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精霊星の物語 ~精霊島の物語~  作者: uki yoe
第二部 ゴブリン迷宮の物語
48/65

第一モンスターとの遭遇

――ゆっくり、飛んで行ってね――


と誰かに言われたわけでもなく、俺はリテラの空をのんびりと飛ぶ。

コルニアの結界を潜り抜けて、目の前に開けた初めて目にする、地球とは異なる星の景色。

海は青く、空は高い。

ここはリテラなのだと思っても、俺が感じるリテラの見た目は、地球の景色と変わらない。

ただやはり、若干空気が薄汚れている。

悪素と呼ばれる、虚無の名残。

命ある物に害をなす悪毒を含む素体。

コルニアにやったように、俺ならこの悪毒を浄化することも可能だろう。

浄化してやりたいな。

浄化したら、もっとこの星は住人にとって、住みやすい星にならないだろうか。


それともそれは、余計なお世話なのだろうか。


人族やエルフ族なら、俺の浄化能力に対してもさして問題はないだろう。

なら、闇族はどうか。

彼らは現在のリテラにある、闇黒素の力を主体に生きると聞いている。

コルニアの四精霊の1人、テネアが司っているコルニアの純粋な闇黒素ではなく、リテラの大気にある悪素を含んだ闇黒素。


あれはコルニアの比較的近くの場所だった。

闇属性を主体とした巨大な力の塊感。

コルニアを出て初めて感じた闇属性の大きな集団、闇黒素の素体。

闇族が多く住んでいるであろう大陸。


相当な数の闇族と呼ばれる種族が生きているのだ。


もし今、この場所で俺がリテラの空気を浄化したとしたらどうなるか。

闇族に近い、この場所で悪素・悪毒を浄化したら、闇族の連中に多大な影響を与えてしまうのではないだろうか。

下手したら、彼らを浄化する?なんて事にもになりかねない。


――俺がリテラに現れたら、闇族は一瞬で滅びました。闇族にとって、それは悪災でした――


なーんて冗談、笑えない。

思いつきで下手をうつような事はやめておこう。


だがしかし、周りを見れば、見渡す限りの大海原。

そんな場所で、空気の汚れを感じてしまうのだから、やはりリテラの大気はコルニアの中よりは随分汚れているのだ。

今、飛んでいるこの場所とは、真逆の場所に位置したエルフの国。

エルフの国に行けば、一本だけではあるが世界樹がある。

そこまでいけば随分空気もきれいになるのだろうな。

ただ、いかんせん海の上でのこの状態、もう少しきれいな空気であってもいいかも知れない。

そんな事をぼんやり思いながら空を飛ぶ。




コルニアを出て、もうどのくらい飛んだだろうか。

何度か編隊を組んで飛んでいる鳥を見かけた。

鳥がいるんだ。

海面には怪獣のように見える生物の陰もあった。

海に生きる相当大きな生物だ。

地球で言う、クジラなんかよりも大きいかも知れない。

怖いからやりすごしたが、奴は俺に気づいていたと思う。

もうちょっとゆっくり飛んでいたらきっと目が合っていた。


俺が見かけた海上の生物はそのくらい。

海に潜ってみれば、もしかしたら多くの生物がいたのかも知れないが、リテラの海上にそれ以外の生物は確認できなかった。


たまに通りすぎる雲の流れが速い。

結構なスピードで飛んでいるのだろうけれど、眼下の海を見ていても自分がどのくらいのスピードで飛んでいるのか、いまいち良くわからない。

遅いかな?

もしかしたらこのペースでの移動だと、エルフの国にたどり着くまでに、数か月ほどかかってしまうかも知れない。

もうちょっとスピードを上げてみよう。

サフィ―に教わった風の流し方に、圧縮空気を加えてみる。


バビューン。


「おー、早くなった」


エコだ、エコ。

俺様エンジン。

素晴らしい。

サフィ先生に見せてあげたい。


さらに思いつきで、空間魔法の力で周りを圧縮して飛んでみる。


ドッカン。


アッと言う間に景色が変わる。

陸が見えた!

