男の動機
「はあ、はあ……はあ、はあっ」
1人の人間が荒野を走る。
むさい男が荒野を走る。
追われている。
その男は鈍く光る長剣を片手に、獣毛に覆われた袋を肩から下げ、群れをなして襲いかかるゴブリンの襲撃から、一目散に逃れようとしていた。
生まれてこのかた、これ以上ないと思えるほどの根性出して、ただひたすら一目散に、ひいこらさっさと逃げていたのだ。
旅の共に連れてきた愛馬、コニーはもういない。
無残にも、男の目の前でゴブリン達の歯牙にかかって、倒れて逝った。
ヒュッ、
ヒュゥ、
ヒュン。
男の頬をかすめて、小汚い矢が飛んで来る。
当たればただでは済まない、鋭くとがった矢。
カッ、コッと立木に刺さる矢が見える。
ビィンと大地に弾く音。
ゴブリンが放った、非情の矢。
男の命を狙ってる。
「はあ、あっぶねぇ。こんなところで、死んでたまるか」
反撃してやろうと振り返りそうになって、聞こえ来るゴブリン達の怒号の気配に、そんな余裕がない事を思い知る。
この走る足を止めてしまったら、ゴブリンの放つクロスボウの恰好の的となってしまうだろう。
男の持っている武器と言えば、右手にある一本の剣と、懐にある数本の投げナイフくらいなものなのだ。
こんな装備で人間を食い物としか見ていない、20体はいるであろう、ゴブリン達とやり合える訳がない。
「くっそう、あのジジイ。どうしてこうなった。はあ、はあ……恨むぞ、クソババア」
―――――――――――――――
クソ爺とクソ婆。
彼らと出会ったのは、今より一週間ほど前の事。
その日、男はギルドから受けた仕事の報酬をたんまりと貰い受け、いつもにもましてご機嫌だった。
そして、一杯よろしく酒場の女とイチャイチャしようと思っていたところ――リラルディ家の者よ――と身なりの良い、三人のエルフに呼び止められたのだ。
「悪ぃな。今日の俺はもう、仕事の話は聞きたくねぇんだ。他を当たってくれ」
「探しました、キース・リラルディ。かのグール王を封印した勇士の末裔よ。何故このような所にいるのです。お前の家は仮にも男爵の位がおありでしょう。没落しつつあるとはいえ、このような場所でくだを巻いていられるほど、大層な立場ではありますまいに」
揶揄するような問いかけに、男は顔を曇らせる。
「あ?何だお前ら、俺にケンカ売ってんの?」
「素行もよろしくない、こんな者が本当にエルファイムの封印を解くと言うのか」
初めに口を開いた者とは別の声が口を挟む。
だがキースと呼ばれた人間は、そのエルフの言い放った、エルファイムという言葉に反応した。
「エルファイム?聞き捨てならねえな。お前らの国がどうした」
「……」
エルフの住まう国、エルファイム小国。
その国名を知らぬものは誰もいない。
誇り高きエルフ族。
そのエルフが後生大事に育て奉る、巨大な聖樹がその大地に根を張る国。
世界でただ一本、奇跡の樹。
世界樹がそびえ立つ、北西の小国。
輝きの宮『ノーン』と世界樹『ユグドラシル』を抱え込む、エルフの為にのみ存在する楽園郷。
王アグロンと女王モノカリスが治めし、エルフの小国エルファイム。
「何だ?お前らの国に、都合の悪い封印でもかけられたって言うのかよ」
「黙れっ下郎!マイム様、この者ではありません。この様な下衆な者がエルファイム様の封印を解かれるとは、私には到底思えませぬ」
「残念ながら、この者なのだよ。デュマ」
「本人ですよ」
「マイヤ様……マイム様、やはり、間違いないのですか?」
「間違いありません。この者です」
男の前に現れた、三人のエルフ。
一人はまだ青年としか見えぬ、デュマと呼ばれた若い男のエルフ。
そして、マイム、マイヤと呼ばれた、男と女の年老いたエルフ。
年を取っているとはいえ、年を重ねるごとにその力を増してくエルフ族である。
彼らの人を見つめる眼光は千年氷を貫くがごとくに鋭く、そしてまた、隙は見当たらない。
――マイムそれにマイヤだと?
