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精霊星の物語 ~精霊島の物語~  作者: uki yoe
第二部 ゴブリン迷宮の物語
51/65

再びのゴブリン迷宮

キースと二人だけでゴブリン迷宮とやらに入るつもりでいた俺。

獣族の子らまでついて来るとは。


「この子達も一緒に行くのか?聞いてねーぞ!危険じゃないのかよ!」

「あんたがいるんだ、精霊さん。このままここに残って別行動をするくらいなら、俺達と一緒にいた方が安全なんだよ」

「そう……か?」

「そうだ。もし、このまま日が暮れてみろ、ゴブリン共は巣穴から出て来るし、サーペントやら、サラマンダ―やらがこの辺をうろつき始めるぞ!実際、大荒野の空には龍族くずれのワイバーンもいるって話だ。あんなのに目を付けられてみろ!命が幾つあっても足んねーぞ」


龍族くずれねぇ。


「ん~。俺はそんなモノより、大量の虫の方が怖いと思うんだけどなぁ」

「あぁ?虫?」

「虫」

「虫って、これ?」


大地の草陰に隠れている、あの赤黒い虫を捕まえてみせる獣族の子ヨタ。

ご丁寧に弟のナキまで、しゃがんで掴もうとしている。


「うわっ!やめてっ!わざわざ見せてくれなくていい!」

「こんなのが怖いの?」


ぽいっと投げ捨てるヨタ。

パンパンと手を払う。

手に何かついたのか?

触らなくていいのに……。


「精霊にだって、得手不得手ってのがあるんだよ。ナキ君、それどうすんの?ポイって投げときなさい」

「ポイッ」

「おいおい。ゴブリンの住処はこんなのばっかだぞ?」

「マジで?」

「大マジ」


ぞわっと悪寒が通り抜ける。


「はあ。皆でゴブリンの住処に行くのかあ。何でこんな事に……うう。何か、対策を立てておかなきゃな」




蟲が大量にいると言う、ゴブリンの住処へ入ってく為の対策。

何が出来るだろかと、キース眺めながら、彼の素体を感じてみる。


「なあ、キース。あんたの体には、色んな素体の力を感じるな」


キースから感じる素体は基本的には水素がメインであるようだが、その他にも時空間素の力と闇黒素の力を感じ取ることが出来る。


「あんたも規格外なんじゃないの?数種類も属性があるなんて」

「コレのことか?」


そう言うとキースは、胸元より黒光りする小型の精霊晶を取り出した。


「それって、闇属性の精霊晶か?」

「ああ、俺は基本、水属性の水素をほんのちょっとだけ持ってるだけなんだ。暗闇の中を歩くには闇属性の精霊晶を持っておかねーとな、これは俺にとっちゃ必須アイテムみたいなもんだ」


闇属性の力は精霊晶のものだったのか。


「それじゃあ、今も発動させている様子の時空間属性の力はどうやっているんだ?それも精霊晶なのか?でも、精霊晶で発現させる力は同時に使うべきものじゃないんだろう?」


その長剣と防具から微妙に感じる時空間素の力。


「精霊さんが言っているのは、エンチャントの事だろうな。これに付いている時空間素の力は俺じゃない。これはエルフが付けてくれたエンチャントなんだ」


「おじちゃん。エンチャントって何?」


獣族の子供が話に加わる。


「俺も詳しい事はよく分からねーんだけどよ。持ち物に魔法の力を定着させるって感じかな。エルフはこの剣をゴブリンキラーて呼んでたぞ。ゴブリン共を切る事に都合のいい剣なんだと」


キースは俺達に見せびらかすように、両手で掴んだ長剣を風を切って振り回す。

エンチャントか。

素体を持たない物体に素体を定着させて、尚且つ、そこに魔法の力を発動させておく。

って感じなのだろうか?


「ちょっと貸して」


俺はキースが持っている剣を借りてみる。


「何だ?何か気になる事でもあんのか?」

「うん。エンチャントってどうなっているのかなって思ってさ」

「精霊さんの力があれば、エンチャントなんて簡単なんじゃねーのか?獣族のガルニ国にある枯れない水や、ドワーフのトゥルグスにあるって言う、消えない炎なんてのもあんたらの力なんだろう?」

「僕達、飲んでいたよ」

「あの水、おいしいんだよね」

「……知らねえ」

「え?マジで知らねーの?相当昔からあるはずなんだけどな。あんたら精霊って何千年も生きているんだろう?それなのにそんな事も知らねーのか?あんた、本当に変わった精霊なんだな」


精霊が皆、物知りだと思うなよ。


「俺は生まれて間もないんだ。だから、この星の事をぜんぜん知らないんだよ」


驚く三人。


「精霊さん、生まれたばかりだったの?」


ナキが尋ねる。


「ああ。俺は生まれたてのほやほやなんだ。ついさっき生まれたばかりで、ナキより年下なんだよ。この世の中、俺の知らない事だらけなんだ」


「へー」

「そうだったのか?」

「どこで生まれたの?」


子供は素直なだけに、突っ込みも鋭い。

どこって、言っちゃっていいのかな?


