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ハードラック 1

「……」


晴天に恵まれた早朝。洗面台の鏡で正義は歯を磨きながら寝ぼけた顔で鏡に写った自分を凝視していた。身体を触り何かを確かめる。

(さすがに変わらないか…)

正義が退院してから一週間が過ぎた。幸いクラウンが学校や自宅に上手くごまかしてくれたおかげで何も突っ込まれることは無かったが文化祭が近いのでクラスメートからは少しだけ小言を言われた。一体なんて言ってごまかしたのかミクリに聞いたが答えてくれなかった。

正義は大きくため息をついた。

理由はこの一週間の成果がまだ出ていないからだ。

退院からの1週間。放課後になるとクラウンの車が校門に来てそれに乗りこみクラウンへ向かうの繰り返しだ。前回の戦いで見つけた課題を克服するためである。

毎日の実働部隊の面々による体力錬成や桂木による能力のコントロール方法など夜遅くまで鍛えられていた。自宅には学祭の準備だと誤魔化している。現に正義からしてみれば前よりもヒーローになってからの方が毎日が充実していた。

それなりに痛みは伴うが正義の組織の一員としていれることが何よりも誇らしかった。


「おっ、今日は早いな」


玄関を出ると目の前に平林が歩いていた。彼は正義の顔を見て珍しそうに言った。


「こんな時間に出るなんて珍しいじゃん」

「平林こそ、いつももっと遅めだろ?」


よく見ると平林の頭には寝癖がついていた。


「学祭の準備しないとまた委員長に怒られちまうからな」


平林はすごくめんどくさそうな顔をした。


「おかげで寝癖も直してねえよ。こんな早くでるってことはお前も同じだろ?」

「まあね」


今クラスは学祭に熱をいれている。それは学祭でクラス対抗で出し物を競っているからだ。どの出し物が一番よかったかなどをお客さんの投票で決めてもらい見事一位に輝けば校長から表彰されるのだ。

しかしそんなものめんどくさがりの平林が率先してクラスに貢献するわけがない。しかしサボられると困るので委員長は考えた。

放課後居残りをしたくないものは早朝から朝のホームルームまでの間に作業をすれば放課後は解放してやるとルールを作った。それにより嫌々でも早起きして学校に向かっているのだ。

正義もヒーローになった今では正直学祭などどうでもいいが放課後のヒーロー活動のため、重たい足を引きずって学校に向かうのだった。



放課後になり真っ先に校門に向かうといつものようにクラウンの車が待っていた。

正義が乗り込むのを確認すると車は出発した。

運転手の顔はいつもと違い険しい。

それに疑問を抱いた正義は質問をした。


「あの、今日は何かあるんですか?」

「怪人が出たらしい。このまま現地に向かうからしっかり捕まってろよ」


怪人、という言葉を聞いた瞬間正義の顔が険しくなる。

ついにきたか、正義は自分の中で何かが熱くなるのを感じた。

現場について直ぐにミクリと合流、作戦内容を聞いた。今回は前回と違い突然事態だったので交通規制などの処置があまりできかったとの事だった。

現場は近くが学校の通学路にもなっていて人目につきやすい場所だ。


「ヒーローや怪人の存在を民間人に知られてはいけないわ。早急に倒して」


ミクリの言葉に正義は頷き、変身した。白銀の戦士になった瞬間怪人のいる場所に向け走り出した。

現場に着いたとき正義は困惑した。


「え?」


目の前に広がっていたのは血だらけで倒れている怪人ともう一体、膝をつき息を切らせている。倒れている方は絶命しているようだ。

そして怪人の額に銃口を向ける男の姿があった。

黒のトレンチコートに身を包みフェイスマスクをつけた男。ただならぬ禍々しさがある。正義はすぐにこの男がやったのだと悟った。


「遅かったな。ヒーロー」


男は顔を向けずこちらに話しかける。


「なんでヒーローの存在を!?」

「知ってるさ、シルバーバレットだろ?声からして20代前後か若いな」


男は鼻で笑った。


「ヒーローごっこなら他所でやれ、これ以上関わるなら…」


男は引き金を引き怪人の頭を撃ち抜いた。怪人はそのまま力無く倒れた。頭から流れる血が地面に広がっていく。

男は怪人には興味がないようでこちらを見据えている。


「殺すぞ?」


男の突き刺さるような視線を肌に感じ彼が冗談を言っていないと分かった。

しかし正義も引かない。ここで終わるわけにはいかないのだ。


「あなたがなんて言おうと、俺は守るために戦うと決めたんだ。悲しむ人たちが増えるなら…最後までやり通してやる」

「…そうか、なら…」


男は銃を向けた。しかしその相手は正義ではない。銃の向けられた先をみる。そこには下校している子供の姿があった。


「おいっ!ちょっ…」


彼の目にためらいの色はない。なんの躊躇もせずに男は引き金を引いた。

瞬間正義も能力を発動させる。桂木との特訓を思いだし、うまく出来るか不安だったが躊躇してる暇はない。

銃弾の速度よりも速くなった正義は素手で銃弾を掴んだ。


「…ほう」

「馬鹿かあんた!?子供を殺す気かよ?」


正義は叫んだ。しかし男は動じずに言う。


「お前たちからすればヒーローや怪人の存在は民間人には機密事項だろ?あの子供が我々の存在を見ていたとしたら君たちには都合が悪いのではないか?」

「ぐっ…それは…」

「覚えておけよヒーロー。所詮君たちのしていることは何の解決にもならない。人類は奴等という脅威を知り立ち上がらなければない。自らの手でな…」


男は踵を返し去ろうとする。


「あっ待て!」

「また会おう。そして次に会う時、お前がクラウンに所属しているのなら…俺は全力で貴様を潰す」


それから男はこちらを振り返ることはなかった。

正義はただ男の背中を見つめることしかできなかった。彼の背中は悲しみを背負っているように正義には見えた。

後にミクリから聞いた話で彼が誰なのか知ることができた。

人知れず怪人を葬る地獄の使者。場合によってはクラウンの人間にも手をかける伝説の殺し屋。

人は彼を恐れこう呼んだ……地獄の執行人ハードラック。


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