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シルバーバレット 1

人生とは残酷なものだ。

少年は学校への登校中にふとそんなことを思った。

少年の目の前には今まさに生徒たちが学校へと歩みを進めている。気だるげに歩く生徒。単語帳を見ている生徒。友人と談笑をしている者もいる。でも、彼が見ているのはそんな景色ではなく、その道路の隅を歩く集団だった。

そこには三人の不良生徒がゆっくりと歩を進めていた。三人が大きくて見えにくいが彼らの中に眼鏡をかけた生徒が鞄を抱えながら怯えている。まるで三角形の檻の中にいるみたいだ。

見た瞬間理解した。彼らは友人ではない。きっと周りの生徒たちも理解してるだろう。でも彼らは動かない。

だって自分の事ではないから、自ら危険なところに飛び込まないが彼らなりの処世術なのだろう。

だから知らないふり、見ないふりを決め込むのだ。

少年…春屋正義(はるやまさよし)はため息をついた。そして不良達に近づいていった。


「おい!」

「あ?誰だてめえ」


不良の肩を掴んだ正義に振り向いた不良のドスの聞いた声が飛んでくる。しかし正義は怯まずに言った。


「正義の味方だ」


そういうと正義は拳を振り上げた。



正義が学校に登校したのは朝のホームルームが終わり1時間目が始まる5分前だった。あの後正義の拳は横にいた不良に押さえられ、そのまま近くの公園に連行、リンチという作業が行われた。


「またハデにやられたな」


正義が席に着くと前の席であり幼馴染みの平林(ひらばやし)が笑いながら声をかけてきた。今の正義の制服は不良との一件でボロボロだ。


「…砂利道で転けたんだ」

「嘘つけ、どうせまたタチの悪い連中に突っかかってったんだろ?」


正義は顔を背けた。その反応に平林は「当たりだろ?」と言ってまた笑った。


「しかし、よくやるよな。無視すればいいじゃねえか。関わらなきゃ無害なんだしよ」

「じゃあお前は目の前で悪事を働いてるやつを見てなんとも思わないのか?」

「いや、確かに気分はよくねえよ?だけど考えてもみろお前一人で何が出来るんだよ?」

「うっ…それは…」

「現に返り討ちにあってるし」

「で、でもいじめられっ子は逃がせた」

「そいつの分までやられたんじゃ意味無いわな」


痛いところを突かれ言葉が出ないところに授業を告げる鐘がなった。


「まあ、あまり無茶するなよって事だ。それと今日学祭の準備あるからちゃんと出ろよ?」


平林が言い終え前を向くのが先か教師が入って来て当直が起立をかけ一連の動作が終了すると授業が始まった。

一時間目はテストが近いという事もあり授業は自習だった。

正義は教師が配ったテスト対策用紙をとなりに置いて必死でノーートに向かってシャーペンを走らせている。

ノートに書いているのはテスト対策の内容ではなく、正義の好きなアニメ『シルバーバレット』の最終回の内容だ。

この作品は正義が幼い頃に放送されていた物で彼はDVDやファンブックを集めるほどハマっている。しかし納得がいかないことに最終回は放送されず未完のまま終了してしまったのである。

シルバーバレットの活躍は幼かった正義の魂を震えさせた。

「大きくなったらシルバーバレットのようなヒーローになる」と両親や友人達に言って回ってその光景がとても微笑ましかったが高校生になった今でも同じことをいうのだから笑い事ではない。


「またそのアニメかよ」


教師が退室したのを見計らって平林がひょっこりと顔を覗かせた。


「好きなんだからいいだろ」

「小さい頃から飽きずに見てるよなぁ感心するよ本当に」


平林の発言は悪意がこもっているように感じられた。

正義は無視して作業を続ける。


「なんかスマートでカッコよくないよな」

「なんだって?」


正義はノートから顔を上げ平林を見た。彼はいきなり正義が顔を上げたので少したじろいだが続ける。


「だってさシンプルすぎるだろ。武器とかないしよ」


正義と平林はこの辺の好みが全く合わない。平林はどちらかというと翼が生えてたり色々な色の入ったガチャガチャしたヒーローが好きなのだ。その点シルバーバレットは頭に1本反り返った角があるだけ、配色も銀色を主調としたシンプルなものだ。