「んーとね。コルニアってとこだよ」

「コルニア?」

「どこだ?そりゃ。どっかで聞いた事があるような無いような。どこだっけ?」

「聞いた事ないね」


コルニアって失われた場所らしいからな。

普通の奴なら分かんないんだろうな。

――聞いたことあるんだけどな――とつぶやいているキース。

そんなキースを感じながら、俺は、武具に付けるエンチャントのやり方を分析してみる。

剣にかけられている魔法の力は微々たるものだ。

こんなもので一体どんな効果を得ようと言うのか。


「これは、空間断絶の力を利用しているのかな。それに剣そのものの劣化を抑える減速魔法が固定されている?なるほど……」

「何か分かるか?」

「このエンチャントって言うのと、さっきキースが言っていた、消えない炎の力はきっと別物だと思うな」

「そうなのか?」

「ああ、見る限り、この剣に付いているような魔法であれば、いずれ効果は無くなってしまうだろう。まったく変わらずに魔法の力が続いているっていうのは、きっと別のモノなんだろうな」

「ふーん。じゃあよ、迷宮の中で眠っているエルフの姫が封印されているってのはどうなんだ?」

「それはきっと、その人の周りにある時間を含めての魔法なんだ。それも又、別物だな」

「ふーん。なるほど、さっぱり分かんねえ」


あはははは、と子供達の笑う声。


「なあ、キース。エンチャントの仕組みが分かったところで、あんた達に俺なりのエンチャントをかけてやってもいいかな?このまま何の対策もしないでゴブリンの巣穴に入るのは、俺、不安なんだよね。何があるか分かんないし」

「おお!そりゃ願ってもねえ!喜んでだ。精霊にエンチャントをかけて貰えるなんざ、いくら金を用意したってやってもらえるもんじゃねぇ。こんなチャンスは二度とねえな。おお、精霊さん。何でもいい。どんどんやってくれ。思う存分、ガンガン、エンチャントをかけてくれ」




