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精霊星の物語 ~精霊島の物語~  作者: uki yoe
第一部 精霊島の物語
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世界樹の枝

次の日、どこかへ出かけていたテネアが長い木の枝を「よっこらしょ」と言いながら帰ってきた。


「ただいま、ユーキ。これ、おみやげ」


姿を得たばかりのテネアは、空を飛ぶための練習を始めた俺の傍で、悪戦苦闘している俺の姿を飽きもせず眺めていたはずだった。


「私、応援しかできない。頑張って」


そんなテネアの言葉を頭の隅では聞いてはいたが、いつ頃からどこへ行っていたのか、俺はまったく気づいていなかった。


「あれ?テネア、どこか行ってたの?」


とサフィ。


「何だ?」


と俺。

真っ先に気づいたラーンが、テネアの手に持っている物を「それは何です?」と聞いている。


「世界樹の枝」

「世界樹の枝って、世界樹林まで行って来たの?そっか、体があるとここまで持って来られるんだ。いいなぁ。テネア」

「そう。この枝をユーキが身につけていれば、怪我に対してより安全ではあるのです。私も気づいてはいましたが……姿を持っていればこの枝を手で持ち運ぶことが出来たのですね。ああ、私も姿がほしいです」


姿を得て、その手で枝を運ぶことが出来たテネア。

ラーンやサフィにとってみれば、たとえ思い付く事が出来ていたとはしても、実行するとなるとやや難しい事だったのだろう。

しかし、世界樹か。

カイラルプスの墓標からこのレスカリウスの住処までの間には、世界樹と呼ばれる大樹には出会っていない。

どんな樹なのか。

世界樹と言うくらいだから大きな樹を想像する。

その樹が林になっていると言うのだから、想像も膨らんでくるというモノだ。


「世界樹の林って、イメージだけど、すごそうだなぁ」


俺はテネアが持ってきてくれた世界樹の枝を受け取りながら、林のイメージを頭に思い浮かべてみた。

地球でいうところの縄文杉みたいな奴かな?それとも葉っぱの生い茂るクスノキの化け物みたいな奴かな?

枝を眺めて考える。

この枝の見た目からいくと葉っぱが平らだから、広葉樹と呼ばれるクスノキ系かも知れない。

どちらにせよ、世界樹にはビックリするくらい巨大な大樹であってほしい。




そんな思いを持ちながら世界樹の枝をいじっていると、それまで黙っていた白銀龍が皆に意識を飛ばしてきた。


「力の使い方がひと段落ついたら、世界樹の林を案内しよう」


本当か?


「連れて行ってくれるんですか?」

「ああ。外界の大地では世界樹は一本しか存在しない。その一本はエルフ族の信仰の対象となっているほどだ。世界樹とはそれだけ珍しく、大事にされているものなのだ。その大樹が林にまでなり、この世に存在しているという事を知る者は、当然ではあるが我らをおいて他にはいない。そなたの住まう世界の景観にも、ひけは取らんと思うぞ」


ひけは取らんて、そりゃあそうだろうよ。

世界樹なんて地球じゃ空想の産物だ。

これは是非とも案内してもらわねば。

期待が高まる。

鼻の先にぶらさがるニンジンが世界樹林とはさすがドラゴン。

一味違う。

体を浮かせる練習にも力が入ると言うものだ。


「レスカリウスさん約束ですよ。連れて行ってくださいね。よし、サフィ先生。バッチこーい」

「はーい。何すればいいの?」

「………」



――――――――――――――――――――――――――――――



夜。

コルニアにも夜が来る。

柔らかな空気はそのままに、静かに、だが忽然と、忘れられた大地にも夜が来る。


日の入りは感じなかった。

突然に夜が来た。

夕方をすっ飛ばして

夜が来たのだ。


精霊達やレスカリウスは眠らないが、コルニアの大気に昼間のざわめきは感じられない。

きっと、夜に体を休める生き物達が多いのだろう。



俺は魔法の練習を止め、夜のコルニアを感じている。

天空に星は見えない。

月もない。

空は薄暗い。

にも関わらず、大地に暗闇は感じ無い。

大地の全体がぼんやりと、蒼く光を放っているのだ。

その光に寂しさは感じない。

素体の光がけぶっているのかも知れない。

俺の目だけがこの光を感じているのだろうか。

この大地に生きる生物達は、この光をどう感じているのだろうか。


ロストランドに生を持つ、生きとし生けるものの全てが、その身に何らかの素体を宿していると白銀龍は俺に言った。

俺がこの地に現れた時、素体持ちは皆、俺の存在に気付いたとも言う。

「そなたはそれだけ大きな存在なのだ」と……。

そう言われた事を思い出しながら、ふと何気なく自分を見ると、俺の体もうっすら光って見える。

この光は素体の光なのかも知れない。

……俺も素体持ちだった。

今はこの世界に生きている者と言う事か……。


コロコロと何かが鳴いている。

ホロホロと誰かが啼いている。

俺は近くの大岩に座り、時折聞こえる生き物の声に耳を傾ける。

命のやり取りをしているソレの声ではない。

まだ見ぬ生き物が出す、寝言であったかも知れない。


俺は黙って座っている。


夜が明ける前、白銀龍は翼を広げ、どこかへ飛んで行った。

レスカリウスは空にいるのだと精霊達が教えてくれる。

白み来るコルニアの空に大翼を広げ、空を舞い続ける白銀龍。

俺は今、語り継がれる物語の中にいるのかも知れない。

こんなに静かで、こんなに神秘的な世界。

俺は大岩に座り、精霊達と話をし、空を舞うドラゴンの姿を探している。


俺は、この世界を忘れない。



――――――――――――――――――――――――――――――




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