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4話 困惑 ルルテナside

「アイツは一体何なんだ…」


 目が覚めたら何者かに体を触られていて、驚きのあまり声がでなかった。

 例え寝ていても、近付いてくる気配に気が付かないはずがない。


 それどころの話ではない、触れられていた事に気づいて目を覚ました。

 例え母様でも無理なことを何者かはやってのけた。

 この村の者ではない誰か、桁違いの実力の持ち主を相手に一度は死を覚悟した。


 流石の私でも背後を無防備な状態で取られ、状況の把握すらできていないのだ。

 隙を付いての反撃など出来るはずがない。

 だが死ぬかもしれないという状況にも関わらず、探るような手付きに私の体は不覚にも反応してしまった。

 胸を掴まれた時は心臓を握られたようで寿命の縮む思いだったが、撫でられているうちに体の力は抜けていった。


「仕方ないだろ…、経験の無い私でもアイツが巧いって事は分かる…」


 言い訳をするように愚痴るが、指を触られただけで感じるなど普通じゃない。

 撫で回すような手つきを思い出すと身体の芯がまた疼く。

 今まで意識した事が無かったと言えば嘘になるが、今まで私に近づく男が居なかったのだ。


「よりにもよって私が人族の手で…、だがアイツは気付いていなかった、絶対に知られる訳にはいかない」


 相手の思惑も分からぬまま放心状態になってたら、今度は寝息を立て始めた。

 笑えない悪戯をされた気分にふつふつと怒りが湧いた。


 思い返せば最初から殺意は感じられなかった。

 命の危機だと体を強張らせていた私が馬鹿みたいじゃないか。

 そして相手の正体を知った時は驚いた、夢でも見ているのかと疑った。


【魔力を持たない嘘のような存在】


 魔力で気付くなど出来るはずがない。

 魔力を抑えているわけでも、魔力の総量が低いわけでも無いのだから。


 視界から外れただけでその存在を感知できない異様な存在。

 信じられないが実際に目の前に居たんだ、疑っても仕方がない。


 最初は魔力が無いことに気づかなかった。

 分かっていれば違和感を感じるが、無い物は意識しなければ気付かない。

 全ての生き物は魔力を持っているという前提があれば尚更だ。


 生き物ではないのに意思を持って動く、人族の形をしたモノが私に所へ来た。

 誰であっても冷静では居られないはずだ。

 命を持っているのかは疑問だったが今すぐ殺すべきだと思った。

 それを寸前で思いとどまっったのはアイツにとっての幸運だったか。


 私の命を狙ったのだとしたら、あまりにも行動が理にかなっていなかった。

 だから何が目的なのかを聞こうと思った。

 でもアイツは私の目を見ていなかった。


 何か不都合な事でも隠しているのかと思っていたら、私の胸に注意を逸らそうとする。

 胸がどうしたのかと思ったが、胸に巻いてあったはずの布がズレていた。


 言い出すタイミングがおかしいと思ったが、アイツなりに空気を変えようとしたんだろう。

 聞けば向かい合った時には既にズレていたという、やけに視線が下がっているとは思っていたが。

 理由が分かれば今までのやり取りが馬鹿らしくなると同時に呆れる。


 見ればアイツの肩に痣ができていた。

 逃がさないように掴んではいたが、それ程力を入れてはいなかった。

 それなのに痣ができていた、たとえ人族でもありえない体の弱さだ。


 魔力だけではなく気配を感じなかった原因が分かった。

 私達は力や感情の大きさに応じて、ある程度気配として感じることができる。

 だが力もなければ強い感情もない者など小虫が動くようなものだ。

 触られてから存在に気付いた事に対しては、流石に気が緩み過ぎていたと反省するしかないが、今後生かせる状況もない。


 驚いたのはそれだけじゃなかった。

 胸を見ていたのかと聞くと否定をした。

 もう一度確認したがまた否定された。

 その姿は滑稽だった、そんなやり取りをしている間も私の胸を見てるのだ。

 笑わなかった自分を褒めて欲しい。


 ふと疑問が浮かんだ、人族なのに私の胸に興味があるのかと。

 普通は他種族の裸を見ても何も感じない、だがアイツは私の胸を見ていた。

 どうやって私の所まで来たかは覚えていないと言っていたが、偶然居合わせた私を見て襲おうとして力尽きたのではないか。


 自分でも何を考えてるんだと思ったが、有り得ないとも言い切れ無かった。

 意味もなく胸を見るだろうか。

 半信半疑の質問だったが、アイツは私の胸に興味があると言った。

 念のため目を見たが嘘は無かった、嘘か本当かを見分ける自信はある。


 まさかとは思っていたが、実際に耳にすると困惑する。

 だが私の体が目的だったのなら全て納得できた。

 非力なくせに度胸だけは一人前だと感心する、後は本人に直接問いただすだけだった。


 自白させようと鎌をかけたが、何のことか教えてほしいと白々しい事を言ってきた。

 往生際の悪いやつだと思ったが今度は私が追いつめられるとは思わなかった。


 私を毛布と間違えたと言うではいか。

 毛並みを褒められて悪い気はしなかったが、念のため確認してみても嘘は言っていなかった。

 体が目的で触っていたのなら感じてしまった事にも、無理やり納得はできた。

 だが、毛布と間違えて撫でていたという言葉に気分が沈んだ。


「思い出すだけでも情けなくなる…、いや、さっきも言ったようにアイツが異常に巧いだけなんだ…」


 私の体の変化に気付いていなかったのが救いだ、睡魔に負けて分からなかったのだろう。

 もしもこの事で私を陥れようとするのなら、二度と口がきけないよう恐怖心を植え付けていた所だ。


 そして話が落ち着いてきた頃に、アイツが母様に貰った衣装を下着代わりにしていた事に気づいた。

 村の男であれば本気で蹴りあげる所だったが、アイツはそれで死にかねない。

 故意ではなかったようだし、ギリギリの所で抑えた。


 問題はその後だ、アイツが慌てて私の衣装を脱ごうとした時に、盛り上がってる事に気づいた。

 本人は焦っていたんだろうが私も焦った。

 話してる最中にも胸を見られている事には気づいてはいたが、本当に欲情しているとは思わなかった。


 人族の前で胸を隠すのは私の意地が許さない、恥ずかしがっているのだと勘違いされたくなかった。

 それに自分の目で確認するまでは、違う種族の胸を見て欲情するはずが無いと思っていた。

 人族の裸を見ても何も思わないが、欲情しているアイツの裸を見るのはかなり気まずい。


 それまでは胸を見られても何も思わなかったが、相手が興奮してると分かると途端に羞恥心を感じた。

 そしてあろうことか、聞き慣れない単語があったが『出して返す』という言葉が聞こえた。

 この状況で何を出すのか、私でもその意味は理解出来た。


 変態なのか、焦りのあまり正気を失っているのかは分からなかったが、母親に貰った服を汚されては困る。

 確かリンディに用意したが、選び方を間違えて渡すのをやめた衣服があった。

 下着は私のを貸すわけにもいかないし、後回しでいいだろう。


「その前に変えておくか…」


 ため息混じりに下着を交換し胸の布を巻き直す。

 色々思う所はあるが、あの人族に興味が湧いた。

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