キースとナキ、ヨタ達から、エンチャントの了解を得た俺。

まずキースの長剣と投げナイフにかける魔法を観察する。

既にエンチャントの掛かっている武器。

この武器にはもともと、エルフの予言者が対象を切り裂くという事に特化させた、時空間魔法がほんのりとかけられている。

では、まずはこれを強化してやろう。

キースの剣は、刃の部分と柄の部分が一体となっている諸刃の直刀だ。

切っ先は三角に鋭く尖っている。

刃幅はそれほど厚くはないが、決して細くはない。

刃渡りは70cm以上だろう。

柄の部分を含めたら1m以上になる。

この剣の素材が何なのか分からないが、パッと見、鉄製のモノで間違いない。

刃の形状からいって、本来の使い方としては、切り裂くよりも突き刺す形の方が使いやすいようにも見える。


「この剣ってさ、突く場合と、両手持ちで振り回して使う場合、どっちがよく使われる?」

「どっちもだ。今回みたいにゴブリン共とやりあうような多勢の場合は、振り回す方が多いかもな?」

「そうか。そうなんだな」


普通に一対一ならば、突く方が相手に致命傷を負わせやすいのだろう。

逆に相手が多勢の場合は、この剣で相手の攻撃を受ける事も考えなくてはならない。

キースはその場で使い分けているのだ。

なら、この剣は、エルフがかけたエンチャントの基本構成はこのままに、新たに別の力を加えるようなことはしない方がいいだろう。

エンチャントで別の力を新たに加えるとしても、電撃や炎を纏わせるような剣で、使用者がオールマイティに利用できなければ意味がない。

今回の場合、キースの使い勝手を優先した方が、やり方的には合っているはずだ。

であるならば、既に時空間素が付与されているこの方向で、もっと切れ味を鋭くしてみる方が効果的だろう。


早速試す。

刀身の劣化を抑える減速の力。

これをさらに強化させ、現在の状態を全く変化させない為の時間停止魔法をかけてみる。

問題はない。

次に、申し訳ない程度にしかかけられていない断絶の力をさらに鋭利に効かすよう働きかけ、物体を切断する力としての空間魔法をかけ直す。

よし。

さらに、長剣の重さを消さないまま、使用者とってに軽く感じられるよう、剣の全周に時間の加速をかける。

最後に仕上げ、刀身から人体にダメージがフィードバックしないよう、持ち手の部分に水素で創られる衝撃吸収ゲルを添付させてみた。


「わあ、きれいだねえ」


白く輝きだす刀身。

それを見ていたナキが感嘆の声をあげる。

初めてやった割に、かなりいい線行っているんじゃなかろうか。

コブリンキラーどころじゃない。

ドラゴンキラーと呼んでもいいだろう。

これで斬り込まれたら、レスカリウスだって危険かもしれない。

白光していた白銀龍の鱗、装甲板のようなあの鱗にも刃が立つような気配を醸し出している。


俺は同じやり方で、投げナイフとキースが称する、ダガーのような剣にも同じ内容のエンチャントをかけてやる。

恐ろしい武器になった。


次は防具。

額当てと、身に着けている鎖帷子、それに革靴。

足や腕なんかは全く護られていない。

素肌、そのものだ。

軽量で動きやすさを重視したらこうなるんだろう。

ゴブリンの生皮をはがした後の姿は、防具を身に着けていると言っても大した装備ではなかった。

これでは、簡単にボウガンの矢を通してしまう。

子供達の事もあるし、どうしようか。

当然、子供達に防具はない。

防具ではないもので、防具の代わりとなるモノ。

なにかいい方法はないかな?


俺は、キースがクロスボウの矢を弾く場面を思い出す。

そういえば、あれは素体の力だった。

ゴブリンが放った矢を弾く事はもちろん、受けてしまった場合の、肉体へのダメージをも防いていたようだった。

防具のない今、あれが出来るのであれば、素体の防御力を高めた方が理に適っているのではないか?

俺はキースに向き直る。


「キース、防具へのエンチャントは止めだ。あんたの体そのものにかけてみる」

「え?おい」


返事を待たず、取りかかる俺。

まずは体の表皮一枚に、外部からの攻撃に対する防御を高める為の素体の膜を形成してみる。

キースは水属性だから、水素体を纏った方がいいだろう。

唯の水素体ではない。

副作用のない精霊王由来の素体。

俺の純正、純度100%超高濃度の防護水素体だ。


「な、なんだ、この力?怖いくらい力のある素体が俺を包んでいるな。でもこれ、まったく違和感がねえ。なんだ?この素体」


俺はキースの言葉を聞きながら、別の事を感じている。

体にエンチャントをかける事が出来るんだったら、素体にもエンチャントがかけられないか?

試しにキースから感じる素体の源を探し出す。

うわー。

キースの素体の元、小っさ。

米つぶより小さい。


「まるで、あんたの素体は赤子のようだな」

「あ?赤子が何だ?」

「何でもねぇ。独り言」


コルニアへ来た当初、レスリーが俺に言った言葉をキースに使ってやった。

このキースの素体を強化してみよう。

俺にとってはほんの少し、でもキースの素体の三倍くらいにはなる力を付与してみる。


「おっ、おおっ!!何だ!!何をした、精霊!俺の素体力が倍になったぞ!」


倍、以上だ。

問いには応えず、先ほどより随分膨らんだキースの素体に、闇と時空間の素体を加えてみる。

うまく定着すれば、迷宮内での行動が随分楽になるはずだ。

問題がありそうなら、すぐにでも解除する。


「うわっ!あっあ?何だ?何だよこの力、こんな力、有り得ねェ」

「あんたの水素に闇黒素と時空間素の力を付与してみた。体に問題や違和感はあるかい?」

「闇黒素と時空間素?す、すげえ。精霊晶も使わずに、素体にまでエンチャント出来ちまうのか。俺の体に負担はねえのか?ああっ?体が軽くなった気がする?」

「問題はそのくらいか?実際に体は少し軽くなるかもな。それは想定内、そういうもんだよ。体が軽く感じてしまうのは諦めてくれ」

「おお、これは問題じゃねーのか?確かに、このくらいの軽さなんざ全く問題ねぇ。こりゃすげー」


大喜びのキース。

なら、次は獣族の子供達の番だ。

俺は子供達の素体にも同じように体と素体にエンチャントをかけて行く。

子供達は基本が闇黒素だから、基本の素体に闇黒素を付け足し、新たに水素と時空間素を付け加える。


これで彼らは、様々な状況下に耐性が付くことになるはずだ。

下手な防具なんて目じゃないだろう。

ちょっとやそっとのダメージなどポンと跳ね返してしまうだろうし、たとえダメージを負ってもヒーリングの力で簡単に回復出来るはず。

迷宮内で皆と離れてしまったとしても、一人一人が何とか生きて脱出できるくらいの力は持てたはずだ。


これで、少しは安心できるかな?

