姦し三精霊s
「ようやく、追いつい、た」
「レスリー、ひどいです」
「こらぁ、わざと私達を置いて行ったでしょう」
場が一気に華やいだ。
精霊ズだ。
そういえばこいつら、一緒に移動されていなかったんだな。
合流して早々、こんなでかいドラゴンに突っ込みを入れるとは、恐れ知らずの精霊ズ。
でも実はこう見えて、精霊の方が位が上だったりして。
属性を司っているとか言ってたし。
「精霊の皆さんは瞬間移動されないんですか?」
「出来ないですよ?瞬間移動は空間属性なのです。私達三精霊のなかで、空間属性はいないのです」
デス子ちゃんはええと、誰だっけ?
「ラーンは水を司っているのです」
デス子=ラーンちゃんね。
「水のラーン。風のサフィ。闇を司るはテネア。そうだな」
「そうです」「そうだよー」「そう、です」
「空間属性は精霊であってもそう多くはおらん。現にここコルニアでも空間を司る精霊は会話が出来るまでの存在にはなっておらん」
「テネア、王様とお話できて、良かった」
「王様と最初にお話ししたのはサフィだよ」
「私達はもう少しで姿を得られるのです。姿を得た私も是非見てもらいたいのです。」
精霊って元気だね。
俺はここが墓場だと思い出す。
そう、精霊王の墓場だ。
ここへ連れてこられた訳は何だったのか。
ここへくれば何かが分かるのではなかったのか。
「このお墓と私と何か繋がりがあったのですよね」
「おお、そうであった。我はここでカイラルプスの意識体と話をしたことがあったのでな。そなたをここへ連れてくることで、何か分かることがあるやも知れぬと思ってな」
6000万年前に亡くなった人の意識体?本当かよ。
幽霊?
そういえばさっきもそんなような事を言っていたな。
「残存意識がどうとか」
白銀龍は「そうだ」とうなずいた。
「我が初めてコルニアへ来た時、カイラルプスはここにいた。我を待っていたのだ」
「王様はね、意識体となってコルニアにいたんだよ」
「私達が生まれる前から、ずっと前から待っていた」
「王様は思念が消えるまでずーっと、ずーっと、待っていたのです」
「王は我を見て嬉しそうだった。意識体となっても尚、この大地を永遠と見守り続けてきたのだ6000万年誰も越えようとせなんだ時空間結界の壁を初めて超えてきた我を見た時、それは、実に嬉しそうな顔をしていた。だが、あまりに時間が足りなかった。我がカイラルプスの前に現れるにはあまりに時がかかりすぎたのだ」
精霊達は音もなく、墓標の上に降りたった。
祈りを捧げているかのように、その場に留まり、動かない。
「王の残存意識はもう既に限界をむかえていた。我が、彼の意識体と話をしたのは、後にもう一度あったのみだ」
ここに眠る精霊王カイラルプスは分かっていたのだ。
5995万年後に結界を潜り、一匹のドラゴンがこの場に立つことを。
そして6000万年後、幸か不幸か、異なる星から一人の人間が訪れるであろうことを。
俺がここに来る出来事は予言されていたのだ。
「全部お見通しなのか……俺が不安になる必要はないのかな」
しみじみとつぶやいてみる。
「大丈夫、王様。安心して」
「全ての属性を持つ王がコルニアに現れるって、聞かされていたのです」
「私達は王様とずっと一緒だよ。約束したんだよ」
精霊ズ達にも予言があったのだろうか。
そりゃそうか。
なんたって、精霊の王様だもんな。
外来のレスカリウスより、深いところで繋がっていてもおかしくはない。
「サフィ、さん」
「サフィでいいよ」
「……じゃあ、サフィ。俺……俺には分からないんだけれど、教えてほしい。ここに眠る精霊王と、俺は同じ人物なのかな」
「何か……違うネッ」
軽っ。
違うんだ。
「じゃあ、皆が俺を精霊王って言う理由は何なんですか?俺が、時空間を越えてやって来たっていう理由だったら、レスカリウスさんだって同じでしょう?」
俺は白銀龍に向き直る。
そう。
精霊王でなければこの結界は越えられないと誰かが言っていた気がする。
ならば、今ここにいる伝説の龍も俺と同条件ではないか。
俺が精霊王だと断定される理由にはならない。
「確かにそなたの言うとおりだ。我も精霊王の結界を越えてきた身、そなたと同じ条件であると言わざるを得ない。だがな、我は、我の力だけでこの大地に来られた訳ではない。ここにいたカイラルプスの意識体に導かれて、初めてやって来られたのだ。そうでなければ、幾多の属性で組み合わされた精霊王カイラルプスの結界は、決して抜けることは叶わなかった」
「寂しい事ですが、カイラスプス王はもうこのコルニアを去られたのです」
「でも、いつかまた全ての属性を持つ王様が来るって、言ってたよ」
「そうね。だから、私達、信じていた。きっとまた、私達の王様が、私達の前に現れるって」
全ての属性を持つ王。
俺が?
