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精霊星の物語 ~精霊島の物語~  作者: uki yoe
第二部 ゴブリン迷宮の物語
49/65

出会いの大地

浄化の波が大荒野の大気が揺らし、地表を揺らす。

土石素の波に当たり、掻き消されていく悪素。

荒野にいきる生き物たちは、時が止まったかのようにその動きを止める。

至近距離で高濃度の浄化の力を受けたGとその仲間達。

バラバラと地表へ落ちてゆく虫、虫、虫。

三つ並んで蟲。


「ふぅううううううっ!」


もし俺が猫耳っ子だったなら、全身の毛という毛が逆立ち立っていた事だろう。


半径400~500mに亘って、赤い大地に広がったパターン性のある蟲。

黒と赤のモノと、茶にグレーのモノ。

ひっくり返り、横たわり、ピクピクと数ある足を震わせている。


「滅びてしまえ」


捨てぜりふを吐きながら、蟲を一瞥しつつ、アメーバモンスターに向き直る。


助かったと言うべきか、とばっちりを受けたというか、大地にデロンと伸びているアメーバもどきのモンスター。

この場合、どっちだろう?

コールタール色が随分薄まったように見える。

ツンツン。


「あんた、生きている?」


ブルンとした。

何とか息はある?


「まずいなあ。こんな所でこんなでっかい力、使うつもりはなかったんだけどなあ」


アメーバ君よ、生きているなら、元の住まいに戻してあげよう。

俺はこのデロンとゲル状になったモンスターを持ちあげて、河の方へと引っ張った。


途中、くっついていた虫がパラパラと落ちて行く。

瀕死の虫達、ピクピクしている。

幸か不幸か、こいつらも死んではいない。

体から毒素が抜けて行って、ビックリしてのびている、といったところだろうか。

動かないと言うのに、その姿を見ると俺の素体に寒気が走る。


「蟲め」


とさげすむ気持ち。

この蟲ら全部、燃やし尽くしてしまいたい。

G達にクイーンがいたとして――よくも私の大事な子供達を――なんてつっかかってくるなんて事はないだろう。

ま、いるならいるでそんな奴がいたら、真っ先に消滅させてやる。

マキシマムの力で、次元の彼方へ吹っ飛ばしてやろう。


本当にそんな事があったとして、その時の俺に躊躇はない。

蟲らに罪はないが、諦めてもらおう。


な~んて思いながら、フヨフヨ飛ぶ俺。


「げっ!」


蟲の事ばかり考えながら河岸まで来て、目に飛び込んで来た惨状にドチャリとモンスターを落としてしまった。


「何じゃあ、こりゃあ!」


大河に浮かび上がる、小さなゼリー状の塊群。

上流より大量にプカプカ浮いて流れ来る、ヘンチクリンな生き物達。

水に浮いている物体の方が多すぎて、川面の表面に見える水の部分が少ない。

川面一杯、満員御礼状態の数多な生き物。


「あっちゃー、これ全部、この河で生きていた生き物だよな?」


俺は、落としたモンスターをぞんざいに持ち上げ、ちょっとごめんなさいよと水に隙間を作って河へと戻す。

ゆっくり沈む、アメーバモンスター。

元気に復活は……しない。


何てこっただ。

いきなり、こんな惨状を引き起こしてしまうとは。

この力はやっぱり強すぎるんだ。

悪素、とくに悪毒をメインに取り込んでいた生き物にとって、俺が放った浄化の力は劇薬にも等しかったのかも知れない。

浄化のせいで、命を落としたモンスターもいただろう。


「ごめんなさい」


謝ったところで、失われた命は戻らない。

俺は改めて自分の力の強さに感じ入る。

気を付けなければ。


「この力、封印しておいた方がいいんだろうか」


今回の被害が蟲やモンスター達でまだ良かった。

正直、目の前の川に浮かぶモンスターに対して、そう重く罪の意識を感じていない俺がいる。

もっと言えば、ここにいる全ての蟲を殺めたとして、その事に何の後ろめたさも感じない俺がいる。

アメーバモンスターの命を奪う事には若干の罪悪感を覚えたが、蟲共に関しては滅んでよしとまで思ってしまう俺。

自分でも驚くほどの冷たい感情だ。