ゴブリン迷宮への突入に、ようやく気持ちがついて来た。


「よし、エンチャント終わり」


俺は気前よく、声を出す。

キースとヨタとナキ、それぞれにエンチャントのかけ終わりを告げると、彼らはおっかなびっくり、自分達の体をサスサス触り始めた。


「この素体。薄く掛かっているだけなのに、何もしていなくても、ゴブリンのクロスボウは刺さらなそうだ。俺の水素、質そのものが変わっちまったのか?」

「それは違うな。三人の基本素体は変えていない。君らが初めから持っていた素体に、俺の力で素体そのものをエンチャントとしてかけたにすぎないんだ」


本人達が生まれ持っている素体。

俺はそれに精霊王の素体をかけ合わせたにすぎない。

だが、彼等に付与された素体はそんじょそこらの素体ではない。

彼等は知らないが、彼ら付与された素体は精霊王の素体なのだ。

精霊王の素体。

したがって、彼等の素体にエンチャントされた素体は、彼ら自身が自分の素体として使う事に、なんの問題もないはずだ。


「今俺が付与した素体は、全てが無くなるまで自分のモノとして使えるはずだからね。いざって時にしっかり使えるように慣れておいてくれよ」

「分かった」


キースが神妙な顔つきで返事をする。


「あ、水だ!」

「スピードアップ!」


無邪気な子供、ヨタが時空間素を使って跳びまわり、ナキが水を発生させて遊んでいる。


「なんだよ、こりゃあ。俺達、詠唱もなく、魔法が使えるようになったのか? 」

「それだけじゃないぞ、四属性魔法、同時使用可だ。やりすぎたかな?まあ、一時的なモノだし。いいじゃない」


ホッ、ヨッ、と空中を歩き始めたヨタとナキ。

子供の慣れは早い。

キースの頭上を超えて行く。


「Sクラス級の化け物になっちまったな」


幾分、唖然とするキースを尻目に、加速を加えた素早い動きで空中鬼ごっこをし始める獣族の兄弟。




「では、これよりゴブリン迷宮へ突入する。準備はいいな?」

『おー』×3

「先頭は俺、しんがりは精霊さん。目標はエルフのお姫様が封印されている台座の間だ。いいな?」

『はーい』×3


残り少ない投げナイフを取り出すキース。


「ヨタ、ナキ。お前達に俺のナイフを渡しておく。ゴブリン共を殺す為の武器だ。先にお前らを虐げたマスターゴブリンの所へ行って、奴に落とし前をつけさせる。仮に、それでお前らの気が済まないなら、他の奴らを気の済むまで叩き斬ってやってもいい。今の俺達ならそれも可能なはずだ。お前達に言っておく。精霊って言う存在が俺達の行動に同行してくれるなんて奇跡はもう二度とない。この貴重な機会をお前達のモノにしろ。俺の言っている事が分かるか?」

「うん」

「ハイだよ、ナキ」

「そうだ。うんじゃない。目上の者にはハイって答えろ。それが礼儀だ」

「はい」

「ハイ」


おや?

キースってこんな奴だったのか?

キャラ変わっていないか?

言っている事が至極まともだ。

いや、そういえばこの男は初めからこうだった。

俺に獣族の子供を助けてくれって言っていたキースはこういう男だった。

これがキースの根幹なんだ。


キースはナイフを渡しつつ、さらに子供らに諭す。


「お前ら、精霊さんの魔法が効いているとはいえ、絶対に油断はするなよ。気を引き締めて行くぞ」


ナイフを手にし、コクコクうなずく二人。


「精霊さん、こいつらの事よろしく頼むぜ」

「まかせろ」


俺達はキースを先頭にゴブリン迷宮の入口へと立つ。


キースと獣族の子らとって、悪夢再びのゴブリン迷宮であった。



―――――――――――――――




次回サブタイトル予告です。

~塞がれた道~

お楽しみに。

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