俺は慌てて空間魔法の力を解く。


「圧縮魔法は反則だな。これじゃ空間転移とあまり変わらない」


陸が見えると言う事は、この辺りの上空に何かしらの生物が飛んでいてもおかしくない。


「気が付かないうちにリテラの空に飛んでいる生き物を撥ねてしまったりして。注意しないと危ないぞ、これ」




暫く続いた海が終わり、大陸の始まりが見えて来る。

海につながる蛇行しまくりの大河が目を引く。

川幅の広い河だ。

スケール感が半端ない。

いくつもある中洲を含めたら、コルニアがすっぽり入ってしまうんじゃなかろうか。


「でかいなぁ、この川」


河の向こうには赤色の広大な荒野が永遠と広がっている。

ちょこちょこ生えている、緑の木々が救いか。

辺りを見渡しても生き物の気配はない。

大陸から吹く風は、海上の風には感じなかった変な匂いを含んでいる。


「何だろうこの匂い。何か臭いな。この川から匂うのかな?」


俺はおもむろに、海に注がれる川の淵へ降りてみた。

水が汚い。

汚泥に混ざって悪毒を感じる。

このひどい匂いは悪毒のせいなのだろうか。

ん、あれは?

川上よりどんブラコッコと流れて来るもの。

げっ、なんか得体のしれない生物の腐乱死体だ。

ひぇー。

と見ていたら、ゴボンと音をたてて水面から川中へ引き込まれた。


は?何だ?

気になって、水死体が浮かんでいた辺りまで飛んでみる。

川面から様子を伺ってみても、汚泥のせいで何にも見えない。

何だったんだろう。

と思っていたら、

ザバッ!

いきなり触手が飛び出して、クルリと器用に的確に、俺を捉えて絡め取る。


「うわっ!ビックリしたー」


ウネウネとのたうちながら、俺を絞り上げる、赤黒い汚泥にしか見えない触手。


「さっきの死体を引きずり込んだのはコレだったのか?」


触手はどうやら俺までを水の中へ引っ張り込むつもりのようだ。

一本の触手では引き込めないと判断したか、さらに太い触手が伸びてくる。

素体のままの俺を包み込み、川の中へ引き込もうとした動きを見せる、二本の触手。


「おおっ?力比べしよってか?無駄無駄ムダァ。俺を甘く見るなよ。お前の正体確かめてやる」


モンスターっぽいのは分かっていた。

泥で出来た触手なんて真っ当な生き物である訳がない。

カイラルプスの意識体が言っていた。

――相手は向こうからやって来る――と。

今、これがそうなんだな?

――いや違う――


「ふわーははは、ようし、俺の力を試してやろう」


――違うだろう。知らねーゾ――


ヤッテみたい感は止まらない。

この綱引き、どう考えても俺の勝ちは確実だ。

ここはひとつ、リテラ第一モンスター発見の喜びと共に、少しジャレさせてもらおうじゃないの。

俺と触手の地味な綱引き大会。

観客はゼロ。


「よっこいしょー、どっこいしょーっと。どんだけ長いんだコレ、50m以上ないか?」


強すぎる力で、触手をちぎらないように気を遣いながら引っ張り上げて行くと、川中に隠れていた長い触手がゆっくりとその姿をあらわして行く。

さらに引く。

どんどん引く。

ズ、ズズ、ズズズ。

と視覚の片隅で何か大きなモノが動く気配。

ズズズズズ!

エエッ?

中洲が動き出したぁ!


「あっ、あの中洲、この触手の本体かぁ」


そう、それはマンマ見た目、川面からポッコリ残った、他と変わらない普通の中洲だった。

黒々とした、藻のようなものまで生えている。

その陸地がブルブル震え、俺に絡まる触手に引かれて、ズルズルと動き出したのだ。

それはテニスコート二枚分よりもあったろう。


「本体、ドンだけでかいんだよ」


バイオレッドブラウンのもっと黒くした色をさらに濃くしつつ、みるみる膨れ上がる中洲の小島。

辺りを包み込むように、テケリ…リ…テケリ…リと変な音も聞こえてくる。

本体はアメーバのような原形質生物のようだ。

スライム?


