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三話

 道中、機嫌を取ろうとするジーナが少しばかり鬱陶しかったが、問題なく目的の村。谷合の村へと着いた。

 魔人王を倒そうと冒険してた頃に来たことがあり、その当時は長閑な村だと印象付けられたのを覚えている。だが、今はどうか。


「あれー、人っ子一人いないよー?」


 深々とフードを被って、顔を隠したジーナが言う。

 出歩いている人間はほぼ皆無であり、出歩いていたとしても派遣された竜騎士が精々だ、この村の状況は、思ったよりものっぴきならない状況らしい。

 出歩いている竜騎士に声をかける。


「少しいいかな?」


 声を掛けられた竜騎士は忙しかったのだろう、迷惑そうな顔をした後、ジロウの言葉に応えてくれた。


「手短にな」


 随分と冷たい態度だが、この時代の軍人ではマシな方だ。


「君達の団長、アスメルから派遣された薬草医だ。状況を知りたい、君の部隊に所属している薬師の居場所まで案内してほしい」


 そう言ったジロウに、竜騎士は訝しむような表情を向ける。


「薬草医か……証明する物か、それとも証言してくれる人はいるか?」


 お役所仕事だが、困っている状況にも関わらず、薬草医の身分を参照してようとしてくるあたり優秀だ。


(いい教育を施しているな、アスメル)


 胸元から鎖に繋がった、金色の冒険者章を引っ張り出し、鎖から外し、彼の手に渡してやると、冒険者章は黒ずんでいく。


「冒険者章は本物、しかも最高位の金色……それに銀狼の仮面。成程、確認できました。ご案内致します」


 彼の手からジロウの手に、冒険者章が戻ると、それは元の輝かしい金色に戻る。


「解ってくれて嬉しいよ」


 鎖に冒険者章を戻しながら、ジロウは仮面の奥で笑って見せる。


「それで、お隣の方は?」


 流石アスメル、よくも教育しやがったなこの野郎!

 なんて言葉は飲み込んでおく。こう言った時は決まりきった文句があって、それを言うことをジーナとの密約にしている。


「店で世話している修道女だ。所属は北方にあったマグリア修道院だ。名前はジーナ・カレンツ、北方の名門だったカレンツの三女だ」


 魔人王の侵攻で木端微塵になった修道院の名前だ。そして、名前を借りたジーナ・カレンツさんは魔人軍に酷い拷問を受けて、命を落としている。知っているのは、かつての討伐パーティの面々だけだ。

 おまけにカレンツ一族は親族含めて全員死んでいるのが使いやすい一因だった。


「はい、ジーナ・カレンツと申しますー。ジロォさんにはお世話になりまして、これこそ偉大なる月の神が齎した幸運ですねー」


 前々から決めていた文言ではなく、ジーナはハーフ・イルに属する神霊だ。そもそもお祈りの言葉やらなにやらを伝えたのはコイツである。

 得意どころではないのだ。


「ほほう! それはそれは……銀狼殿は流石ですな! ハーフ・イル様も喜んでいるでしょう!」


 これは修道女を助けたからハーフ・イルが感謝していると言う意味ではなく、根なし草の冒険者が、家族を失って悲しんでいる貴族の三女を救ったドラマ性に喜んでいると言う意味だ。

 我らがハーフ・イルは基本的に不謹慎なのである。何しろ休息と享楽の神様だし。


「では、ご案内致します」


 そう言って竜騎士は先行してくれる。

 基本的にこの村は農村なので、ただっぴろいのである。


「我々竜騎士団は三週間前からここに来ているのですがね……病が快癒するどころか、我々にも病に罹る者が出る始末でして……ほとほと困っていたのですよ」


 そりゃ十中八九牛斑病じゃないもん、なんて言葉は飲み込んでおく。


「そうなのか」


 一応興味があるふりをしておく。


「ええ、我々の薬師も頑張ってくれてはいるのですが……何分、薬が不足していまして」


 薬師は調合出来ないから、薬を補充する手段もない。


「薬師はな、どうしてもこういう状況には弱いから仕方ない」


 竜騎士が派遣された理由は単純だ。

 まず村の閉鎖と、にっちもさっちも行かなくなったら、病気を広めない為に村人を皆殺しにして、火を放ち、病気の拡大を止める役目があるのだ。

 そんな事にワイバーン最精鋭の竜騎士団を派遣する意味が解らないのではあるが。


「おっと、ここです。銀狼殿」


 案内されたのは村の広場に建てられたテント達だ。

 様々な薬草の香りがジロウの鼻腔を擽る。


「ああ、助かった。俺はジーナ・カインドで薬の店を開いている。良ければ来てくれないか? 初回は値段をまけておく」


 そう言って竜騎士に、店の場所を示した地図を渡しておく。序でにサービスで下痢止め用の水薬を渡しておく商売人の鏡だ。


「ははっ、病気になったら立ち寄らせていただきます」


 銀狼印の薬瓶を受け取った竜騎士は嬉しそうにそう言った。

 気を取り直して、テントの中に入ると、女性のスケイリアンがぐったりと椅子に凭れかかっていた。なるべく手を尽くしたんだろう、それで打つ手なしとなった彼女は絶望と、疲労で眠りに落ちたと言う訳だ。


「……もし、よろしいか?」


 ジロウは申し訳なく思いながらも、その女性の肩を揺さぶった。

 彼女はまだ半分、夢の中に居ながらも顔を上げて、目の前にある銀狼仮面を見つめた。彼女の目がくわっと見開かれ、


「誰!?」


 御尤もな意見を頂戴した。


「俺はアスメルに派遣された薬草医だ。銀狼のジロウと呼ばれてる」


 名前を聞いた女性……と言うには若すぎるから、まだ少女か、が厳しい声を上げた。


「伝説の冒険者がこんな辺境に来るとは思えないわね」


 どうやら、また一から説明しないといけないようだ。


(しかし、こうどうして俺はジロウだと名乗ると疑われるのだろうか)


 ジロウの疑問に、テントの入り口に居たジーナが答える。


「その怪しい仮面のせいでしょー」


 ジロウに聞こえるようにだけ囁かれた言葉は、ジロウの心を抉った。


「……ともかく、俺は怪しい者じゃない。見た目が怪しいのは否定しないが、それでも怪しい者じゃないんだ」


 彼女の理解を得られるまで、日がとっぷりと沈むまで時間を要した。


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