表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊星の物語 ~精霊島の物語~  作者: uki yoe
第二部 ゴブリン迷宮の物語
59/65

ゴブリンキラー

本話、残酷表現含まれます。

ご注意ください。


「ヨタ、ナキ、グラーネ、精霊さんからもらった力を全力で出し切れ。きっと地上まで生きて出られるはずだ。信じろ、自分の本能を。信じる先に道はある。それでも不安になったら仕方がない、俺を信じろ。信じて俺の言葉を思い出せ。お前達は地上へ出られる。絶対だ」


緊張感を高めつつ、軽くうなずいて見せたヨタ。


「はいっ」


と威勢よく答えたのは弟のナキ。

キースはヨタとナキの頬に手をやり、その感触と共に彼らの意志を確認すると、グラーネへと向き合った。


「グラーネ、お前に俺の言っている事は分からんだろうが、お前が要だ。その力をこの迷宮を抜け出すために使ってくれ。エルフィを頼む」


覗き込んだ幼い仔馬の瞳に、愛馬コニーの姿が重なった。

コニー、この馬を護ってやってくれ。

俺は護るぞ……グラーネ。

ポンとグラーネの頭に手を置いて、キースは大きく深呼吸をした。


バジュッ!ジュ!バジュッ!

しびれを切らした数体のゴブリンゾンビ。

結界に近づきすぎ、爆発物に触れたかのように吹き飛ばされる。

その様子を目にするも決意の表情を一切変えず、クイーンのいる前方を見つめるヨタとナキ。

スラリ、と長剣を構えたキース。

それを見る、殺伐とした女王の目が怪しく光る。


「虚勢ヲハルナ人間。オマエノ攻撃ハ、ワタシニハ届カナイ。命ガ惜シクバ我ラヲ恐レヨ。ソノ安全ナ檻ノ中デ大人シク震エテイルガイイ」


傲慢とも嫌味とも取れる、ゴブリンクイーンのたどたどしい言葉が耳を打つ。

釣られるようにカラカラ、ゲッゲと笑い出す数多あまたのゴブリン。

ゴブリン達の嘲笑が周囲を埋め尽くす。


だが、その人を人と見ぬクイーンの瞳に、そのゴブリン達の無慈悲なあざけりに、おびひるむキースらではない。

キースは結界の外にいるクイーンゴブリンの視線をはずしつつ、尚、しっかりと睨みつけ、初撃を与える箇所に狙いを定める。


「ヨタ、ナキ、俺は全力で奴を殺る。お前達は先に行け。行くぞ!」


鋭く告げるや否や、安全な結界内より脱兎の如く飛び出したキース。

狙いは統率の女王、クイーンゴブリン。


キースの目線がクイーンの顔を狙う。


周囲にいたマスタークラスのゴブリンは、人間の狙っているモノが自分たちのクイーンであると理解していた。

その上での余裕、その上での嘲笑あった。

クイーンはさらに上を行く。

人間の男が自分のどこを狙っているのかを見切っていたからだ。

人間の跳躍など、たかが知れている。

人間なぞ、食い物の対象であって脅威の対象ではない。

例え屈強な部類に入る人間であったとしても、クイーンである存在の力に迫れる人間はこの世に存在しないのだ。

手の出せぬ場所より自分から出てこようとする人の形をした食い物。

狙っているのは人間の方ではなく、クイーンの方であった。

クイーンの瞳に狂喜が宿る。


だが、その人間の初動は完全にクイーンらの予想を超えた。

届くはずのない長剣の刃が、展開させていた数種類の障壁魔法を超え、いきなりクイーンの目前に迫ったのである。

余裕のあったその表情に驚愕が走る。

人とは思えぬ動きで空中を走り、自身とクイーンとの間を一気に詰めるキース。


――むン!――

気合の一突き。

顔面を狙った渾身の突き。

直線的な初撃。

驚愕し、あわてて避けようとしたクイーン。

避けきれない。

ス、と頬骨に刃が入る。

なおも人間は止まらない。

キースはすり抜けざまに足場を創ると体を回し、振り向く力を利用しつつ長剣を薙ぎ払う。

シュン!