この若いエルフ、こっちの年寄共をマイム、マイヤと呼んだな。
まさか、本物?の訳ねえよな。
デュマと呼ばれたエルフがキースと呼ばれた男の方へ歩み出る。
「冒険者、キース・リラルディ。私の名はデュマ。ノーン宮で占術を行っている者だ。こちらの方はマイム様。そしてこちらはマイヤ様。このお二方の事はお前も名前ぐらいは知っていよう。200年前に起きた大戦時における十二勇士のお二人だ」
「……おいおい、馬鹿かお前、寝言は寝て言え。マイムマイヤってのは二人じゃねぇだろうが。お前らみたいにマイムとマイヤがそれぞれいたんじゃあ、十三勇士になっちまう。エルフの冗談たぁキツイゼ。酒のつまみにもなりゃしねえ。人の名前勝手に調べやがって、付き合っていられるかよ。おら、そこをどけ」
そう言って、おし通るキース・リラルディ。
「お待ちなさい。キース」
「何だ婆あ、お前ら頭の固いエルフが俺に何の用がある。人選を間違えるな」
「貴様っ、黙っていれば、我らを愚弄しおって、ここにおられる方は、かの大戦の英雄なるぞ!」
スラリとその腰から抜かれる一本の刀剣。
ピリリとした緊張が、横丁の狭い路地を支配する。
「やめないかっ、デュマ」
「デュマ、剣を納めなさい。貴方が先に剣を抜いてどうするのです」
「しかし、この男は……」
「それでも、その男にエルファイムの未来がかかっていること忘れたか」
険のある顔をハッとさせ、抜いてしまった剣をあわてて鞘へと戻すエルフの若者デュマ。
「申し訳ありません。マイム様、マイヤ様。お許しください」
「おい……謝るのはまず先に俺の方へだろう。人の顔へ物騒なモノを向けやがって」
「喋るな下郎。口のきき方に気をつけろ、キース・リラルディ。お前のその舌を掻き切って、オークのエサにしてやってもいいんだぞ」
「なにぃ」
「やめないか、デュマ。お前はこの場をどうしたいのだ、私達をがっかりさせるでない」
「は、申し訳ありません」
エルフの三人は改めてキースに向き直ると、キースに告げる。
「キース・リラルディ、簡潔に申そう。我らの姫を救っていただきたい。これから申す話を聞いてくれぬか」
―――――――――――――――
20代後半に見える人間の男。
キースと呼ばれる冒険者の寝泊りする宿へと場所を変え、話しの続きをし始める人間とエルフの三人。
キースの顔には、先ほどまでの緩んだ気配は感じない。
寝る為の質素なベッドに簡易なテーブル。
この小さな宿部屋に、かつての大戦時において大いなる功績をあげた、その名も名高い、予言者マイムマイヤがいようとは誰も思わない事だろう。
「まさか、十二勇士が十三勇士の間違いだったとはな」
キースは自身の持つ水属性の力を発現させ、簡単な詠唱をする。
と、四つに用意されたカップには、見る間に水が溢れだす。
その一つを手に取り、荒々しくあおると、エルフ達に残りの三つを勧めていた。
「毒は入ってねえよ」
「めずらしい。お前は人であるのに水属性の素体を持っているのか」
「ああ、これのおかげで、俺は一人でも生きて行けるんだ」
「マイム様、もしやこの水属性がエルファイム様の封印を?」
「それは違うだろう。封印とは水属性で創られるものではあるまい」
「はい。封印は空間魔法の属性であるはずです」
「そうだ。そうであるならば、この水属性とエルファイムとの関係性は、まずないと思ってよい」
ピクリと眉を動かし、キースが不思議そうな顔をする。
「おい、さっきも言っていたな。エルファイムってのはお前らの国の名前だろう?国に封印とか姫を助けろとか、一体、俺に何の話を聞かせたいんだ?」
年季の入ったエルフが、鋭い眼光をキースへ寄せる。
「我ら兄妹に、未来視の能力があるという事を知っているか」
「あんたらが俺の知るマイムマイヤなら、時間の操作が出来るらしい。ならば、未来の透視だって出来るだろう」
「我らが視えるのは今より少し先の未来にすぎない。だが、この力で先の大戦ではこちら側の勝利を導いた」
その力は本物か。
「それで?」
「我らは視たのだ。お前の生家。リラルディの屋敷内でお前が姫と共に生きる姿を……仲睦まじく生きる、姫とお前を間違いようもなく、我らは視たのだ」
キースは手にしたカップをテーブルに置きつつ溜息を吐いた。
「ないな。それは無い。俺がリラルディのあの家へ戻る事はありえない。どう転んでもありえねぇな」
「我らの未来視に間違いはありません」
「無いと言っているだろう!」
「聞け、キース。お前は十二勇士の事をどの程度知っている?我が一人ではなく、二人であった事が周知の事実で無かったように、お前の知らない事実があるとすれば、お前はどう思う」