幼い頃、平林が正義の家に遊びに来てシルバーバレットのDVDを鑑賞した際に大喧嘩をした。この時二人はしばらくお互い口を聞かなかった。


「本物のヒーローは武器なんか持たなくてもいいんだよ。スピードがあるから」

「こいつ速いよなー」

「ごらぁっ平林!今自習だぞ!後ろ見るな」


突然ドアのガラスから覗き混んでいた教師が入って来て会話はそこで終了した。

そしてダラダラ一日が過ぎていった。

放課後、正義は学祭の準備があり帰るのが遅くなった。

辺りはすっかり暗くなってしまっている。時計を確認すると夜の八時半になろうとしていた。


「マジかよ…!」


正義はかなり焦っていた。

9時には見たいドラマが始まってしまう。もちろん録画は怠っていないがリアルタイムで見て録画もするというのが正義なりのドラマの楽しみ方だった。

正義は近道をすることにした。この通りは昼間でも薄暗く、普段は気味が悪いから通らないが今は一刻をを争う事態だ。正義は急いで通りを走り続けた。

すると近くで何かがぶつかり合う音がし、正義は足を止めた。

音はかなり激しく響き渡る。

正義の好奇心はドラマの楽しみを上回った。そして音の方へと歩みを進めさせた。

どうやら音は廃墟の中から聞こえてきているようだった。

近くまでくると音と交ざって会話のようなものが聞こえてくる。正義は建物の中に顔を覗かせると、そこには目を疑うような光景が広がっていた。

なんと中には深紅の鎧を身に纏ったヒーローと怪人が激闘を繰り広げていたのだ。

深紅の戦士は怪人に猛攻をしかける。怪人はパッと見て蝙蝠のような外見をしている怪人は戦士の攻撃を避けるために翼を広げ空中に逃げた。口から恐ろしい牙を覗かせながら怪人は言う。


「さすがはサンライズ…。力の弱まる夜ですらこの強さ…!侮れんな」

「口数の多い野郎だ!さっさと降りてこい!」


サンライズと呼ばれた深紅の戦士は蝙蝠怪人に指差し叫んだ。

どうやらヒーローの方が1枚上手のようだ。

正義は感動で言葉がでなかった。恐怖は感じなかった。恐怖よりも本物のヒーローに出会えたことに対する感動の方が大きかったのだ。


「来ないならこっちから行くぞ!」


サンライズが跳躍するために屈んだその時だった。

蝙蝠怪人の手の中に一人の子供が捕まっている。


「サンライズ…この子がどうなってもいいのか?」


子供は恐怖で震えて声もでないようだった。その子供の顔を鋭い爪の生えた手でなぞる。


「俺がその気になれば簡単に殺せるんだぜ?まさか正義のヒーローが見殺しにするわけないよなぁ?」

「くっ…!卑怯ものが!」


蝙蝠怪人のゲスな笑い声が廃墟に響く。サンライズは跳躍をやめ、立ち上がり蝙蝠怪人と向き合っている。蝙蝠怪人は自分が優勢になったとたん態度を急変させ、サンライズに最も酷い提案を出した。


「サンライズ。ゲームをしようぜ?お前のヒーローとしての本質を試すゲームだ。ルールは簡単。俺の音波を聞き続けるただそれだけ!お前が一歩でも動けばこのガキを殺す。動かなければおまえは本物のヒーローってことだ。まあどっちにしろお前は死ぬけどな」