冷酷極まりない俺の本心。

思いがけない所で、自己の根本的な感情を発見してしまった。

虫が駄目と言うか、何かこんな形の生き物達に生理的な嫌悪感があるんだな。


こんな感情、精霊王と呼ばれる存在であるならば許されるものではないかも知れない。

冷静に分析すると、自分自身がそら恐ろしくなってくる。


ああ、そうか。

だからカイラルプスの意識体は、あの時俺に、俺の思う通りに生きていいと言ったのか。

――その時の対応は貴方のお気持ちで、貴方自身の言葉でお決めになって結構です。リテラに生きる貴方の人生は貴方のモノなのですから――と。

あの言葉をこんなにも早く頼ってしまうとは。

俺の行動一つ一つがこの星にとって、何らかの影響を与えてしまうとして、それがいい事なのか、悪い事なのか今の俺には分からない。

全てを地球基準で捉えている俺。

そうだ。

良いも悪いも、俺は地球生まれで地球育ちの人間なのだ。

この感性を大切にさせてもらおう。

俺は俺じゃないか。




とは言っても、考え、悩んでしまう俺である。

今回のような事を知的生命体のいる一般社会の中でやってしまったらどうなるだろう?

エルフ達が生活している場所で、今回のように見境なく力を使ってしまったらどうなるのだろう。

母になってくれる人のお腹の中で、こんな力がもし爆発したら、はたして母体は大丈夫なのだろうか。

――黄金則の力はあまり表に出されない方が良いだろう――ともカイラルプスの意識体は言っていた。

自分の力を偽りながら生きるつもりの感覚ではいたが、この力を現状のまま何も対策をせずに生きて行くのは絶対に無理だし、相当に危険なことだと思う。

そもそも俺に、この力を規制するほどの自制心はない。

今回、それが良く分かった。

それが分かっただけでも今は良しか?


エルフの国に着いたなら、急いでこの力を封印した方がいい。

そう心に誓いながら、川面に浮かぶゲル状モンスター達に、俺の創る純粋な闇黒素を注いでやる。


「悪かったな、今回のは事故みたいなもんなんだ。恨まないでくれよ」


極力リテラの生態系を崩したくない。

俺の闇黒素、うまく適合してくれるといいな。

後は野となれ、山となれ。

ホント無責任でごめんなさい。

心の中で合掌しながら俺は再び浮き上がり、川の惨状を確かめておかなければと、上流へ向かって移動する。




大気や大地には不要な筈の悪毒が消えて、清々しさが溢れている。

上流へ向けて、状況を確認しながらゆっくりと飛んで行く俺。

相変わらず、生き物の気配は感じない。

危険もなさそうだから、観光気分といきたいところだが、そうもいかない。

眼下に広がる惨事の絵。

どこまで行っても変わらない。


「かなり広範囲に力が及んでいる。こりゃ、思ってたよりずっと酷いかも……」


俺が放った浄化の力は、草や木々にとっては恵みとなったはずだが、どれほど移動しても現地の生物にさっぱり出会わない。

皆どこかでひっくり返っていたりして。


「この辺に生きている奴は、皆、悪毒に関係していたのかな?そんな訳ないとおもうんだけど……」


俺は取り返しのつかない事をしてしまったか?

目を凝らすと細かい虫や爬虫類が、皆同じようにひっくり返って動かない。

死んではいないはずだろうけれど、大丈夫かな?

――駄目だろう――


「あー、俺、やっちまったかあ?」


エルフの国へ着くまでに、問題などは起こしたくはなかった。

そもそも問題が起きるなんて、思ってもいなかった。

さっきからずーっと変わらない惨状に、目を背けたくなって来る。

もういい!

景色が変わらないので、スピードアップ!

俺の力が及ばなかった地域はどこにある?


現実から逃げるようにがんがん飛んで行くと、川幅が半分くらいになって来る。

川に浮かぶモンスターも、随分少なくなってきた。

周りには岩場もちらほら見える。

実際、この辺には本当に生き物が少ないのだろう。

歩いている生き物もいなければ、ぶっ倒れている生き物も見えない。

空も大地も、静かなままだ。

俺が放った土石素の力も、まだこの辺りくらいまで来たのかな?


