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精霊星の物語 ~精霊島の物語~  作者: uki yoe
第一部 精霊島の物語
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サフィ先生

俺は今、リテラの大陸のなかでもかなり特殊な場所、通称ロストランドと呼ばれている大地で、三精霊と一ドラゴンに囲まれて生活をしている。

この大地に人型の住民は、俺を除いて他にいない。

ここに来てまで俺はボッチであった。

しかし寂しさは感じていない。

姿形は違えどもああ言えばこう言う、話し相手がいるからだ。

寂しさを感じさせないのは俺にとって好都合だった。

精神的な傷のリハビリにもなるし、なによりこの大地にいると癒される。

煩わしいことが何もない。

煩わしい事と言えば、この大地にいると眠くならないし、お腹も減らない。

水や食料をとらないから排泄もない。

疲れはしても眠くならないから、初めのうちは戸惑ったが、そういうモノなのだと割り切ったら順応できた。

個人的な感情を言わせてもらえれば、食べる事、寝る事の楽しみがないって言うのは思った以上につまらない事だ。

そう言う煩わしさはあってもよかった。

この環境は少しばかり綺麗すぎるのかも知れない。


だがそこは異世界。

別な事由でものすごく打ち込めるモノは存在する。

魔法だ。

そして俺は今、精霊達に魔力操作の技術を教わっている。


ぶっちゃけ、もう少ししたらこの大地の観光にも連れて行ってもらいたいなと思っているのだが、今は魔力操作、白銀龍レスカリウスの言う素体とやらの使い方だ。

通常、魔法を発動させたい場合は精霊以外の者が行う基本型として、まず第一に詠唱をしなければ始まらないものらしいのだが、どうやら俺の場合は各属性を司る精霊の力そのものを内包しているらしく、その点でいわゆる詠唱をしなくても魔法を発動できるようなのだ……が。


精霊王だなんて言われるから、意識しないで魔法をばんばん使えるのかと思っていたのに、ぜんぜん使えない。


「ユーキ、風は友達なんだ」


風属性を司っているサフィが、どこかで聞いたことのあるようなセリフで俺を指導する。

今、俺がやっていることは目の前の空間に風を起こして圧力をかけること、ただそれだけ。


目標は空を飛ぶこと。


「空気の流れを一本の線のように意識して、線のまま出来るだけ遠くへ流せるように創り上げるの。それが出来たら、大きな流れを意識しながら空気を一か所に集めて圧縮させるの」


それが出来るようになれば風の力で空が飛べるようになるらしい。

何だかチンプンカンプンで、そんなイメージ通りの流れを創ろうとすると相当疲れるって事だけは分かった。

でも、このイメージが大事なのだとサフィは言う。

難しい。

飛び回るイメージだったけど、浮く事も出来ない。

ちょっと浮くだけでも浮いてみたい。

楽しくやっていても成果が現れないとストレスになる。


「なあサフィ…目標だけどさ、空を飛ぶ事じゃなくてちょっと浮くことに変更していい?」

「そうだねぇ…うん。浮くようになればいいか。浮けるようになったら、すぐ飛べるようになるよ」


よし、スパルタ先生じゃなくて良かった。

もう少し頑張ろう。

俺はゆっくりと、自分のなかにある魔力の塊のようなものを意識して、風に流れを加えていく。




初めのうちは全く分からなかったが、自分の中にはどうやら本当に11種類の属性に分かれる精霊の要素『素体』があるらしい。

俺自身の体の中心付近に感じるもの、そのさらに奥にあるもの、それら中心にあるものよりも一回り外側にあるもの。

どれもイメージをしなくてはあることすらも分かりにくく、そこから魔力?――俺の場合は精霊力になるのだろうか――その力の源に触れる所まで精神を研ぎ澄ます。

そんな感覚が自分の物になるまで、相当な苦労を用した。


火属性=火炎素 かえんそ

氷属性=氷零素 ひょうれいそ

風属性=風力素 ふうりょくそ

土属性=土石素 どせきそ

雷属性=雷磁素 らいじそ

水属性=水素  すいそ


闇属性=闇黒素 あんこくそ

光属性=光素  こうそ


空属性=空間素 くうかんそ

時属性=時間素 じかんそ

音属性=音素  おんそ


これが11属性、11素体。

いわゆる魔法はこの素質を持つ者が、それらを司る精霊を使役し、自らの素体に精霊力を共鳴、増幅させ、発現させるものらしい。

これらのうち火、氷、水、風、雷、土の六素体は比較的イメージし易く捉えやすかった。

光と闇は俺の中の内側のさらに奥にあった。

空、時、音は外側にあってとても分かりづらかった。


そして今、俺が自分の感覚で最も馴染みやすいと感じているのが水、火、風、土の4属性だ。

幸い、水と風の属性を司る言葉の交わせる精霊が身近にいる。

せっかくだから、やってみたい事を言ってみた。


俺は子供の頃、空を飛ぶヒーローに憧れていた。

大きく広い青い空。

空を自由に、飛びたいな。

そんな夢が、叶うかも。

風属性のサフィさん?

風属性は空を飛ぶのに適してはいませんか?


