シルバーバレット5
タクシーが止まりその場で目隠しを解かれた。正義からしてみれば目隠しを付けられたのはかなりショックだったようだ。
ミクリはといえばそんな正義の心はお構いなしにクラウンのビルへ入っていく。
正義も今回は椅子に縛られてからの解放では無かったからいいかと前向きに考えビルへと入っていった。
ビルに入るとすぐにミクリを見つけ、彼女の背中を追いかけた。どうやら今回の目的地は取調室でも桂木の療養部屋でも無いようだ。
「正義くん昨日話したこと覚えてる?」
「うん、覚えてるよ」
「心の準備は出来てるかしら?」
「少し緊張してるけど全然行けるよ」
昨日帰宅する際ミクリから今日の予定を話された。内容としては早速怪人との戦闘だ。
「頼むわよ。そのために無理をしてまであなたをヒーローにしたんだから」
現在サンライズによって深刻なダメージを負っている蝙蝠怪人を討伐することが今回の作戦内容だ。
あの怪人を倒さなくては上に黙って民間人をヒーローにした桂木には重い処罰が下るだろう。下手すればヒーローとしての活動は禁じられるかもとミクリは言っていた。
民間人を巻き込む…これは桂木にとっても苦渋の選択だっただろう。自分が不甲斐ないばかりに守るべき対象である民間人に戦わせなければならない。
これがヒーローにとってどれ程辛いことかは正義にも分かる。だからこれは正義にとっても一生一大の大勝負だ。
「必ず勝つよ。あんなヤツに負けてたまるか」
その言葉を聞いて背中を向けていたミクリが振り返った。彼女の顔には先ほどまでの眉間のシワはなく代わりに強い意志に満ちていた。
「その言葉信じていいのね?」
「ああ、まかせとけ」
ミクリの問いに正義は頷き言った。
相手の本気には本気で返す。それが正義のやり方だ。
ミクリは「嘘にならないことを信じてるわ」と言い踵を返し歩き始めた。少しは信用してもらえたかなとか考えながら正義もそれに続いた。
ミクリに連れてこられたのは『実動対策部隊』と書かれた標識のある部屋の前だった。
「ここがこれからあなたの活動する部屋よ。中で皆が待ってるわ」
勧められるがまま扉を開けると七、八人ほどの人が正義を迎い入れた。その中に桂木の姿もある。桂木はまだ回復していないので車イスだ。
「正義よくきてくれた歓迎するぞ」
桂木が車イスで近くまできた。周りの人たちの桂木を見る目は尊敬そのものだ。きっと彼がここのリーダーなのだろう。
これは顔馴染みでもしっかりと挨拶をしておかなければと思い正義は桂木に深々と挨拶をした。
「こちらこそ桂木さんの元で学ばせて頂きます。よろしくお願いします」
これは顔馴染みでもしっかりと挨拶をしておかなければと思い正義は桂木に深々と挨拶をした。すると桂木や周りの人たちがキョトンとしている。
「正義…勘違いしているようだがここのリーダーは俺じゃない」
「え?じゃあ一体誰が…」
桂木が正義の後ろを指差す、指の示した方に目をやるとミクリが立っていた。一同が一斉にお疲れ様ですと挨拶をする。
唖然としている正義にミクリは凛とした表情で
「ようこそ実動対策部隊へ春屋正義くんあなたを歓迎するわ」
と言った。彼女の自信に満ち溢れた瞳はより輝いて見えた。
しばらくして自己紹介が始まり。その後今回の作戦会議が行われた。
現在蝙蝠怪人は昨夜の廃工場に息を潜めているという。どうやらあの一帯が奴の狩り場らしい。
「昨日の夜からの行方不明者は?」
「昨夜の戦闘から現在までの時間で1件もありません因みに被害届は一件出てます。まあ今回の問題には関係ないでしょうが」
「奴のことだ、ネズミや野犬で傷を癒している可能性も十分あり得るぞ」
蝙蝠怪人は生物の血を吸い傷を癒すことが出来る。それと同時に血を吸ったものの能力を手に入れることができる恐ろしい怪人だと説明を受けた。
奴を野放しにしていれば必ずクラウンの脅威になる。そして手負いの今こそが最大のチャンスなのだ。
「ヤツに時間を与えないように作戦時間を早めるわ。正義くんいいわね?」
「あっ、はいリーダー!」
「ミクリでいいわよ。どうせ年も同じくらいだし」
「わかったよ…ミクリ」
ミクリが上司と知ってからつきあい方に戸惑いを感じ始めたが、なれるまでの辛抱だ。
作戦開始時間予定より早まり一時間後になった。
各々が作戦のための準備をする中、正義は深呼吸をして変身装置のバックルを強く握りしめた。