アヤメⅠ
私は殺女。殺める女と書いてアヤメ。
もちろん本当はそんな名前じゃないけど、私が今までしてきた事と私の人生、家族の事を考えると彩芽なんかより、殺女の方がよっぽど似合っているだろう。
【家族の事を……】なんて書いては見たけど、私にはそんな人……
そこまで書いてみて、飾りっけのない大学ノートに雫が垂れる。
これは、涙。
どうやら私にもまだ、感情というものが残っていたようだ。
痛い。苦しい。寒い。悲しい。怖い。寂しい。
母は浮気、父のことは放ったらかし。
そんな母を、やがて父は、殺した。
自分の犯した罪に押しつぶされておかしくなった父は、電車の中で刃物を振り回し、10数人の死傷者を出し、法の裁きによりこの世を去った。
両親を亡くし、大学をやめて社会に出、私と弟の学費と生活費まで支払っていた兄は、やがて私や弟に暴力を振るうようになり、弟と我が身を守るために、私が殺した。
弟は、兄による暴力、学校の同級生や先輩からの虐めに耐えられず、自殺した。
だけど、私にとって家族をなくしたことなど、本当にどうでもいい事だった。
マサと別かれてから……。
私は、母のように身勝手じゃない。
父のように感情的でもない。
兄のように暴力的でもない。
弟のように弱虫でもない。
私は完璧。
母のように好奇心旺盛ではない。
父のように感性豊かでもない。
兄のように献身的でもない。
弟のように勇者でもない。
完璧な悪魔だ。
殺女だから……




