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精霊星の物語 ~精霊島の物語~  作者: uki yoe
第一部 精霊島の物語
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精霊王の時空間結界

白銀龍レスカリウス、

それがドラゴンの名前だった。

リテラの地に初めてその姿を現したのは今より五万年以上も昔の事である。


『陽の色よりもなお白く、その身に纏いし鱗鎧

数多の龍のその上の、静寂の中の龍こそは、唯一無二の祖龍なり』


人々にそう謳われ、敬われ、畏怖されている存在。



白銀龍レスカリウスがこの地に誕生したころ、その頃は今よりももっと多くの闇が世界に満ちていた。

闇の種族は繁栄を極め、悪素を含んだ瘴気の発生源を中心とし、リテラ中にその栄華を極めんとしていたのである。

何故、彼らとの共存に嫌気をさしたのか、レスカリウスはもう、はっきりとは覚えていない。

ただ、「何故、闇の者共はあんなにも汚らしいのか」と、いつも苦々しく感じていた。

闇に生きる者達から立ち上るあの瘴気、あの気配。

闇から生まれた身としては、そこまで嫌う要素があるものかと疑いもするが、もって生まれた性分と、生まれ育った環境とが相容れなかった。

そう。

ただそれだけのこと。


白銀龍は闇の根幹を嫌った。

瘴気を嫌い、悪素を嫌った。

そんなある日、白銀龍は己の大地に見切りをつけた。

瘴気の渦巻く大気をその大翼で払い、大地を蹴り、空を駆けた。

何日も何日も……地上に降り立つことなく、空を舞った。

闇が支配するリテラの中で、白銀の鱗を持つ龍は瘴気の空を舞い続けた。



喰うことも、寝ることも、白銀龍には関係なかった。

天空の大気の中にも精霊達は少なからずいたからだ。

時空間属性の精霊達がいれば、エネルギーの合成は寝ていてもできる。

大翼を広げたまま体を休めることも問題はなかった。

レスカリウスの前方を妨げるものは何物も存在しなかったのだ。


終わりのない時間を天空で過ごしていた白銀龍だが、世界でただ二ケ所、その行動を妨げる気に入らない場所があった。

一つは闇種、繁栄地テルゲア大陸の中心地。

強力な瘴気を含んだ悪素の発生源である虚無の箱群。

その『庭』周辺。

悪素の発生源とされる虚無の箱。

そのエネルギーの強さは白銀龍には少々当たりが強かった。

龍にとっては不要なエネルギーの塊だったのである。

好んで近づく場所ではなかった。


そして、もう一つ。

瘴気の嵐が吹き荒れる東の大海原。

その中のとある特異な地域。

そう、それは白銀龍であるが故に感知できた、一つの特異点とでも呼べる広大な場所だった。

レスカリウスが解せなかったのは、その特異場所が存在する理由であった。

確かにそこには何かがある。

だが、そこに何があるのかはまでは分からない。

何故、自分がその地域を避けているのか、本能で感じる事に理由が見当たらない。

特異場の広大な中身が見えてこないのだ。

その場所の存在理由はどうでも良い事だった。

だが、天空を漂ううちに、何故かその場所の事を考えてしまう己がいた。

その内、舐めるなとばかりに、特異点の中に入り込もうと試みた。

強引に入り込んだのだ。

だがその時は、壁にはじかれるように特異点の外へと押し出されてしまった。


この空間はなんなのだ?

