表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/88

2話 人狼

 まだ終わっちゃ駄目だ!


 許されない過ちを犯したのは自覚してるけど、助かる道はまだ残されているはず。

 逮捕されれば自分だけではなく家族にまで迷惑を掛ける。


 ただで見逃して貰える可能性は考えちゃだめだ。

 なんとかこの場で示談という形に持って行って穏便に済ませたい。


 第一声で叫ばれなかったのが最悪の事態を回避できた。

 叫ばれていたら家族か近所の住人が駆けつけて来る可能性だってあった。

 警察に通報されたら言い訳もできず、そのまま留置所に入ることになっていたはずだ。


 助かる可能性を潰さないように慎重に話を進めよう、ある程度の慰謝料は覚悟しないといけない。

 先ほどの会話の終わりから数秒の出来事だ、社会的地位の危機に脳がいつも以上に仕事をした。

 ゆっくりと彼女の体から手を離し、刺激しないように落ち着いて話す。


「自分勝手なのは承知の上ですが、警察への通報は待って頂けないでしょうか?ある程度の金額であれば用意できますので、出来れば穏便に済むようお願いします」


 緊張で喉が乾くけど何とか言い切った、後は彼女の気持ち次第だ。

 犯罪が許せない、お金で済む問題ではないと言われたら諦めるしか無い。

 話を聞いた彼女はそのままの体勢でゆっくりと深呼吸し、息を整えた。


「元より誰かを呼ぶつもりはない。だが、この私に手を出しておいて許してくれとは面白い冗談だな、それに先ほど言ったはずだ、何のつもりか説明しろと」


 面白い冗談だとは言ったけど、楽しそうな感情が一切入っていない。

 そして示談を受け付けないというその言葉に気分が重くなる。


「例え母様でも、気配に気付かずにここまでの接近を許した事がない。その上お前には触られていたのにも関わらず気付くのが遅れた、一体何をした?」


 寝ていても親に気が付くというのは、眠りが浅いという事なんだろうか。

 それに、どうやってこの家に忍び込んで布団に潜り込んだのかが、まったく思い出せない。

 彼女の喋り方が少しおかしいのは、気が動転しているせいかもしれない。

 それもそうだ、起きたら見知らぬ男が同じ布団に居るなんて、恐怖以外の何物でもない。

 

「すみません、どうやってここまで来たのか本当に覚えて無いです、ここが何処かも分かりません」


 夢遊病や徘徊癖は身に覚えがないのに、何故こんな事になったのかと後悔する。

 もう積んでいるんだ、逃げるなんて事はしない。


「…言葉に嘘は無いようだな。まずは話を聞かせてもらうが、命が惜しければ変な真似はしないことだ」


 そう言って起き上がる気配を感じた。

 絶望的な状況に覚悟を決めていたけど、彼女の態度が急に軟化した。


 自宅に侵入した変質者の話を聞いてくれるなんて、彼女は聖女か女神なんだろうか。

 相手が起き上がるのに合わせて、慌てて上体を起こし正座をする。


 妙に寒いと思ったら服を着ていなかった。

 下着は穿いているみたいだけど、行動と格好を合わせれば理想の変態だ。

 これ以上状況は悪化しようがないから開き直ろう。


 彼女が立ち上がり天井からぶら下がった四角い箱を取って床に置いた。

 その後にカツンと何かがぶつかる音がして、火花が見えた直後に火が付いた。

 部屋の中で火を使うことに戸惑いながらも、他人の嗜好に文句を言える立場ではない。


 部屋が多少明るくなり、ようやく周りの状況が確認できるようになった。

 そしてあぐら座りをして此方を向いた彼女を見て驚いた、全身が毛で覆われていて大きな耳や尻尾が生えている。

 毛布だと思って触っていたものは彼女の毛だった。


 顔は犬や狼のようにも見えたけど人らしさを感じる、顔立ちも一目見れば女性だと分かった。

 体毛と頭髪は別のようで腰まで長く伸びている。

 犬耳に尻尾だけならコスプレを疑うことが出来たけど、間違いなく獣人だ。


 僕が驚いているのと同時に彼女もまた視線を此方へ向けたまま固まる。

 遮るものが無いから相手の体全体が見えた。


 胸に巻かれていた布がズレて見えてる、絶対に原因は僕だ。

 教えるべきなのか、男が注意してもいいのか、そんな事をぼんやりと考える。

 下はホットパンツを履いていたけど、手で隠れてたせいで一瞬何も履いてないのかと動揺した。


 硬直状態が続いたけど、固まっていた彼女の意識が戻ってくるのを感じた


「人族なのか…?」

「え、人族というか人ですけど…」

「嘘だ…私が人族などに遅れを取るはずがない…、そうだ、これは夢だ…」

「そうですよね…、お互い夢だったということで、失礼します」


 咄嗟に起点を利かせこの場から逃げようとしたが、立ち上がる前に両肩をガッシリと掴まれた。

 簡単に逃げられるほど甘くはなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