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精霊星の物語 ~精霊島の物語~  作者: uki yoe
第二部 ゴブリン迷宮の物語
56/65

意識の共有

「ただいまっ!」


ドラゴンらしきモノを確認して慌てて戻って来た俺。

エルフの姫を連れて帰ってこれない訳でもなかったが、それをしてしまうとキースの生き様を無視した事になるような気がしてやめた。

皆を連れて台座の間へ転移したら、その瞬間、間髪入れずに、あの空間にいるゴブリン達を止めてしまえばいいのだ。

怖いのはその下。

あの下の階層にいるドラゴンもどきにさえ注意しておけばいい。

奴がレスリーに近い力を持っているドラゴンだとすれば、ロック鳥の親が引き起こす参事どころではないはずだ。

俺の力もどこまで通じるか分からない。

君子危うきに近寄らず。

アレには極力、近づかない方がいい。

幸いにもあの怪物は俺の気配に反応せず、ぐっすりと眠りこけていた。

あの様子であれば、階上で騒々しい音を出しさえしなければ起きてはこない。

注意点は其処!其処だけに注意を図れば、さしたる問題はない。


「お帰りなさい精霊さん!ゴブリン達いた?」

「お姫様は?」

「おう。精霊さん、待ってたぜ!どうだった?」

「それが、とんでもない奴がいてさ……って何?」


注意事項を皆に伝えようとした俺の目の前に、気力の充実したエルが立ち塞がる。

何だかピリピリしている?


「どした?」

「精霊さん。貴方、このヒナの事、責任を持ちなさい!」

「へ?」

「あの男はエルフの責任を持つと言っています。私はグラーネと子供達の責任を持ちましょう。それなら、精霊である貴方は何の責任を持つのです?貴方はその力を無慈悲に分け与えるだけですか?貴方は強力な力を持った、命の強さを体現するこの星の精霊なのでしょう?貴方も強者であるならば、助けた命の責任を持つべきです。このロック鳥のヒナ、あなたが本当に信じられる強者ならば、この子の命を救ってみてください、この子の運命を私に変えて見せてください!」


驚いた。

こういうシーンは想像していなかった。

俺は今、エルに試されている?

いや、ニュアンス的には頼られているのか?

どちらにせよ、エルから感じられるこの切実な感情は、無碍むげにしてはならないものと判断できる。

キースは、どうなんだ?

俺へ向け、小さく目くばせをして見せるキース。

どうやらキースはエルの思いを肯定しているようだ。

ヨタやナキには確認を取るまでもない。


「分かった。このヒナを助けてやればいいんだね」

「私への同意や確認はいりません。貴方の意志で、貴方の思いで助けてあげて!」


さっさと助けろと言わんばかりのエル。

押され気味の俺はコックリと頷いて見せた。

アゴは無いけど、そんなニュアンスは伝わったはずだ。

しっかし、色んな事に巻き込まれるなあ。

いいのかな、こんなんで……。


「何ですか?」

「いいえ、なんでもありません」


ブツブツ言ってたら突っ込みが入った。


「じゃあ、ここではまずいだろうから、ちょっと離れた所へ連れて行くよ、すぐ戻って来るから待ってて。コイツの親を呼ぶ所までやってみよう」


グタっと横たわる2mちかいヒナ。

そっと持ち上げ、見渡した範囲で一番遠そうな場所にある岩の上へ転移する。

リテラの空、星々が白く瞬き、気持ちの良い星明りで静まり返った下、幾分リッチな気持ちになって、改めてヒナの様子を伺ってみる。

拍動が弱い……止まった。止まった?

おぉい!

あわわ……死んでしまっては元も子もない。

慌てて電気を流し込む。

ドックン。

動いた、危ねー。

ギリギリだったのね。

体力の回復を急がないと。

念のため、環境に影響を与えないよう俺専、亜空間収納を大きく広げ、そのなかにヒナを放り込む。これで思う存分、嫌という程の強さでヒーリングの力を発揮できる。


ほどなくロック鳥のヒナは目を開き、ムクリと立ち上がる。

経過は順調。

仁王立ちの姿にコイツの成長時の姿が見て取れる。

俺はそんなコイツにヒーリングを掛けながら『待て』をした。

と言っても、『待て』と言われて、黙っている鳥なんていない。

ヒナであれば尚更だ。

鋭いクチバシで、ヒーリングを掛けている俺の存在をついばもうとする。


「こら!何?何だよ!オマエ何がしたいんだよ。俺は命の恩人なんだぞ!うわ!バカー!食う奴がいるか!」


パチリと軽い電撃を与えて驚かしてみても、ヒナのついばむような行動は治まらない。


「クェェェ、ピェェェーーー」


元気なはずなのに物悲しく聞こえるヒナの声。

こいつの言いたい事が分からない。

分からない?