考察する時間は限りなくあった。


幾度となく思考をめぐらせ、試みを行った。

結果はなかなか出なかった。

空を飛び続けること数十年。

その場所が、想像を絶する強大な時空間魔法による超広域結界で覆われているのだと、ようやく結論を見出した。

それは単なる時空間結界ではなかった。

幾多の属性を絡ませた、ありえないほどに大規模な特殊時空間結界。

その結論は時空間結界を操る白銀龍本人よりも、高位の存在を示唆する事に他ならなかった。

ありえない事だった。

だが、それ以外の可能性もいくら考えても、他の可能性は存在しなかった。

認めたくはないが、認めざるを得ない高位の存在。


一匹の龍は長い時間をかけ、ようやく一つの結論を出すに至ったのだ。



話は変わるが、リテラにはそれぞれ11種の属性を司っている精霊がいる。

そのうち、白銀龍レスカリウスは6つの属性に適応し、日々の中で時間と空間の二素体を好んで選択していた。

11種の属性の中、6つの属性素体を持つ者。

さすがは祖龍と言わねばならない。

人族などであれば11種の属性中、そのどれにも当てはまらない無素体質、無属性、とも呼べるべき者がその大多数を占める。

それは、小国家の乱立で勢いづく獣族達にも同じことが言えた。

この世界の多くの命はまったくの素無しなのだ。

素体持ちはそれだけで生命エネルギーの補給が出来ることとなる。

希少族と呼ばれるエルフ族、ドワーフ族がそれほど多くの食料を必要としないのはその為だ。


中でも時空間属性の両方を所有した素体持ちともなると極端に減る。

時間属性。

空間属性。

この属性を司る精霊そのものの絶対数が少ないのは仕方がないとして、属性があったとしても、その力の恩恵を実感できる存在は皆無に等しかった。

例えばその2精霊を使役し、利用できるほどの力をもった人の存在は、数千年のうちに数名存在するかどうかといったところであった。

そしてさらに言えば、時空間属性適応者は極端に数が少ないが故に、表舞台にも出てこない。



話を戻そう。

レスカリウスはコルニアを覆う特殊な時空間結界の存在を認識し、数十年をかけてその結界の仕組みを観察した。

そして、内部へ移転する方法を見出したのはその時よりさらに数十年後の事であった。

精霊王が結界を張り、入寂してからおよそ6000万年。

気の遠くなるような長い……長い時間を経て、レスカリウスは彼の地に降りたった。



「我は精霊王の力により、この墓標の前に導かれたのだ」



このドラゴン=レスカリウスは、結界で断絶された後のこの大地に、初めて訪れた外界からの最初の存在だったのだ。

精霊王カイラルプスは分かっていたのだろうか。

結界の内外を行き来出来る者が、結界を張った後の世界に現れるのに、数万年もの時間がかかるという事を。

数字が大きすぎて実感が湧いてこない。

俺はカイラルプスの墓を前に、目の前にいるドラゴンの年齢に漠然とした思いをめぐらせた。

6000万年前とか平気で言っているが、この龍は一体何歳なんだ。


「ドラゴンって、長生きするんですね」


話し終えた白銀龍に思い切って聞いてみた。

「我の歳の話か」とレスカリウスが白い眼をしてこちらを見る。

気分を害したか?


「コルニアは時空間結界によって外界より断絶されている」


それは聞いた。


「ええ。ここに眠る精霊王が外界との縁を切るために、命を賭して創り上げたのですね?それは何となく分かった気がします」

「そうだ。カイラルプスの時空間結界は、もともと天空より落ちてきた虚無の力から、この大地を守るために張られたものだ。だが、時空間結界であっても外界と断絶は完全ではない」


つまり、数千万年も効果が継続しているにも拘らず、結界が完全ではなかったという事になるのだろうか?

どれだけ厳しい判断基準だろう。


「精霊王カイラルプスの結界はこの地の周囲をさらに倍の広さで張られている。強い瘴気の侵入を抑えようとしたのだ。厚みを持たせた結界は時間を遅らせ、瘴気の侵入を阻む役割を果たしてきた。その弊害だろう。外界の十分の一の時間でしが時が流れぬ。我はここを住みかとしてきた。外界で生きてきたのであれば5万歳ほどにもなろうが、この大地を住みかとした身となってはいまだ5000歳になったかどうかというところだな」


なあるほど。

長生きだ。

5000歳とか。

あー、俺を待っていたっていう時間と同じだな。

その辺は、ザックリとなんだな。


だが、面白い。

時空間魔法による超広域結界。

空間と時間のそれぞれの魔法で、内なるものを外から守っている。


空間結界は真空でできているようなものではないのだろう。

熱エネルギーがゆっくりとでも伝導はしてしまう超高性能の断熱材みたいなものか。

初めはしっかり断熱するが、時間が経てばどうしても外の熱は伝わってくる。

遅いか早いかなのだ。

違うのはここに時間が作用している事。

その空間の時の進みを遅くしているせいでそとからの影響を受けにくくしている。

空間結界と時間結界。

つまりはあれだ。

コルニアの大地に作用している時間の遅れは、かなり限定的なタイムマシンなんだ。

ここにいれば誰もが昔話に出てくる主人公になれるって寸法だ。

おとぎ話の姫様と時を忘れて人生を謳歌していたら、いつの間にか一年が経っていて、村に戻らねばと別れを惜しんで帰ったら、現実世界では十年の刻が経っているという訳だ。


考えてみれば面白いどころの話じゃないな。

おっかねえ。

ぷるっと体が身震いした。



「すごい王様だったんですね」


カイラルプスはこの大地を今もって護っている。

その事実がすごい。

俺はカイラルプスへの思いを口にしてみた。


「カイラルプスはそなたが来る事を予言していた。再びこのコルニアに精霊王が現れるであろうと、我に伝えていた」


草原に吹く穏やかな風が俺たちを包み、白銀龍が石碑を見ながら言葉を繋ぐ。


「ここへ来るのも久しいな。精霊王よ。残存意識も既にないそなたに会いに、今日この時、再びこうしてここへ来ることになろうとは、夢想だにしておらなんだ。昔そなたが申されたそなたの生まれ変わりらしき者が本当に現れるとは、我は思ってもおらなんだ」


そこまで言って、白銀龍は大きく息を吐いて思いを告げた。


「そなたが申されていたことが現実となったぞ。精霊王」


墓標は応えずそこにある。



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