「いちいち人の腹ん中を探るな。結論があるならさっさと言え」
「かの大戦時、我らエルフ側から三人の勇士が選抜された」
「人族から三人。エルフ族から三人。ドワーフ族から三人。そして、獣族から三人だ」
「そのくらい、知っている」
「そのうち、生き残った者はドワーフ一人とエルフの二人のみである……それも知っているな?」
「ガキでも知っている」
「だが、エルフにもう一人の生き残りがいたと言う事実、お前は知るまい」
「何?」
ゴクリとキースの喉が鳴る。
十二勇士のパーティに生き残ったのはわずか三人。
それは周知の事実だった。
「馬鹿な!エルフの三人目が生き残っていただと?」
「そうだ!世間的にはこの事実は知らされていない。この事を知る者は我らの王、そして当時生き残った私達マイムマイヤとモノカリス、ドワーフのダノガンだけだ」
「お聞きなさい、キース・リラルディ。お前に関係する事です。私達が視た未来に、当時の私達の仲間、公表されていない三人目の生き残り、エルファイム姫がお前と生活を共にしている姿があったのです」
伝説上のエルフ。
エルファイム。
エルフとして生を受けた者として、最高の力を持っていると言われている姫。
だが、その名はあっても、人族にその姿を見たという記録はない。
それは子供達の物語に出てくる、架空の存在。
「エルフの三番目は、確かエルフィという名前だった」
「姫の事だ」
「……そのお姫様が生きていて、俺と一緒に、俺の実家で生活を共にしているだと?」
「そうだ。お前さんにとっては突拍子もない話しだろうがな」
「待てよ。仮に今の話を100歩譲ったとしてだ。その姫様ってのはいったい何歳だ?国を救った勇士本人だとしてもだな、この俺が婆あと生活を共にするなんて有りえねえぞ。突拍子がないどころか、俺的には決して有りえねえ話って訳だ。これでも俺は面食いでな。女の顔と体にはうるせえんだよ」
ドヤ顔で、女の好みを宣言するキース。
「下衆め」
「黙ってろ三下」
「く、お前のような男が我らが聖姫の伴侶になるなど、俺は到底認めんぞ。マイム様、マイヤ様、帰りましょう。ここにいても時間の無駄です。僭越ながら今回ばかりは、お二人の透視にお間違いがあったのではないかと思われます。このような男が我らエルフの悲願を達成する事などあり得ません」
若い二人の視線に緊張感が漂うと、マイヤはおもむろに空間魔法の詠唱をし始めた。
「キース、ごらんなさい。この姿が現在のエルファイムの姿です」
そこに映し出される、美しい一人のエルフ。
つい、いましがた眠りについたかのように、石の台座に横たわる一人の女。
思わず、ハッとする美しさ。
その姿は絶世の美女とも呼べるかもしれない。
深い緑とも、緑がかった藍色とも見て取れる、凛然と輝く髪の毛は短く切り揃えられ、身に着けている防具は、それが防具であると見て取れるにもかかわらず、透き通った彼女の白い肌をより一層引き立てる役目を果たしている。
だがその場所は明らかに、尋常ならざる場所であるようだった。
その美しきエルフが横たわる周りには、対比するかのごとく、蛆や虫を体に這わせた汚らしいゴブリンが、夥しいほど跋扈する。
恐らくそこは、ゴブリンの住処、そのまっただ中なのだ。
美しきエルフの姫君を取り巻く、数え切れぬほどの醜いゴブリン。
ゴブリンゾンビもいやがりやがる。
キースはゾッとした思いで、その映像を眺めた。
ゴブリン。
生きとし生けるもの、その全てを喰らわんとする習性をもつ、汚らしい闇族の一種。
ゴブリンにかどわかされる人間の女、子供は後を絶たない。
冒険者ギルドのランカーは、ゴブリンの討伐が出来て、初めて一人前とも言われるが、ゴブリンとて、タダで死んでくれるほどヤワな種族ではない。
ゴブリン達の主力武器、クロスボウを改良した独自の矢は、これまでもキースの仲間の多くを亡き者にしてきた。
昔の仲間がその矢に撃ち抜かれ、頭を叩き潰されていく映像を脳裏に思い出しながら、キースはこの女の事を考える。
映しだされるその場所は恐らく、テルゲアへ続く大荒野の一角、ゴブリン迷宮の只中だ。
その中にいて、何故、この美しき女は喰われずにその姿を保っていられるのか。
「この方こそ我らが聖姫、エルファイム姫。かの大戦時において、グール側の戦略によって封印されてしまった。我らエルフ小国の名をその身に宿される、史上最高の素体力を持たれたハイエルフ。エルファイム姫その人だ」
キースは力説するデュマの声を聞きながら、伝説の十二勇士、エルフィの呼び名に馴染のあったエルファイムの姿に魅せられる。