おや?


「おっ、悪素持ちの奴、発見!」


悪素があると言う事は、この辺で俺の浄化の力は切れたのだ。

いよいよ俺の力が及ばなかった場所に来たのだろう。

ホッとした。


俺は闇黒素の塊を感じた方へ飛んで行く。



―――――――――――――――



何だろう?

少し飛んだ先、何者かが何者かに追われている様子が視覚に入る。

小汚い恰好をしたモンスターが、同族のモンスターに追いかけられているようだ。


「仲間割れ……かな?仲良くしようぜ」


先程までの自分の事は棚に上げる俺。

だが、本当にこいつら同族か?

見た目は似ているが、前方を走る者には悪素ではなく、水素の力を感じ取る事ができる。

しかも……何だ?追われている奴、ほんの少しだけれど時空間素まで感じるぞ?

時空間素って、相当レアなんじゃなかったっけ?

三つの素体持ち?

それを多数の人数で追い回して……、


「あぁっ、矢で狙われている」


ピュンピュン音を立てて数本の矢が飛んで行く。

何か喚きながら、逃げ惑う追われる者。


「すげえ、アイツ、素体の力で矢を防いでいる」


だが、多勢に無勢。

いくら素体で矢を防いだとしても、隙はある。

足でも射抜かれたか、ゴロンと転がる前者のモンスター。

囲まれる。


長剣を構えた、追われるモンスター。

!?

ハッとしたのは俺の方。

そいつが構えた剣の構え、その構えは一流のモノと見て取れる。


「モンスターなんかじゃないぞ!人だ!人がモンスターに襲われているんだ!」


追われていた人は、長剣を両手に構え、飛びかかる一体をブンと切り伏せた。


「うお、カッコええ!」


黒々とした血液を飛び散らせながら、分断される一体のモンスター。

だが、あっと言う間に取り囲まれた。

人間の方に退路はない。

涎をボタボタ垂らしながら、間合いを詰める数多くのモンスター達。

一斉に襲い掛かろうとしている。


アレ?あの人、このままだと殺られるぞ?

長剣を振り回し、応戦しようと身構える人間。

魔法を使う気配はない。

何気に精一杯のようだ。


取り囲んだ数十体のモンスターが、照らし合わせたように奇声をあげて、一斉に襲い掛かった。


「助ける!」


思うよりも早く行動する俺。


人の上空、数メートルの高さに陣取り、時間素の力で襲いかかるモンスターの動きを止めにかかる。

どの位の力がいいのかいまいち分からないから、徐々に力をかけて行く。

モンスター達の動きを見ながら力をかける。

モンスター達の俊敏な動きがゆっくりとしたモノに変わって、徐々に時間を止めて行く。

これは練習だ!

先程のようは極端な力の使い方は避けないと。


どうだ?上手にいったか?

俺は人間の状態を確かめる。

どうやら人の方まで、時間を止めてしまうといった失敗はしていない。

人間の男は――うおお――と気合を入れた大声をあげ、妙な気配を感じさせる剣をブンと空振り、地面にペタンと転がった。

よーし。

コイツの方に、俺の力は何の干渉もしていない。

少し、自分の力にも慣れて来れたかな?

モンスター達は空中で、ある者は地表で、襲い掛かる姿そのままに、ピタリと止まり動かない。


第一星人を発見し、しかも今度は誰にも被害を与えないで、理想的な形で助けてやることが出来た俺。


「な、何?」


キョロキョロ見渡す人間。

俺は少し得意な気持ちになって、自己紹介をすべく人間の顔の前に舞い降りた。


「ヤバかったな、お前。大丈夫か?」


目をパチクリさせ、状況が呑み込めていない感じの男。

そりゃそうか。


「初めまして、人間。俺、お前を助けた精霊」


俺は取りあえず、助けた人間に自己紹介をした。

本名は名乗らない。

ユーキって言ったって、そのうち俺の名前、変わるんだろう?

普通に精霊でいいやと思う。


それにしてもだ。

俺は茫然とする男をじっくりと観察してみる。

うぇぇ。

よく見るとコイツ、襲ってきた側のモンスターの生皮を身に纏っているみたい。

至近距離で見ると、逃げ出したくなるほどグロく感じる。

狂戦士ベルセルクか?

