに母さんから地図を渡された。

「ぼく、ひとりでいくの?」

僕が尋ねると母さんは頷く。

どうやら、親は二人揃って仕事だ。と一点張り。地図はとても分かりやすく、丁寧に書いてくれたので、読めたけど、着くかも不安だった。

(ええーと……こっちで曲がって……それから。)

地図を見て、空見て、前見て、右見て……何度も何度も繰り返した。


結局、近くのおばさんに聞いて、慣れない足取りでようやく学校に着くことが出来た。だけど、その時には前日のドキドキしていた気持ちなんてどこにもないぐらい、どうしようもなく怖かった。

他の子達はもう仲良しになっている中で、一人になるのではないかという不安。それが全てを覆い尽くした。

(どうしよう……ともだちできなかったら。)


入学して今日まで一度も来たことが無かったし、目の前に赤やオレンジ、黒や水色などのカラフルなランドセルを見ると、さらに不安が増えて、泣きそうになってしまう

(ひとおおい……ぼく、むり。)

怖い気持ちや不安な気持ちで、押しつぶされるんじゃないかと思ってしまうぐらいだった。だけど、佐々木先生が何度も会いに来てくれたことを糧にして教室まで駆け上がった。


(ここ……かなぁ?)

地図の下には『きょうしつ いちねんにくみ ささきがっきゅう』と書かれている。上を見ると1-2というのが見える。

(まぁ、はいればいいかな! よし、はいろー!)

教室のドアに手をかけ右にスライドさせる。

「おはようございます!」

不安を払うように精一杯、元気に声を出した。きっとフロア全体に響くぐらい大きな声で。

教室には何人か同じぐらいの子がいて、楽しそうにお喋りしてたけど挨拶を聞いてみんながこっちを振り返る。

(え、こわいよ?)

不安ながらも教室に入っていく。

でも、僕が進んでも誰も止めようとしなかった。

(よかった、ここであってたんだ!!)

今までの不安は消えてこれから始まる楽しい毎日が楽しみになった。

だけど、初めて学校に来たから教室も入るのも初めて。もちろん、見るものも初めて……。後ろには四角の棚みたいなのがある。

かと思えば、前には凄く大きな黒っぽい板があるし……。とにかく、今は持っている荷物を置きたい。どこが自分の席か探した。

(そういえば、せきってなにかにかいてあるんだっけ?)

前の大きな黒っぽい板に白い紙が貼ってある。

よく見ると四角の枠が書いてあり、上の方に【こくばん】と書いてある。この大きな板は【こくばん】というみたい!!

(まだいまはあいうえおじゅんってせんせいがいってたよね。)

そこに【あかい】さんとか【いのうえ】くんとか書いてある。多分、これが座席表かな。

僕の名前は汐宮祐樹(しおみやゆうき)。だから、さしすせそ。すぐに見つかる。





……そう思っていた。






(【さいとう】……【さはら】……【しおの】……あれ?)

このクラスは確か僕を含めて29人のはずだ。なのに。

(26、27、……28? あれ……?)

僕は、その紙を何度も見返す。

「おはよう!」 「おはー」

(……どういうこと?……おかしいよ)

「マッハフォルテ✩」 「シューティングエレーナ!!」

段々、周りの人が挨拶を交わす声と椅子を引く音が増えていく。

(まって……)

ここに僕は確かにいる。いるのに僕は……僕の名前は。










――僕は……存在しない。






何度、見返してもない。見つからない。その座席表のどこにも【しおみや】なんて名前がなかった。

あったはずの真実が無かったことになるみたいに……全て消されたみたいに綺麗に。


読んでくださりありがとうございます。

コメントなど頂けたら幸いです

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