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精霊星の物語 ~精霊島の物語~  作者: uki yoe
第二部 ゴブリン迷宮の物語
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星の胎動

ムッとする悪臭を伴ったゴブリンの巣窟。

キースは油断ならぬ気配を漂わせ、腰をかがめながら、ゆっくりと穴倉の中へと入っていく。


そんな彼は今、自身を護るために二種類の素体を身に纏っている。

自身の持つ水属性、水素。

まず、自身の持つ水属性、水素によって出来るだけ厚く体表面を覆い、迷宮内で感じるであろう匂いや足元の毒素に対し、ある程度耐性があるようカバーする。

素体の力を最大限発揮することで、迷宮内に満ちる致死性のある有害物はもちろん、自身が身に纏うゴブリンの皮膚から匂う悪臭も嗅がずに済まそうというのだ。


そしてもう一つ、闇属性、暗黒素。

首から下着の中へ下げている闇黒素の精霊晶によって、松明などの明かりを用いずとも暗闇内を視ることと共に、迷宮内のゴブリン達に違和感を与えないようにしなければならなかった。

ゴブリンは闇属性の生き物である。

水属性を持つ者はまずいない。

もし、マスタークラスのゴブリンに出会ってしまい、闇属性の下に垣間見える水素の力を感じ取られてしまうような事でもあればこの任務は成功しない。

それどころかキース自身の命もない。

それだけは避けなければならなかった。


暗闇に足を踏み入れ、数秒。

穴倉を下って行くキースの前から、一匹のゴブリンが涎を垂らしながら通り過ぎる。

緊張を隠しながら息を止め、それをやり過ごすキース。

異変があればすぐにでも穴倉から飛び出すつもりだ。

足跡が遠ざかるまで、神経を張りつめる。

異変はない。

素体のフィルターを通しているとはいえ、大きな息を吐くわけにはいかない。

どこまで匂いが消されているのか、自分自身ではよく分からない。

呼吸の度に感じるこの嫌な空気感は、素体を通しているとはいえ決して清々しいものではない。

同じように、自分が吐き出す息にもある程度の匂いが含まれている可能性も充分あった。

ゴブリン共に、人間である事を気取られてはならないのだ。

ヘルアントは騙せたが、相手はゴブリン。

用心するに越したことはない。


さらに中へ入り込んでいくと、ゴブリンの住処がゴブリン迷宮と呼ばれる所以が見えて来る。

あらゆる方向に分岐し分かれ、踏み固められた汚い通路に、ブドウの房のような小さな小部屋がポコポコとついている。

行き止まりかと思えばそうでもなく、それぞれの小部屋には、さらに奥へと続く通路が接続しているのだった。

足の踏み入れをためらう空間に、人骨とも、獣骨とも見分けのつかぬ大量の骨が山のようになっている部屋がある。

まだ筋や軟骨などが残っている状態の骨もあり、こびりついた脂の匂いや、もぞもぞと這い回る蛆虫の塊。

ゴブリンが食い捨てた、床に転がるおびただしい、ゴミの山。

もし素面しらふの状態で目にしたとしたら、いくら神経の太いキースであったとしても瞬間的にもよおし、その場にいる事は叶わなかっただろう。

目に染み入るような惨状だ。

それでも行かねばならない。

骨とも、肉とも知らぬ山を踏みしめながら、キースは奥へ入り込む。




30分ほど歩き、ゴブリン迷宮の空気にだいぶ慣れを感じてきたキース。

平然と歩く分には、コブリン共に気づかれる心配はないようだ。

ここはどの辺りになるのだろうか。

目の前の開けた空間に、覚え込んだ迷宮の地図を照らし合わせる。

大空間に出たキースの頭上に数え切れないほどの小部屋が創られ、どうやらその一つ一つに数十から数百の数と言ったゴブリン共が寝ているようだった。

恐らくここはまだ、迷宮の上層部。

ゴブリン達が体を休める居住区の一つだろう。

エルフの姫が寝る台座の間は、さらにさらに下の階層だったはず。

先はまだ長い。


キース険しくなってきた足場をゆっくり確実に降りていく。




暫く行くと、ゾ、ゾ、ゾゾ、ゾゾゾゾゾという音と共に大きなミミズの化け物がこちらを頭に道を塞いで近寄ってくる。

一瞬、逃げた方がいいのかと判断し、あわてて踏みとどまる。

危険の察知に鋭いゴブリンが、こんな虫を放って置いて惰眠を貪っているのだ。

恐らく危険のない生き物なのだろう。

思い直して振り返る。


ドン。

目の前に立ち塞がったゴブリン。

うお!