「スライムって、もしかしたらこんな感じなのかな?」


俺は某RPGに出てくるスライムを思い出す。

でも俺の知るスライムは、もっとプルンとしていて、ニコって笑っていた様な気がする。

こんな、小島のようにデカくて、本体から見境なく触手なんか出していない。

ズルズルと引き上げ見えてくる、巨大なコールタール状のアメーバ。

すると、アメーバの本体から空気が震え、強烈な音声がほとばしった。

歌の様にも聞こえなくもないが、音の大きさはともかく音程がおかしい。

音痴というか、何だこの音の規則性。


「歌うなら、もっと音程に気を付けろ!」


聞いていると何とも不思議な気持ちになって来る。

下手なくせに、中毒性がある?

聞いていると気持ちいい。

ポワンと言うか、フワンというかとろける感じ?

アレ?

もしかしてこの音、こいつの攻撃か?

精神を狂わす麻薬みたいな効果があるのか?

不協和音の羅列に、規則性のあるリズムと旋律。

これは音属性、音素をはらんだ精神攻撃なのか?

危ねー。

俺じゃなかったら一発で発狂していたかもしれない。


「ウエー、こいつ気色わりー。触手に中毒性の音か、何ちゅう攻撃だよ」


触手攻撃に中毒性。

俺はふと、ファンタジーな大人のエロ漫画を思い出す。

あれは、タフで勇敢なヒロインが、悪の親玉に洗脳されてしまい、伸縮自在な触手を持つ化け物に、前から後ろから折って畳んで裏返し、いいようにいたぶられるシチュエーションの何ともドキュンとくる内容の物語だった。

ピンとしたおっぱいにキュっと触手が絡み、尖った乳首を別の触手が包み込む。

足首から太ももにかけては、性感を高めるが如く、這いずり、動き回る化け物の触手。

体ごと持ち上げられ、ガバァと足を広げられると、ビリリと下着が剥ぎ取られる。

細くしなやかな腕は後ろ手に縛られて、どうする事もできない。

絶体絶命の美少女ヒロイン。

ヒロインの体に、気持ち良くなる薬が投与される。

――やめろ、触るな、とか言いながら、最後は悪堕ち、アハン、アアンと快楽に身をゆだね、触手の化け物の子を孕む――みたいな?

妄想全開、俺、絶好調。


「洗脳攻撃に触手持ちの化け物か……リアルにいるじゃないか。んで、可愛いヒロインはどうした?」


何故ここに女の子がいないのか。

触手に服を破られ、キャーとか言う女の子を助けるシチュ。

してみたかったなあ。

本当に周りに誰もいない?

いないな。

人っ子一人いない。


あ、そうだ。

他に人がいないなら、俺はどうだろう?

テネアやラーンみたいに体を得てみて、自分でこの状況を楽しんでみる?

多分、今の俺が体を得たら、それは見事にマッパなんだろう?

ラーンやテネアのように、小さい妖精さんのような体を得てみる?

見た目で違うのは彼女たちは女。

俺は男。

この状況。

プルンとしたナニを何して、幼い男の子の、ピチピチした体に絡みつく、汚らしい触手。

キャアと叫んでみようかな。

まさかのショタ絵?

さらに今なら精神攻撃つき。

うっわー。

ちょっと試してみよう。


「うん、うん?難しいな。俺、人の形になれないのかな?」


精霊達が姿を得るのに、どんなタイミングだったのか結局分からなかった。

俺にしてもそうか。

そうは問屋が卸さないか。

人型になれる気がしない。

このままエルフの母親になる人を見つけた方がいいのかな。

せっかくのシチュエーションなのに、楽しめないなんて。


ん?

ふと気が付くと、

アメーバ状の化け物に、ゴマみたいな粒々がついている。

何だ?アレ。

と思ったら、俺の周りから羽の生えたフナムシみたいな虫がブンブンと飛んで来る。


「うわわわわ!」


虫だ。

虫がこのモンスターを襲ってる!

どこからともなく、大量の虫が飛んで来る。


「何だ、この虫!このモンスターの悪素を喰っているのか?」


アメーバ状のモンスターのコールタール色が、モリモリと喰われて剥ぎとられている。


「キモイ、うわーキモイ!」


俺はあわてて現場を離れようと動き出す。

触手は俺に絡みついて離れない。

陸の上にズルズルと引きずられるアメーバモンスター。

そこへ、上空から大群となって振ってくる、Gともバッタとも取れる虫。

俺の上まで降ってくる。


「ギィヤァァァァァァー」


Gは駄目。

いや、俺、バッタみたいな虫も駄目になったか?