分かる方法ってないのかな?


「おい、ギブアンドテイクだ。何とかしてやるから俺に協力しろ。今から俺はお前と同化してみる。上手くいけばお前の考えている事が俺にも分かるかも知れない。失敗したらお前……どうなるのかな?俺は多分平気なんだろうけれど……やりたいな。生体実験になるけれど、やりたいな。やっちゃいなさいな。覚悟しろ!ヒナ、止まれ」


俺はロック鳥のヒナを動けないようにし、自分の素体をヒナの体にゆっくと同化させていく。

ピヨ?

こちらの考えと相手の考えがリンクされていくみたいで面白いピヨ。

でもこれ、今のままだと相手を選ぶピヨ。

今は鳥だからいいけれど、人とやるようなときは、こちらの考えにフィルターをしておかないと、考えていることがダダ漏れになってしまうピヨ。

気をつけないとピヨ。


ヒナは俺で俺はヒナ。

何を思う?


『――…オナカ…スイタ…オナカスイタ。オナカスイタ。オナカスイター。オナカスイタョ。オナカ…スイタッタ…アアスイタピヨ――』


「読めた!それかよっ!何だお前、腹減ってたのか!」

「ピョェェ、クェェェーーー」


ようやく分かったか、と言わんばかりのヒナの声。


「じゃあ、世界樹の葉でも食べてみる?美味いかどうかは知らんけど、一枚食べたらお腹一杯だぞ。たぶん」


葉っぱなぞ喰えるかというヒナの口を無理やりこじ開け、喰わんか!と一口サイズの葉を一枚放り込む。

効果てきめん。

お腹がボワンと膨らんだ。


「おお、見事なお腹ですな」


体力も回復し、お腹も満たされたヒナ。

俺は、もう大丈夫だろうと亜空間を閉じ、ヒナと一緒に赤い大地の岩の上へ降り立った。

時間はない。

お約束の通りだと……じゃなかった、予想が正しければ、コイツはもう間もなく満腹感から睡眠に入ってしまうはず。


「寝るなよ。寝る前に親を呼べ。寝るのはその後だからな」


首をかしげ、何を言っているのピヨ?という表情でこちらを見るヒナ。


「ああ、じれったい。親、親を呼ぶの!さっさと呼べ!」


先程の要領で感覚はつかめたから、今度は俺の一部をヒナと同化させる。

さっきよりピヨらない。

試しにヒナに指示を送る。

すると、ヒナは思い出したかのように親を呼ぶ声を張り上げた。

ピィーーイ――ピィーーイ――と響きゆく声。

その声がさらに遠くへ届くよう、音素の力を用いて声の音量を増幅させる。

よし、声よ届け。

親よ来い。


いつしかヒナは、親を求めるその鳴き声をある一定の方向へ向けるようになる。

そうして数分後、永遠と大地の続く遥か彼方の大空から大きな鳥が現れた。

こちらへと向かってくる巨鳥。

猛禽類に見える精悍な顔が美しい。

チョットした飛行機くらいの大きさであるのに、羽の羽ばたき一つ聞こえない。

上空を優雅に旋回するロック鳥(親一羽)。

親がここまで来たんだ。もういいだろう。

後は大自然の成り行きに任せる。

エルが俺に求めたモノは果たせたはずだ。


「ヒナ、お別れだ。アバヨ、元気でな」


同化を再び行い、別れを伝えた俺。

その感覚は一瞬であったのに、親鳥が来たことへの喜びがヒシヒシと伝わってきた。

アバヨって伝えたけど、こりゃ三歩歩いたら忘れるな。

それでいい。

縁があったらまた会おう。


俺はロック鳥の親が舞い降りる姿を見届け、キース達の待つ場所へと転移した。



―――――――――――――――



「お待たせ。ここから見えた?」

「うん。見えるよ」

「ずっと見ていた。あれがロック鳥の親だな」

「あのヒナどうなったの?」

「元気にさせて、親を呼んだんだ。あの後はどうなるかな?あの鳥達のこれから先の事は俺には分かんない、でもそれでいいんだろ?」


俺はエルに確認を求めた。

俺は俺なりにベストは尽くした。

これ以上の事を求められているのだとしたら、キッパリ断ろう。

俺は聖人君子でも、崇め祀られる都合のいい神様でもないんだ。


「ありがとう。私の我儘を聞いてくれて。あんな身勝手な願い、貴方に聞いてもらえるとは思わなかった。ロック鳥の親が本当に来るなんて、あのヒナもあなたに感謝していると思うわ」