「ジャマ、ダ」


ゴブリンが後にいる事にまったく気づいていなかった。


「スマン」


慌てて答えた、人間キース。

上手く真似て喋れたか?

冷たい汗が流れ出る。

クンカ、クンカ、と鼻を鳴らし頭を振り振り、ゴブリンが言い放つ。


「オマエ、ダレダ」


その瞬間、キースの動きは早かった。

腕を一振り。

額よりナイフを生やし、絶命するゴブリン。

隠し持つナイフの輝きをゴブリンは目にもしなかった事だろう。

だが、崩れ落ちるコブリンを抱え、キースは溜息をついた。


「やっぱり、喋っちゃダメか。チッ、コイツどうすんだよ」


すると、何を感じたか、後ろでモゾモゾうごいていた先ほどのミミズがキースめがけて動きだす。

急にどうした?

慌てて、ゴブリンを捨て置き、その巨躯から逃れるキース。

ミミズの化け物は大きな触手を口のような所から吐き出し、絶命したゴブリンの前まで来るとクルリと絡め捕り、それがいかにも一連の作業でもあるかのように、ユックリと飲み込んでいく。

キースは知らなかったが、その化け物は迷宮内に生きる共生生物であった。

ゴブリンの食べ残した獲物や、食った後に出されるゴブリンの糞尿。

今回ように、迷宮内で死んだゴブリンの掃除をする時もあるのであろう。

生きた者には手を出さず、土に還る有機物だけを食料とし、ゴブリンと持ちつ持たれつの関係で生きている生き物。

そんな生物がいてもおかしくない。


キースは胸がムカムカするのを抑えつつ、別のルートを下って行く。



―――――――――――――――



「キースは大丈夫でしょうか」


サイル川近く、岩場の陰にキースの帰りを待つエルフの三人。


「信じるしかあるまい」

「マイム様。エルファイム姫は何故、奴をお選びになるのでしょうか。私にはそれが不思議でならないのですが」


マイヤの張る結界の中、デュマはこのところ感じてやまない疑問を口にした。


「分からん」

「我らにとってもそれは謎。何故、あの者なのか、不思議な魅力のある青年ではありましたが……」


マイムとマイヤが理解できぬことに、デュマが分かる訳もない。

手がかりは二人が視たと言う、未来のビジョンしかない。

複雑な思いが湧き上がるデュマ。

マイムとマイヤが嘘を言う理由もないのだが、根拠と言えばこの二人の未来視しかない事も事実なのだ。

この旅に出る間際、ノーンのお偉方が一様に、渋い顔したのを思い出す。


――人間風情がエルファイム姫と所帯を持つなど有り得ない――


――ゴブリン迷宮を攻略出来ない我らを差し置いて、人間一人が入り込み、生きて出てこられる訳ないではないか。姫のお膝元にも辿り着けぬわ――


――いくら貴方様の予言であっても、そのような夢物語、鵜呑みにはできませぬ。人の手を借りると言うのであれば、公という形では我らが民も承服できかねましょう。お二人だけで行くというのなら我らは止めませぬ。お気持ちのまま、ご自由に――