そんな俺の思いとは裏腹に、モンスターに群がる虫たちの数はどんどん膨れ上がる。

気が付くと辺り一面、虫だらけ。

空も大地も虫だらけ。

赤褐色の大地がモゾモゾ蠢く。

こんな事なら、第一発見モンスターと仲良く遊んでいるんじゃなかった。


「あかーん」


俺は後先考えず、土石素の力を爆発させた。



―――――――――――――――



同日同刻。

モリアティア大陸。

獣族。

ガルニ国 首都バルルカン。

国の長にて獣族の長。

誇り高き獣王、アマン。

王の椅子に腰を掛け、国の未来に思いを馳せる。


コツコツと音を立て、一頭のケンタウロスが寄ってくる。


「やあ、アマン。ここにいたのか」

「突然どうした、珍しい。ここが嫌いなお前が……」


ケンタウロスのジェレイアがアマンに告げる。


「そう言うなよアマン。俺がお前に会いに来るのに、深い理由がなくてはならないと言う事もないだろう」

「おお、もちろんだ。つまらない事を言ったなジェレイア」


ニヤリと微笑みあうアマンとジェレイア。


「いやいや、実のところお前の言ったことは的を得ていてな……俺こそつまらない事を言った。流してくれ。それよりも、今日は本当に大事な事をお前に言いに来たんだよ」

「ふむ。聞こう」


アマンの紳士な対応にコクリとうなずくジェレイア。


「暫く前、お前に報告していた話だが、このところ東方に感じていた不思議な力。それが先ほどはっきりと感じられるようになった。もしかしたらだが、東方に巨大な力をもった命が誕生したかも知れない。私達の希望となる力かも知れない力だ」

「以前にもそんな事を言っていたな。その話の続きか、ジェレイア。それはお前の予言ととっていいのか」


とうに忘れていた話を思い出し、心の友に気を利かせるアマン。


「ああ」

「その力が、我ら獣族の力になると?」

「……馬鹿げてるかな?」


遠い目をし、天を仰ぐ獣王。


「いや、お前がそう言うのなら、そこに夢を見ようじゃないか。その力、我らの物にすればいいのだな?どこへ行けばいい」

「わからん。俺が感じるのは東方。そしてエルフ」

「エルフ?その力はエルフに端を発しているのか?少し面倒だな」


思い出すように記憶を手繰るジェレイア。


「一瞬だがエルフの女が見えた」

「東方、そしてエルフの女か」




誰を遣わそうかと言う話もなく、王は旅の支度をし始める。


「お前が行くつもりか?」

「俺一人で行く」

「まいったな。お前が行くとなると、俺はまた皆に叩かれる」

「俺自身じっとはしてられぬ性分だ。お前もそれを分かって俺に言ったのだろうが。俺も暫く外へ出ていない。今回は随分我慢した。皆は理解してくれるのではないか」


首をすくめる、ケンタウロス。

予想はしていた。

この話を聞いて、大人しくしている友ではない。


「まあ止めはしないよ。今回は俺が発信元でもあるからな。強くは言えんが、供を二人ほど連れて行け、一人より三人である方が都合の良い時もあるだろう」


程なく、選抜される二人の獣族。

セイレーン種、ルディナ。

ワーウルフ種、リュオン。

それぞれに秀でた能力を持つ、若い二人。

目指すは北方、レムルート大陸、人族の国。


そこから東方へ続く森林へと針路を取るのだ。

その場所に、彼らが目指す力を持った者が生まれたらしい。


迫害される獣族の未来を変える為、獣族の置かれる環境の改善を望む為。

二人を共に歩き出す獣王、アマン。

その第一歩の足取りは軽い。

迫害の厳しい獣族の未来の為、これからを生きる一族を路頭に迷わせないため、少なからぬ使命を胸に、三人は歩き始める。



―――――――――――――――



次回サブタイトル予告です。

~出会いの大地~

お楽しみに。

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