極めて鋭い斬撃に、ガードしたそのクイーンの腕が、肘から先、見事な切り口で斬り飛ばされた。

額にも切っ先が届いたか、皮が裂け骨の下、鮮血がバッと顔に出る。


「アアァァァァァ!」


あまりの出来事に声を荒げ、転がるクイーン。

止めの一撃をと迫るキース。


その状況を見つつ、頃良しと判断した獣族の子ら。

ヨタとナキ、次いでエルフを運ぶグラーネが後を追い、安全である結界を抜け出た。

転がりまわるクイーンの傍を抜け、交差する大人と二人の子供。

キースは追わない。

ヨタとナキの後を走るグラーネ。

と、まさにキースとグラーネが交差したその一瞬、強烈なクロスボウの矢が彼らに襲いかかる。

クイーンを視線の先に見据えつつ、マスターゴブリンが合図を送った狙撃の瞬間を視野の片隅で見たキース。

だがキースの立ち位置から見てもランダムに、相当な広範囲から飛んでくる多数の矢の全ては落とせない。

迫り来る矢。


「避けろっ!グラーネッ」


痛恨の思いが去来する。

考えないようにしていた現実。

――頼む、当たるな!――

グサリと矢に射ぬかれるナキらをイメージし、だが、その矢が彼らに届く遥か前、その矢はピタリと動きを止めた。


「おじちゃん。僕達もグラーネも魔法が使える!だから当たらない!」


地表より少し浮いた場所、キースより最も遠い場所に立ち止まったヨタが叫ぶ。

ヨタなのか、ナキなのか、それともグラーネ自身が発したか、恐るべき勢いで迫り来たクロスボウの矢をいとも簡単に止めた空間魔法。

クロスボウの矢が力なく地表に落ちる。


頷いたキース。

詠唱もなく、魔法が使えるようになっているのはキースだけではなかった。

ヨタもナキ、グラーネも、あの精霊に強力な力を付与されていた。

その力を全力で出し切れと言ったのはキース自身だ。

あの精霊から授かったエンチャント。

考えてみれば獣族の子らは、馬のグラーネと同じスピードで空間を走っていた。

心配はいらない。

――立ち止まるな、行け!――

顔で合図を送り、ならばこんな事も出来るはずだ、と女王を護らんとする前面の敵に対峙する。


矢の力が侵入者のその体に届かぬと判断し、徒党を組んで襲いかからんとするゴブリン群。

対してキース。

その大集団を目の前に、自分の得意魔法、水素の力で創った氷玉を前面に用意する。

通常であれば、二~三個コロンと出来るかどうかだか、今は違う。

現れた氷玉は軽く百を超えた。

しかも、その全てが重なる事なく浮遊する。


カシュッ!


その内の一つが、目にも止まらぬ速さでマスターらしき一体に潜り込む。

内臓をまき散らし、後方へ吹っ飛んで行くゴブリン。


『オオオオ、オオオオオーーーーー』


それが合図となり、上に下に、ものすごい形相で襲い来る多数のゴブリン。

キースはそれらに弾丸となった氷玉をくれてやる。

氷玉はゴブリン達の体にめり込み、又、その体を引きちぎりながら、奴らを後方へと激しく追いやった。

腕や両足を吹き飛ばされ、顔を吹き飛ばされ、胸に穴を空け、原型を留めぬ肉片となって散らばるゴブリン。

容赦なく、一度に数十体のゴブリンを吹き飛ばすキース。

その攻撃が繰り返される。


凄まじい光景。

キースの周囲は場が空けて行く。




圧倒的な人間の力。


時間の幕を張り、空間の遮蔽を行い、ほぼ全ての障害よりダメージを受けない事に自信を持っていたクイーンゴブリン。

これまで一度として、敵対するものから傷を受けたことは無かった事実。

それら全てを自信と共に切り裂いた人間の狂刃。

受けるはずの無い傷を自分が受け、それが致命傷になりかねないものであった事に気づき、顔を歪ませる。

氷を武器にした魔法の威力。

時間と空間を切り裂いて見せた、恐るべき能力を持った白い剣。

それらを操る者が何者であるのか、己の判断がいまだついて行かない現実。

片手を失い、血みどろの顔となり、それでもまだ起きた事が認められぬゴブリンの女王。

目の前に立ち塞がる人間を睨むその口より、呪詛が漏れ出る。


「オノレ人間ゴトキガ、オ前ラ人間ハ我ラニオトナシク喰ワレテイレバイイノダ。コノヨウナ真似、我ラは許サヌ。我ハ死ンデモ、我以外ノ全テノクイーンガオ前ヲ許サヌ。オ前ヲ呪ッテヤル。オ前ノ全テニ呪イアレ……」