――マイム様、マイヤ様、どうぞ私をお供にお付け下さいませ。不詳デュマ。お二人にどこまでもついて行きます――


――ならん、ならんぞデュマ。行くな、デュマ。死に行くようなものだ、行ってはならぬ……行かないでデュマ、お願いよ、私を置いて行かないで――


「デュマ?」


優しい問いかけにハッと我に返るデュマ。


「お前のノーンでの地位を棒に振らせてしまったな」

「ごめんなさいね、デュマ」

「とんでもございません。私はお二人に御恩があります。その恩は命に代えても返さねばならぬもの。不肖デュマ、最後までお二人の共をさせていただきます」


キッパリと言い放ちマイムとマイヤを見据える。


「ありがとう」

「デュマよ、分からんついでにお前に話していない事を……未来視で我らが見たさらに驚くべき事を伝えおこう」

「はぁ。私の知らない事ですか?」

「マイム、いいのですか?」

「デュマはここまで我らについて来たのだ、今さら何を聞いても驚かんだろう」

「な、何の事でしょう?」


急に不安な顔になるデュマ。

一体何の話が始まるのか。


「実はな」

「はい」

「我らが視た、キースとエルファイムの生活なのだが」

「はい」

「彼らの間には赤子が生まれていたようなのだ」

「……」


耳を疑うマイムの話。


「あ、赤ちゃん?」

「そうだ。仮にもエルフと人間が生活を共にして、子供を授かったという例は限りなく少ない。キース。これを夢物語と片付けるノームの者達に私達が言えたと思うか?」


驚くデュマにマイヤが口を挟む。


「ですが、あの赤子は本当にエルフィの子共だったのでしょうか?」

「ど、どういう事です?エルフの子であれば見た目ですぐ分かるはず。まず、お間違いになる訳が……マイヤ様、何をおっしゃろうと……」

「そう、あれは、あの顔は完全なエルフの子のそれではなかった。何かが違っていた。あれは人の血かも知れない。ハーフとでも呼べるのか?否、それもだたのハーフとは様子が違った。だが、最も驚くべき事はそんな事ではない。我ら兄弟がお前にさえ口をつぐんできた理由は他にある」


顔面蒼白となるデュマ。

人間との間に子供が生まれているという事だけでも驚きだというのに、これ以上の驚きとは一体何があると言うのか。


「エルフィの腕に抱かれているその子を注意深く視ようとした時だ、彼女に抱かれている赤子の目が開き、時を超えて視ていた我らの存在を認識したようなのだ。我らの目と赤子の目が合ったのだ。そう、驚くべき事はあの赤子、あの状態にして我らを認識し、逆に我らを観察していたようだった。不思議な感動を覚えたよ。我らを認めた、あの時のあの赤子の目の色、あの色は我らの知る瞳の色では無かった。あれは…あれではまるで伝説の……ム?」


ドクン。


マイムが話しを続けようとした、まさにその時。

三人は同時に異変を感じた。

グニャリと大気が揺れる気配。

グラリと大地が揺れる気配。


大荒野に異変が起きようとしている?

次の瞬間、彼らは見た。

大荒野に生じた大気の壁が、遠くあちらからこちらへ、目に見えぬ大きな力に払われるかの如く、雲を払い退けて近づく様を。

マズイと思う間もなく、その壁のような力が、音もなく一瞬にして彼らの結界をも貫いて行く。

あまりの出来事に、何が起きたのか分からない。

大気の壁が結界をも貫き通ってしまった事実に驚くエルフの三人。

お互いに顔を見合わせ、ふと気づく。

自分の体に備わった素体の力が溢れ出るほどにみなぎっている。

一体何が起こったのか。

エルフの国、エルファイム小国を遥かに離れた最果ての荒野にて、彼らは感じた。

この荒野のどこかで近くで目覚めた大きな力、その力が、母なる大地と彼らの素体に、駆け抜けるような大きな衝撃を与えた事を。


「今のは何だったのでしょう?」

「素体力が増しています。何者かの力に結界を潜り抜けられたと言うのに、この力は一体」

「二人とも、油断をするな。この大気の気配、先ほどまでのモノではないぞ。まるで我らがエルファイムにある世界樹の真下にいるようだ。何だ、この気配は。一体何が起こっている」


ほどなく、大地は異様な静けさに包まれる。



―――――――――――――――




次回サブタイトル予告です。

~脱出~

お楽しみに。

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