エルの言葉がストンと落ちる。

身勝手な願い……。

あらゆる理不尽に対応できそうな俺の力。

エルがどこまで分かっているかどうかは知らないけど、ここまでの流れは俺でなければ出来ない離れ業だったろう。

結果的に身勝手な彼女の思いを受け止め、身勝手な行動を取った俺。

こうなると、誰でもいいから俺にも道筋を示してもらいたくなってくる。

ロック鳥のヒナが、一瞬でも俺に感謝をしてくれていたのなら御の字か。


「貴方を試してしまった私を許してください。私、運命というものに抗える力を見てみたかった。もしそんな力を持った存在がいるのなら、この私達の運命を幸せなモノに変えてほしかった。あなたは本当に凄い力を持った精霊なのですね」

「信用してもらえたのかな?」

「信用します」

「精霊さんよ、俺はとっくに信じているぜ」

「僕も」

「ボクもー」

「ありがとう」


信じてもらえているって、嬉しいね。

ならば、そんな期待に応えねば。


「じゃ、信じてもらったところで、お姫様のいる場所へ皆で行って見ようか」


俺の言葉に、和やかな気配が一瞬で変わる。


「行けるのか、行っていいのか。向こうはどうだったんだ、大丈夫そうなのか?」

「ああ、大人しく俺について来てくれれば大丈夫。あそこにはクイーンゴブリンやゴブリンゾンビとやらがが沢山いたけど、向こうに行ったら一瞬で時間を止めて見せるから、そいつ等の心配はしなくていいよ。怖いのはその下にいる奴。今は寝ているからそれほど大事にはならないと思うけど、起こしてしまったらどうなるか分からない。よっぽど騒がしい事をして、アレを起こさない限り問題はないと思う」

「恐ろしい言い回しだな、精霊さん。何がいた?」

「うーん、ドラゴン…なのかな」

『ドラゴン!』

「ドラゴンだと!そいつはヤバい、ヤバすぎるぜ」

「ドラゴン…ドラゴン……ああ私、何か大切な事を忘れてしまっている。ドラゴンの事。私に何か関係があるはずなのだけれど」

「何だエル、思い出せっ……て言っても思い出せるものなら、もうとっくに思い出しているか、ええい!今、そいつは寝ているんだな精霊さん。だったらそいつが寝ている間に早い事、助け出してしまおう。ゆっくり急げだ!精霊さん宜しく頼む」

「OKキース、あんたに花を持たせてやるよ」


エルフの姫を助け出す時の、おいしいところをキースへ譲るよと言った意味合いで話した言葉。

その意図をしっかり汲み取ったキース。

初めて見た時の雰囲気とは雲泥の差、頼もしい男の顔がそこにある。

これならエルフの姫が目覚めた時、眠れる森の美女ならぬ、眠れるゴブリン迷宮の美女としての物語が成り立つかもしれない。

この先に、王子が姫にキスをしたら目覚めるようなシチュエーションが待っているのだろうか。

それはそれでマズイか。

くれぐれも、姫が目覚めた瞬間に無礼な!ってビンタされないよう監視しておかないといけないな。


「よし、じゃあ皆、姫の場所まで一気に行くよ。凄い場所だから結界を張って行くけど、あまりの凄さに悲鳴を上げないでね」


俺はそう言いながら素体を伸ばし、グラーネにもその思いを刷り込ませる。

小さな彼女からは何が起こるの?って気持ちが伝わってくる。

――落ち着いて行くぞ、グラーネ、何があっても慌てるな――


「さて、準備はいいかな」


皆が皆の状態を確認し合うと、パーティの並びに自然とサークルが出来上がる。

グラーネを両サイドから守る形のヨタとナキ。

ヨタの横にキース、ナキの横にエル。

グラーネの正面が俺。

互いを思いやる意識が重なり合う。


沈黙が了解となった。


「では行きます……転移!」


俺は必要以上に声を出し、きっかけとなる言葉を張り上げた。



―――――――――――――――




次回サブタイトル予告です。

~エルフの姫~

お楽しみに。

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