言うや否や、女王の長い鉤爪がキースを襲う。

悪あがき。

だが、その動きはキースによって誘われたアクションにすぎない。

様々な修羅場を潜り抜けて来た男の型。

クイーンの正面で、キースの正中線は既に立ちあがっている。

鋭い鉤爪を簡単にいなしたキース。

詰め寄りざま上段に剣を構え、ブンと縦一文字。

白い軌跡がクイーンゴブリンの頭上から下へ流れ落つ。

目を極限まで見開いたクイーンゴブリンの体が左右へ割れ、勢い余った剣圧がビシンと音を立て、地表を削った。


陰々と響く言葉でゴブリンに言い放つキース。


「人間が黙って喰われているだけの存在だと思うな。呪いたくば呪うがいい。この剣はお前らの骨身を切り裂くゴブリンキラーだ。俺の名はキース。キース・リラルディ。今より俺はお前らにとって悪魔となろう。ゴブリン共、今日この日、俺がこの場にいた事を死してなお呪うがいい。キース・リラルディ、それが今日お前らの命を奪う人間の名前だ!」



―――――――――――――――



ヨタ達はかなりのスピードで壁棚に向かい、空中を走り抜けていた最中にその声を聴いた。


ドドドドドとコブリンを吹き飛ばしていたキースの魔法。

暫く聞こえていた音がなくなり、どうなったかと立ち止まり振り向いたところ、キースがクイーンゴブリンの体を一刀両断にする姿が目に映った。

その場を埋め尽くす、数多くのゴブリン達も一様にして同じ光景を見ていた。

力のあるクイーンが、赤子を捻るかように惨殺された光景。

異様な静けさがその場を支配する。


動きを止めたゴブリン達に、見栄を切ったキース。

その姿を食い入るように見る獣族の子。

キッ、とキースはヨタ達を見やった。


「何してるっ!早く行けっ」


その声に、グラーネの体が反応した。

ヨタとナキより先に行く。


「ヨー兄ィ!」

「ウン!」


身をひるがえし、再び走り出す。

キースはクイーンゴブリンの屍を後に、先を行くヨタらを追おうとその場を駈け上がる。

その姿に、たぎる怒りを思い出すゴブリン。

手に持たれたクロスボウへ鋭い矢がセットされる。

歯をむき出して武器を構えた姿は、小汚くも狩猟型モンスターのそれである。


クロスボウの矢が一斉に侵入者へと解き放たれ、雨あられのようにキースを襲った。

ピュンピュンと弧を描き、キース一向に投射されるクロスボウ。

だが、その矢は侵入者に一傷を負わすことなく地上へ落ちる。


自身にまで届かぬその矢の雨中を走り抜けながら感じるキース。

行ける!

精霊が俺達に与えたエンチャントは尋常ではなかった。

このまま行けば、地上へ出る事も決して難しくないのではないか。

そう思った時だった。


ドグンと大地が揺れ、空間を走っているのキースの視界がグワンと揺れた。

さらにもう一度。

ズズン、ズズズン。

ヨタやナキ、グラーネにも異変が分かる。

立っていられないのはゴブリン達。

バランスを崩し、壁棚よりバラバラと落ちていく。


グラグラと大地が突き上げ、空洞内が揺れまくる。




ビシッ!

空間の端、巨大な石柱群にヒビが入り、その一柱が脆くも崩れ地表へ落ちる。

響く大きな音。

下にいたゴブリンが数匹、逃げ切れずに押し潰される。

地表を揺れ走る衝撃。

ババババンと、先程までエルファイムが横たわっていた白き台座に、大きな亀裂が入った。

さらに、一つまた一つと石柱の一部が欠け落ちる。

ゴガーン。

ゴォーン。

亀裂はさらに深くなる。

エルファイムを解放し、その役目を終えた白き台座。

確実にダメージを負い、亀裂を増やす。

その場にいる全ての者がそれを見る。

亀裂を生じさせながらゆっくりと、そうであると見なければ気が付かないうちに、地表外へと膨らむ白き台座。

形が変わる。

ゴワンと何かの音がした。


「割れる…」


キースの口から洩れた言葉。

次の瞬間。

エルファイムが横たわっていた白き台座は、下から噴き出る闇霧の圧力によって、耳をつんざくほどの強烈な爆発音を立てながら、空洞内に吹き飛んだ。



―――――――――――――――




次回サブタイトル予告です。

~深淵のドラゴン~

お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