「…好きにしろ」

「おっと、変身を解くなよ?生身の人間じゃすぐに死んじまってゲームにならねえからな」


正義は怒りが込み上げてきた。あのゲスな怪人が許せない。人質を取り、ゲーム感覚で人を殺めようとしている。

何か方法はないかと考えているとうちにゲームは始まってしまった。

怪人の口から出される音波はサンライズを苦しめる。

サンライズは叫び声は上げないものの片膝をついて苦しんでいる。その間も正義はなにもできずにいた。


「そろそろ限界か?」


サンライズの両膝がついたその時、蝙蝠怪人はサンライズに尋ねた。


「お前みたいなゲスやろうに負けるかよ…」


遠目からでも強がりだとわかった。

蝙蝠怪人はそれを確信すると音波をやめトドメを刺すためにサンライズに近づく。


「立派だったぜサンライズ。だがてめえは自分が掲げる正義とやらに邪魔されて死ぬんだ」


蝙蝠怪人がサンライズの首に狙いを定め鋭い爪を振り上げる。

その時正義の身体が勝手に動いた!


「うおおおおっ!」


なにも考えずに怪人に向かって突っ込んでいったのだ。

その行動に気をとられる怪人。サンライズはその瞬間を見逃さなかった。

最後の力を右拳に込める。すると拳が輝きを放ち始めた。

怪人がそれに気づくが遅い。


「はあっ!」


サンライズの拳は怪人の胸を打ち込まれた。

怪人はくの字に折れ曲がり、壁に激突した。衝突の勢いで砂煙が舞う。


「倒したのか…?」

「いや…浅かった…。君はやつがまだ動けるようなら子供をつれて早く逃げるんだ」

「あなたはどうなるんですか!?置いていけない!」


衝突による砂煙が晴れ、怪人が姿を現した。ダメージが深刻なのだろうか。フラフラした足取りでこちらに向かってくる。


「てめえら…!よくもやってくれたな…」

「君!早く逃げろ!」

「いやだ!絶対にダメだよそんなの」

「バカな事を言うんじゃない!これは遊びじゃないんだぞ!」

「うるせえ!自己犠牲がカッコいいと思うなよ!俺はあんたを助ける」


正義は落ちていた鉄パイプを拾い上げるとサンライズと怪人の相田にはいり怪人に向け構えた。


「バカな真似はよせ!」

「…あんたは子供のために命をかけたんだ。それがヒーローってもんなんだろ…だったら俺もヒーローになってやる!目の前で危険にさらされてる人を見捨てるのはごめんだ!」

「少年…」

「三人ともぶっ殺しててめえらの血で体を癒すしてやる」


蝙蝠怪人は渾身の力を振り絞り地面を蹴った。正義との距離を一瞬で縮める。

あまりの早さに追いつけず死を覚悟したその時…。

明かりが彼らを照らした。明かりは車のヘッドライトによるものだった。大型のトラックから武装した人達が出てきて銃口を怪人に向ける。


「酷いやられようね、サンライズ」


明かりの向こうから女の声がした。

声の主はヘッドライトを身体で遮りその姿を見せた。目を見張るような美しい少女だ。年齢も正義と同じくらいだろうか、彼女の先ほどまでヒーローを見ていたその瞳は今怪人に向けられている。


「なんだてめえら…」

「いくら怪人でも手負いの状態でこの人数を相手にするのは分が悪いんじゃない?」

「何が言いたい…?」

「退くなら今のうちよ?どうする?」


怪人は少し考え、夜の闇に姿を消した。

怪人の気配が消えてすぐにサンライズは変身が解け人間の姿に戻った。

少女は先ほどまでヒーローだった男に駆け寄り彼の身を案じていた。

その後、男は先ほどの武装した人達の手で車に乗せられてた。子供も保護され同じ車に乗せられた。


「あなた、名前は?」


先ほどまでの緊張が解け、その光景をポカンと口を開けて見ていた正義に向かって少女が声をかける。

正義は我にかえり少女の方を見る。改めてみるとかなりの美少女だ。うちの学校にはこれほどかわいい女の子はいない。


「春屋正義…」

「春屋くん、悪いけど一緒に来てもらうわよ。いくつか聞きたいことがあるの」


正義は言われるがまま車に乗せられた。

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