「サフィ先生。俺、空飛びたい」

「飛べるよー」

「よっしゃー。やったるぜ」




言うは易く行うは難し。

俺の中に確かにあった11属の要素は、だが、あるからと言ってほいほい使えるほど便利なものではなかった。


「そなたの力は、赤子と変わらんな」


そんな俺を見ていた白銀龍が、がっかり、とばかりに言ってきた。


知るか。


「俺だって、使えるものなら一から十まで使ってみたいさ」

「うむ、もう少し期待していたのだが、魔法のない世界からやってきて、いきなりというのは難しいものなのだな」

「ご期待に添えず、すみませんねぇ」

「まったくだな。せっかくそなたがここにおるのだ。若干緩んできている時空間結界を締め直してもらいたかったが、これはどうも早々にあきらめた方が賢明のようだ」


そうなのだ。

俺の中にある精霊力は自分でもがっかりするほど小さかった。


「精霊王と呼ぶよりは、精霊人と言うべきか……」


そこまで言うか。

若干傷つく。

でも、精霊人か……うん。

その方がしっくりくるな。

王様なんて柄じゃない。

面倒くさいから直してもらわなくていいけど……


そんな考え事をしながら、風に力を加え、圧力をかけていく。


バスン。

大きな音をたてて、空気が爆ぜる。

また失敗。

カマイタチになった空気が、傍にあった樹を削る。

音と結果に正直ビビる。

風の刃で木の幹を削るって、すごくね?

こんな練習しないと空って飛べないのかな?


そして、サフィの言葉に戻る。


「ユーキ、風は友達なんだ。怖くないよ」

「はい、サフィ先生」


とは言え、俺に精霊力の使い方を教えながらサフィ先生はぼやいている。


「もう、サフィも姿を持ちたいんだけどなー。そうすればユーキの手をとって、いろいろ教えてあげられるのになー」


俺はどうでもいいが、三精霊ズの一角であったテネアが一歩先んじてしまい、精霊といえども心穏やかではないのだろう。


「姿を得るって、どういうタイミング何だ?サフィも、もう少しなんだろう?」


テネアの時を思い出して聞いてみる。

正直あの時の何が彼女にとってのきっかけだったのか、俺には良く分かっていない。

何か大きな要因があるのなら、協力する事もやぶさかではない。


「何か俺に出来る事があるのかな?何だったら、言ってくれてかまわないんだけど」

「うーん。分かんない」


分かんないのか。

じゃあ、力の使い方を俺に教えながら、今みたいにちょいちょい「さわって」と寄ってくるのは何なのよ。


「危ないだろう。また失敗しても知らないぞ」

「ヘーキだよ。サフィは風の状態が分かるから、ユーキの失敗に巻き込まれるような事ないんだよ」


ほう、そうか。

さすが精霊様だ。

ならば喰らうがいい……必殺!


バシュッ


「うがぁっ。痛ってー」


失敗した。

失敗すると思って身構えてはいたが、今度は自分に降りかかった。

風の流れをイメージする為にと突き出していた手が、肘の辺りまでそれは見事に、ざっくりと切り刻まれてしまった。

傷口はとてもきれいにぱっくりいっている。

結構深く骨までいってそうだが、血は噴き出してこない。


「…っ痛!」

「ユーキは下手ですねー」


見守っていたラーンが駄目な子供を見守るお姉さんみたいな口調で「ふう、やれやれ」とヒーリングをかけてくれる。

三精霊ズが言うにはこのコルニアの大地には、世界樹と呼ばれる大樹が数多く自生しているため、ラーンが行う傷ついた者や弱っている者への癒しの力、ヒーリング効果は非常に強く現れるらしい。

普通だと絶対に傷跡となって残りそうなパックリ傷も、みるみる塞がれていく。


「本当、助かるな。こんな無茶ぶりができるもラーンがいるからだよ」

「はい、とことん治して差し上げますので安心して下さい。でもこんな無茶は、私のいるところだけにしてほしいのです。」

「心配してくれてありがと。あ、こんなところまで切れている。悪い、ここもお願い」

「ふふ。分かっていますよ。ここもですね」

「ああ、そこそこ」


「……ちょっとぉ、ねえ、ラーン。ヒーリングの癒しって、ユーキにだって出来るんだから、そんなにくっついて治す必要ないんじゃないの?ねえ、ラーン聞いてる?」


ラーン、聞いちゃいねぇ……たぶん。

サフィ先生、ちょっとご立腹。


それにしてもヒーリングの力は素晴らしい。

見た目の傷がみるみる塞がっていく様は、なんど体感しても感心してしまう。

ヒーリングでこんな簡単に大怪我が治せるのなら、この世界、病気や怪我はまったく怖くないだろう。

俺みたいに文字通り体を張った行動や、病気になった時の執刀なんて、かなり軽いノリで出来てしまうはずだ。

切っては直し、切っては直しが簡単にできてしまう事を想像したら、生き物としての倫理観を考えずにいられなくなった。

なんだか命が軽く感じる。

この世界、病で死ぬとか怪我で死ぬとか、ほとんど無いんだろうな。

そう思ってラーンに聞いてみたら、そうでもないと怒られた。


「治癒の力は今そこにある、生きようとする力をより多く活性させる力なのです。ユーキはもともと11属生の加護がありますから傷もこの程度ですんでいますし、回復も早いのです。ですがもし、外界に住む普通の人族が、ユーキと同じ力を自分の体に受けていたとしら、風の力はこの腕だけではなく、ご自分の体の器官にまで及んでいたのです。だから私は心配しているのです。加護がなければ、内臓も、頭部もユーキの力は自分を傷つけているのです。治癒の力は決して万能ではありません。私達はこの世界で、この世界の理のなかで存在しているのです。いいですね」


ラーンの力強い意識が俺に伝わってくる。

その感覚に驚く俺。

分かったよラーン。

恐らくここにいる間だけの力だ。

地球へ戻ったら、この力もなくなる……いや、元に戻るだろう。

それまでの間、今言われたことは忘れずにいようと思う。

俺を思って言ってくれたのだ。

大事な言葉だったと思う。

肝に銘じよう。


とは言え、こんな便利なモノ使わない手は無い。

俺はラーンにその都度ヒーリングをかけてもらいながら、サフィの指導を受けていく。




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