持っている?
わからない。
「わかりません。教えて下さい。皆さんのその根拠はいったいどこから来るんです?自分には皆さんの話が雲をつかむような話に聞こえてなりません。俺が、ここに眠る精霊王と同等の者だなんて、確証がどこにもないんですよ」
すると、白銀龍は笑いながら声をあげた。
「いま、申したではないか。我が、我の力のみでこの地に訪れたのではないと。カイラルプスは今よりも、とうの昔に入寂されておるのだ。お主がここへ参られたのは、誰の力でもない。お主自身の力のみで参られたという事に他ならない。精霊王の結界は精霊王の力でしか抜けることは叶わぬのだ。そなたの持つ黄金則の力は、精霊王その者と同じものだ。コルニアにそなたが現れた時、そこに、すべての属性が固まって現れたのだ。コルニアにいた我らが、黄金則の持ち主、精霊王が顕現されたと思ったのも当然であろう」
「納得出来たか?」と、そこまで言われて俺はようやく理解した。
つまり、俺が感じていてどこかで否定しようとしていた、俺自身の身体能力の向上は、事実、俺の体に起きていた事だったのだ。
体の軽さや、暗闇での視界の確保。
ありえなかったのは洞窟の方ではなくて俺の方だったのだ。
俺があの洞窟に現れた事を精霊達は分かっていたと言った。
それは予言でもあったし、俺自身から漏れ出る魔力?がソレと分かるものだったからなのだ。
俺は、どうすればいいのだろう。
白銀龍は一通り語った後、墓標に手を置き何か反応があるかと試していたが、何も起きては来ない事を確認すると、
「さて、それではこれからどうするか?」
と俺に訪ねてきた。
どうするってどうする?
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白銀龍がこれからどうするかと問いかけて来た時、正直俺は迷った。
ここは美しい所だ。
いるだけで心が洗われる。
不謹慎かも知れないが、この環境は俺にとって楽になれる場所のような気がする。
打ちひしがれていた俺を癒す、薬となりうる場所であるような気がする。
だが、ここは別世界。
俺がここにいる理由はない。
ここに迷惑をかける理由もないし、返さなければならない恩もない。
俺がこの場所でバカンスを楽しむ理由もないし、道理もない。
結論を出せと言われるなら、俺はこの星に用はないのだ。
勝手に迷い込んで来ただけ。
―――帰る。
その言葉が口をついて出ようとした。
「行かない、で」
そう言ってきたのはテネアだった。
深紫色のテネアはモヤモヤの形で俺に迫ってきた。
テネアがどんなつもりで、俺に迫ったのか俺には分からない。
テネアがどんな気持ちで、精霊王を見送ったのか俺には分からない。
だが、テネアの切ない気持ちは俺に伝わった。
出会ってまだ間もないと言うのに、俺も切なくなった。
迫って、勢いづいて、ぶつかってきたテネアを俺はそっと手で包んだ。
モヤモヤしてフヨフヨしているテネアは、形がないのに何となく質感があった。
自分の気持ちが優しくなっている。
手の中にいる暖かい感じのテネア。
小さくて、守ってあげたくなる。
手をそっと広げると、手の中のテネアと目が合った。
パッチリした目。
え?
アレレ?
アレレレレレ?
ちっちゃくて、可愛い子が俺の手の中にいる。
「テネア……さん?」
「……ぁ」
小さな口が動いた。
「ァ……ぁ……あー。……聞こえる?」
モヤモヤが、進化した。
そして俺は、ほんの少しだけ、この世界に留まってみようと思ったのだ。
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