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精霊星の物語 ~精霊島の物語~  作者: uki yoe
第一部 精霊島の物語
5/65

緑の惑星

頭に響くドラゴンの声。

瞬間的に死を覚悟させた相手の声。


人外の巨大生物が話しかけてくる。

驚きモモの樹……。

暫く茫然として、ハッとする。

今、話しかけられた?

対話が出来るのか?

知能があるのか?

ならば何とかなる。

何とかして見せる。

訳の分からないこの場所で、誰にも知られぬまま怪物に襲われるという事態は免れたい。

ん?このドラゴン、何を待っていたって?


「あの…………何を待っていたって……」

「……待っていた。精霊王の御身よ、我、レスカリウスはそなたを五千年待っていた」


は?何だ?この展開。

想定外にも程がある。

五千年とか……何じゃら王とか……。


降参

お手上げ。



目の前に紺色のモヤモヤが迫る。


「王様、王様。私がここまでご案内したサフィだよ」


先程のフヨッたちゃんだろうか?


「ずるいです。サフィ一人だけ、私だって王様をご案内したかったのです」


うん?もう一つ増えた。

色が少し違うか?


「そう、ね。サフィ一人で、抜け駆けなんて、ずるいわ、よ」

「ラーンにテネア、お生憎様ー。王様がコルニアに来て一番初めに見初めてくれたのが私だったんだよ。ぜんぜんずるくないんだもん。ねっ王様」


あれよあれよと三つになった。

モヤモヤしている奴らがドラゴンの周りに増えていって、やたらと姦しい。


「お前達、はしゃぐのは後にしろ。今は我が王と話をしておるのだ」


『ぶぅ』『うー』『ブー』


ドラゴンが話に割って入る。


「すまぬ王よ。コルニアに来られて間もないというのに、不作法にも押しかけた我らを許されよ。我もこの者達も、顕現した王に出会えて舞い上がっておるのだ」


「…………」


何これ。


「王様?」


何これ、何コレ、ナニコレ、ナンダ……コレ。

コレ、何だ………。


「王?」

「王、サマ?」


なぁに、……はっ。


「すみません。とり乱しました。状況が…………さっぱり呑み込めていなくて。俺……私は、ここがどこだか分かっていないんです。ここって、一体どこなんでしょうか」


とりあえず俺も、俺の言いたいことを言わせてもらおう。

相手がドラゴンだろうと、幽霊だろうと、言葉は使って、伝えて、なんぼなのだ。


「どこって、コルニアだよ」

「コルニアは、ロストランドです」

「王様、コルニア知らない、の?」


「待てと言うのに、お前達。急いては事を仕損じると知らんのか」


ドラゴンが雑魚を払うようにバシンと尻尾を地表に叩きつけると、モヤモヤ達は一斉にシュンとした。


「重ね重ねすまぬ。王よ」


チョット、ドラゴンに親近感。


「いいえ、問題ないです。気を使っていただいて感謝します」


ドラゴンは目を細めた。

笑ったのか?


「話のわかる王で良かった。ところで、この場所が分からぬと申されたな。さもありなん。王が分からぬのも無理はない。この者達が申したように、ここはコルニアと呼ばれる断崖の大地だ。ロストランドと言えば聞き覚えもあろう。この五千年、人の姿を持つ生者がこの地を踏んだ事は無い。もはや伝説の大陸と呼ばれている地だ。王よ、そなたは今、失われた大地におられるのだ」



いや全然、分からねぇ。

そもそも話の出発点が違わないか?

