シルバーバレット9
目が覚めると真っ白な天井が見えた。身体を起こし周りを見渡すと自分がベッドの上にいることが分かった。
一人部屋の個室で窓からは朝日が差し込んできている。
「目が覚めたようね」
ミクリが花をもってやって来た。
「あなた丸2日も寝てたのよ。あっ自宅と学校にはうちの連中が適当に誤魔化しておいたから心配しないでね」
「そんなに寝てたのか…通りで身体がダルいわけだ」
そう言うとミクリはクスッと笑った。花を花瓶に指すとそのままベッドの横の椅子に座る。
「寝ている間にあなたの能力を調べさせてもらったわ。能力発動時のモニターの映像やあなたの身体にかかって影響などうちの研究チームが診断したの…ズバリあなたの能力は『加速』」
「すごいな。そんなことまで分かるのか」
「最初は瞬間移動かと思ったの。でもモニター映像をスロー再生にすれば怪人に向かっていくあなたの姿が映っていたわ」
ミクリは印刷した写真を正義に渡した。
そこにはしっかりと敵に向かうシルバーバレットの姿が写されている。
「恐ろしいほどの速さね。でも2回の使用であなたの身体は限界を迎えた。まだまだ課題は山積みね」
「あのさ、1つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「奇遇ね。私もあなたに聞きたいことがあるの」
「分かった。じゃあミクリからいいよ」
二人はお互いに疑問をぶつけ合った。
◯
ミクリの疑問はこれだ。正義がなぜヒーローシルバーバレット…父親と同じ姿と能力になったのか。
この疑問はすぐに解けた。正義はある特撮のヒーローに憧れていてそのヒーローがシルバーバレットなのだと言っていた。確かにネットで調べると直ぐに出てきた。
「こんな古い特撮が好きなの?」
「古くても色褪せないかっこよさがあるんだよ。ってか年月が経つ毎にかっこよくなっているな。ジーパンみたいだ」
「それはわからないけど…とりあえずあなたはこのヒーローに憧れて変身したのね」
「ああ、そうだよ」
正義は父の事を知っているわけではなかった。しかし新たな疑問が浮上した。この作品は一体誰が作ったのだろう?
もしヒーローの存在がバレてしまいクラウンが存在を隠蔽するために特撮を作ったのならミクリの耳に入っているはずだ。
クラウン以外の外部の人間が作った可能性が非常に高い。
「なあ、俺からも質問いいか?」
考え込んでいたミクリに申し訳なさそうに声をかけた。ミクリは我に帰り「あっごめんなさい。なんでも聞いて」と言ってくれたので正義は少し間を置いて問う。
「もしかして、俺と同じ姿をしたヒーローがいるのか?」
正義は昨日の戦闘で怪人に言われた言葉をミクリに言った。正義を振りかざした悪魔と。
「あいつからは強い恨みみたいなのを感じたよ。でもそれは俺に向けられたものじゃない。俺のあの姿にシルバーバレットに向けられたものだった」
「……」
「なあ、なんか知ってるんじゃないのか?さっきのお前の質問といい絶対何かあるんだろ?」
「…それはまだ話すことは出来ない。でも時が来たら全部話すわ。約束する」
彼女の目をみて嘘を言っていないと確信した。
「分かったよ。約束だからな!」
正義はあっさりと引き下がった。彼女は嘘をついていない。なら絶対に知る機会はあるからだ。
二人は拳を合わせた。先に出したのは正義の方でミクリがそれに当てた。
「いてっ!」
「あっごめん!」
ぶつけた拳に痛みを感じ正義は苦痛を漏らした。
◯
「…なんたることだ」
辺りも寝静まった夜。正義と怪人が戦いを繰り広げた廃工場で男が片膝をついて嘆いた。
男はサングラスをかけスーツを着ていて長い髪を後ろで縛っている。手を血痕の上に置き何かを確認しているようだった。
「へーここがヴァイルの縄張りかぁ。いかにもあいつの好きそうな感じ」
「カイム。我々は遊びに来たのではない。口を慎むんだ。」
カイムと呼ばれた少年は「はいはい」と気の抜けた返事をした。彼の後ろにはもう一人若い女が立っている。短髪の髪は綺麗に整えられていて彼女の切れ長な瞳は左右で色が違った。右は赤で左は黄色のオッドアイだ。
「で、どうするのですか?まさか彼の敵討ちを?」
「いや、彼は私の友だったがそんなことはしないよ」
男は首を横にふった。
血痕から手を離すと男は立ち上がった。その顔には笑みが浮かんでいる。
「シルバーバレットか…。また懐かしい奴が出てきたな」
男は踵を返し廃工場を後にした。他の二人もそれに続く。
「今度は楽しませてくれよ。ヒーローさん」
男たちは夜の闇へと姿を消した。