上で見た時に、どっちもモンスターかと思った訳だ。

話せるのかな?

野獣の気配がプンプンする。

あちゃあ、ヤバげな奴を助けたか?


「精霊……だと?」


目の前の男が絞り出すように声を出した。


「お前が、こいつらを止めたのか?」

「おう。俺がこのモンスター達の活動時間を止めたんだ。お前がヤバそうだったからな」


この男、一応話せたな。

だが実際、俺もヤバいかも知れない。

もしかしたら、かなりヤバい奴を助けてしまったのかも知れない。

どう見てもコイツの格好、ヤバすぎる。


そんな思いを胸に秘め、一応平然と答えてみる。


男は固まったモンスターを避けるようによろよろと立ち上がった。


「助かった?助けられたのか、お前に……俺は死なずに済んだのか……あ、あぁ助かったのか?」

「良かったな、俺が近くにいて」

「お、お前、精霊なのか?」

「そうだろう?こんなナリした人間がいるか?」

「う……いやま、だがよ、お前、男っぽくないか?」

「男だからな」

「……精霊に男がいたのか?知らなかったな」

「え?」

「ん?」

「精霊って男いないの?」

「何言ってる、お前、男なんだろう?」

「……」

「……」


「お前、何だ?お前、本当に精霊か?」

「せ、精霊だっ!お前の命の恩人だろっ!疑うなよ!」

「まぁ、そんな素体の塊で、こんな力の有る奴は精霊しかいねえよな。疑って悪かったよ、精霊さん」

「お、おう。分かれば宜しい」


知らなかった。

精霊の男版って、もしかしていないのか?

コルニアの精霊達も皆女の子だった。

精霊が女の子ばかりだった理由を突っ込んで聞かなかったが、もしかしなくても精霊って女の子しかいないのか?

マズイ、まずいぞ。

俺、その辺の知識全く持っていない。

変な事喋って、ボロを出してもマズイよな。

第一星人は助けられたんだ、ここはズラからせてもらおうか。


「ま、助かって良かったじゃないか。じゃ、気を付けて行けよ」


と、なるべく当たりさわりの無い事を適当に言ってみて、この場を離れようとした。


「ま、待ってくれ、精霊さん」

「な、何?このモンスターの事?このモンスター達ならもうちょっとしたら動き出すんじゃないかな?心配ないと思うよ」

「マジかよっ。こいつら生きてるんか?っていうか、ゴブリンを心配するわけねーだろう」

「ああ、そう」


そりゃあそうか、こいつ命を狙われていたんだもんって、えっ!?ってこれ、ゴブリン?

コレ、このきったないモンスター、ゴブリンだったのか!

うわぁ、生ゴブリン初めて見た。

そうか、そうか、これがゴブリンか。

絶倫で有名なのはゴブリンだったっけ?

ん?それはオークだったっけ?

その辺、少し疎い俺。

棍棒の構えはなっちゃいないが、ボウガンっぽい武器はちょっと怖いな。

おお!こいつらの目は猫の目みたいに縦長のスリット状になっている!

覚えておこう。


「ああ…いやいや、そんな事よりだ、精霊さん。俺を助けてくれたついでにもう一人、いや、二人、助けてほしい奴らがいるんだ。獣族の子供だよ。そいつらも急いで助けてやってくれねーか?」


ん?


「何だって?獣族の子供を助ける?」

「そうだ、獣族のガキだ。あいつ等、死んじゃいねーといいんだが」


おいおい、こいつ、ナニ物騒な事言い出してんだ?

ちょっとまてよ?


「おい、おっさん、あんたなんでこんな大勢のゴブリンに追いかけられていたんだ?」

「ああ、話すよ。何でも話すからあいつら助けてやってくれ。もうギリギリだったんだ。あの子供を助けてくれたら何でも話す。あの子達を助けてやってくれ。頼む!」


そう言うと、俺の目の前のむさい男は、精霊の俺に向かって頭を下げた。



―――――――――――――――




次回サブタイトル予告です。

~命の水~

お楽しみに。

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