もしかしてだが、この世界の住人になら今の話は通じるものなのだろう。

だがしかし俺は違う。

こことは異なる場所で生きていた人間だ。

俺はこの世界の人間じゃない。

分かる道理があろうはずもない。


俺はここに来るまでの経緯を目の前にいる摩訶不思議な者達に、細かく語る必要性を感じた。

この者達にとっても、もしかしたら想定外の事なのではないだろうか。


俺はこの場所に、つと迷い込んで来たのだ。

この世界は俺という人間の住むべき世界じゃないのだ。

戻った方がいい。

否、戻らねばならない。

ここはひとつ、腹を割って俺の置かれている状況を説明した方が得策だろう。

どこかの王様と俺を混同してもいるようだから、まずはそれを正しておかないといけない。

後の事を考えたら、誤解は早めに解いておいた方がいいだろう。

目の前にいるこの異形なやつらは味方にしておいた方が絶対にいいはずだ。

素直に話してこの世界に相応しい力を借りた方が、事は早く運ぶはず。


俺は状況の判断に時間をかけなかった。

パニくっているようで冷静な俺。

精神的にも強くなっているようだ。

俺はまず手始めに、自分の身に起きた不幸に纏わる不可解な出来事と、ここに来るまでに感じた数点の疑問を彼らに伝えてみることにした。


「ドラゴンさん。皆さん。初めに謝っときます。期待されていた人と違っていてすみません」



俺は拙い言葉で気持ちを込めて彼らに話をした。


どこまで理解してもらえるか自信はないが、今はこちらの現状を分かってもらうほかに手段が無い。

姿形にはとまどいもあるが、立派に対話が出来るのだ。

今はそのことに感謝しよう。



――――――――――――――――――――――――――――――



「ねえユーキ様、でもやっぱりラーンはユーキ様が王様だと信じて疑いません。絶対間違っていないと思うのです」


ドラゴン達に俺の話を一通り済ませ、どう思われるかと問いかけたところ、ラーンと呼ばれる精霊が暫しの沈黙を破りそう答えた。


「サフィもそう思うよ。だって、王様じゃなければこの大陸に入ってこれる訳ないもんね。きっと王様は皆の属性を持っていると思うな」

「そう、王様の結界は弱く、なっているけれど、王様じゃなければ入れない。それに、王様でなければ、王様がコルニアに来たこと、テネア、気づけない」


あれ?話通じてない?


「いや、でも皆さん。私はこの星の人間じゃないんですって……どうしてそうなるんでしょうか。皆さんの言われる精霊王さんて、こちらの世界の方でしょう。私は別の世界の人間なんですよ?」


俺の話、この精霊ズには理解してもらえなかったのだろうか。

頑張って伝えたのに……。

でも、ドラゴン様ならきっと分かってくれたはず。

俺は白いドラゴン、レスカリウスと名乗った白銀龍を仰ぎ見る。


「リテラとは異なる星。異なる世界の住人とは、我も思わなんだ」


白銀龍が語りだす。


「そなたが申された事が事実ならば、そなたの世界では我らのような者が存在できぬのであろう。精霊が星に宿らぬというのは俄かには信じられぬが、事実そうなのであるとすれば、我のような存在が生まれ来る道理はない。精霊の力がないということは即ち、それを司る11の属性も無いという事か。つまり魔法はありえぬ。うむ。理解できるぞ。そなたの申されたことに理の誤りは見当たらぬ」


おお、分かっていただいたようだ。さすがドラゴン頭がいい。

だが、とドラゴンは言葉を続ける。


「それでも尚、そなたは確かに我の知る精霊王カイラルプス、その人であるように見受けられる。いや、そなたがカイラルプス本人でないのだとしても、そなたは彼の者と同格の者、我らが精霊王と呼ぶ者であろう事に、間違いはないだろう。さて、このままここで話を続けていても埒が明かぬ。場所を変えようぞ。そなたの話を聞いて思うところがある。そなたに一度、見てもらわねばならぬ物がありそうだ」


そこまで言うと、白銀龍はその巨体からは想像もできないほどの優雅さでクルリと背を向けると「我の背に乗れ」と伝えてきた。


展開が急だ。


俺はドラゴンの背を目の前に、暫しの間考える。

この背に乗ったら俺は帰れなくなるのではないか?

俺のこれまでの生活に戻れなくなるのでは?

だが、好奇心はある。

このままドラゴンの背に乗って行きたいという気持ちと、乗ったら最後、これまでの生活に戻れなくなるという漠然とした不安とが、頭の中で交差した。


「乗るがいい精霊王。不安はいらぬ。そなたの悪いようにはせぬ。そなたは自らの力でこの世界に来たではないか。であるならば、又ふたたびそなた自身の力で戻ればよいのだ。そなたは理由があるからこそ、ここへ参られたのだ。我らはそなたを精霊王と言う。まずはそなたが自分自身でここへ来られた理由を己が何者であるかを知る必要があるのではなかろうか」


白銀龍のおさそいはてきめんだ。

不安は残るが、行ってみたい。


白銀龍に促された俺は一抹の不安を抱えながらも、白く光る鱗に手を掛ける。

分厚く鋭く、(ふち)が鋭利な刃物のような形状の鱗は、俺に切りかかってくるようだ。

よく研ぎ澄まされた包丁のようにキラリと光る龍の鱗。

危なくね、これ。

だが不思議、自分の体がその装甲版に負けていない。

俺の体に感じる異変はこの不思議な洞窟の所為ではなく、俺自身の所為であるのかも知れない。

精霊王の再来だと言われるのも、あながち間違いでないのだろうか。

普通に考えるならこの鋭利で固い鱗に手をかけたその瞬間、俺の指は簡単に切り落とされているだろう。

俺の体はここに来て異常なほどにポテンシャルが上がっているのだ。

その実感はある。

俺の事を伝説上の王様だと口を揃えて言う白銀龍と姦し精霊ズ、彼らの言うことはどこか的をえているような気がしないでもない。

ならば、である。

そこまで期待されているのなら、行って見ようじゃないの。

見せたいものがあるのなら見せてくれ。

俺自身が何者なのか見届けてやる。


「失礼します」


さらば、日常。

さらば、常識。


龍の体と尾の辺りに足をかけ「乗りました」と告げた。


途端、

俺の目の前の景色が変わった。


空間移動。

白銀龍は空間を瞬時に移動する魔法を使ったらしい。

わざわざ背に乗ったものだから、空を飛んでの移動でこの大陸の景色が楽しめるのだと思っていた。


こんにちは、非日常。

こんにちは、非常識。


 ――ハイ、コンニチハ――

早いよ。


「空を飛ぶんじゃなかったんですか」

「そなたが我の力にどの程度耐えられるか、分からぬ所があるのでな」


その場所は、彼らの呼ぶコルニアという大地の中ではあるのだろう。

周りには石碑と思しきものが一つあるだけで、辺り一面、延々と草しか見えない草原だった。

俺は龍の背から降り、広々とした草原のなかにポツンと置かれた寂しい円盤型の石碑の前に立った。

誰も手入れをしていないのだろう。

朽ちかけようとしている。


「この石碑は?」

「カイラルプスの墓だ」


白銀龍は短く答えた。

一陣の風が草原を抜ける。


俺に見てもらわねばならぬ物。

白銀龍はそう言った。

それがこれか。

精霊王カイラルプスの墓


墓を前に、白銀龍は世界に取り残されたこの大地の事を俺に語った。



――――――――――――――――――――――――――――――



この星リテラは緑の惑星だった。

それまでのリテラは争いもなく、多くの精霊達の楽園だった。

6000万年前、そこに、空より虚無が落ちてきた。


虚無の力は巨大だった。

精霊達にとってそれは悪災だった。

精霊族は力を合わせて、虚無の力を抑えようとしたが被害は収まるどころか全てを飲込み、拡大した。

精霊王は最後の力でコルニアの大地のみを外界より断絶し、この地を守った。

通称ロストランド。

失われた断崖の大地。

半径200kmほどの大地コルニア。

精霊王はこの大地を結界で覆う事しか力が残されていなかった。

悪災の為に、精霊王を含めた多くの霊族は被害を抑えきれず消滅した。

コルニアの結界内に守られていた者・物は細々と生きながらえた。

6000万年前に消滅した精霊王。

その結界により守られている大地。

結界内は時間の流れが遅くなっている。

その比率は外界の経過時間で十分の一ほどだろう。

生命活動におけるエネルギーは外界と変わらない。

結界に覆われているその代償として生命の成長は著しく遅い。

そこに生きるものに時間の遅延はない。

その時間の流れは、コルニアに生きる者にとって当たり前の流れなのだ。

コルニアの出入りに道はない。

外界から内に入る場合、内から外界に出る場合、その両方が不可能なのだ。

カイラルプスの結界は肉体を持って通ることが叶わない。

精霊王、黄金則の力を持つ者のみ、不可能を可能とする。


精霊王入寂より6000万年。

以来、白銀龍レスカリウスを除き、外界よりこの地に訪れる者は誰もいない。



――――――――――――――――――――――――――――――




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