「封印されているって?200年も前からか」
「そう。彼女は私と共に戦場へ行った。最高の戦士だった、だが、我々がグール王を封印している間に、彼女自身も封印されてしまったのようなのだ。気が付いたときには後の祭り、我々はあの台座に結界を張り、あの場を離脱することしか出来なかった。連れて帰れるほどの力は、我らに残っていなかった」
「封印されたままの彼女は死んだと同じ……そうして、彼女は大戦を勝利へと導いた勇士の一人として、命を落とした他の勇士と同じように、死んだと言う事にされたのです。私達は極秘裏に彼女の奪還を画策して来ました。数度となく、ゴブリンの巣へと遠征に出ました。しかし、封印を解くどころか、あの場所に辿り着く事さえ出来なかった」
「マイヤ様……」
言われてみれば子供の頃、エルフの一団がテルゲアへ続く大荒野へ兵を進めたと、風の噂で聞いたことがあったかも知れない。
キースはそんな事を思い出しながら、デュマがマイヤをいたわる姿を見て、ふと思いついたように皮袋を手元に寄せた。
その皮袋から色のついた粉末を取り出し、何をするのかといぶかしがるエルフ達を前に、先に勧めておいた水を湛えたままのカップにサラリと混ぜ入れ、マイヤへと差し出した。
「俺のオリジナルだ。甘くしてある。落ち着くから飲んでみろ」
「そんな胡散臭いものを……」
「ありがとう。気が利くのね、キース」
「ふん」
コクリと一口飲んだあと、目を丸くして口元へ手をやったマイヤが驚きの声をあげた。
「これは!」
「マイヤ様!」
「美味しい!キース。貴方、これは何を入れたの?」
「企業秘密だって訳でもないけどな。俺の自信作だ。詮索するな」
「見かけによらず繊細なのね。こんな飲み物、普通の感覚で生きていたのでは創れるものではないわ」
「ほっとけよ」
横をプイッとむいて、照れた顔を見せまいとするキース。
その意外な姿に、何だコイツと言わんばかりの視線を送るエルフの若者。
――マイヤ様、お体に異変は?……
と言うデュマの声を傍らに聴きながら、年老いた男の方のエルフ、マイムは問うた。
「キース。お前が知るところの十二勇士が一人、エルフ族のエルフィ。この娘、この封印された娘を見てお前はどう思う」
「……どう、と言われてもな」
「未来視に間違いがなければ、お前は近いうちにエルファイムの封印を解き、リラルディの館で共に生活を始めるの事になるのだが……何故かは聞くな。我々にも分からん」
「私達は貴方が、貴方の屋敷にいるものだとばかり思っていました。それがまさか家を出て一人で生きているなどと……この流れは私達にとっても意外でした」
「んぁ?俺の実家へも行っているのか?」
「行ってきたぞ。お前は屋敷にいるものとばかり思っていたからな。だが考えてみれば、エルファイムと共に暮らすお前は、現在のお前ではなかったろう。一人で生きている今のお前の姿ではない。エルファイムの封印が解けた後日のお前だったと解釈すれば納得もいった。我らは自分の未来視に自信がある……どうだキース。お前にとってこの女は目に適う者ではなかったか?」
そう問われて、キースは戸惑った。
目の前に映し出される、美しきエルフの女。
マイムがこの娘と呼ぶ、エルファイム。
「好みかどうか問われたら、ドンピシャのど真ん中だ。こんな女がいたんだな」
「姫は封印されているだけだ。過去形にするな」
デュマの厳しい突っ込みを意に介さず、エルファイムの姿を眺めるキース。
「……今も尚、生きていると言う訳か」
「そうです。封印され、貴方に出会うのを待っているのかも知れません」
「俺との出会いを待っている?」
「少なくとも、彼女と出会い、共に生きて行くのは我々ではなくお前なのだ。キース・リラルディ」
三人のエルフに見つめられ、答えに窮する一人の男。
「私たちは正規の探索隊ではない」
そう言いながら、予言者マイムは折り畳んであった、なめし皮に記されるゴブリン迷宮の地図をキースの前へ広げて見せる。
「これは?」
「迷宮の地図だ」
「過去、数度の探索で書き足されていったゴブリン迷宮の地図です。貴方にはこの場所へ行っていただきたい。貴方であればエルフィを連れて、生きて帰って来られるはず」
そういいながら、地図のある一点を指さすマイヤ。
「きっと貴方ならこの場所まで、辿り着けるのではないでしょうか。この地図が助けになれば良いのですが」
「マイヤ様!この地図は原本ではありませんか。この地図を渡してしまうおつもりですか?この男の所属するギルドとやらへ売り飛ばされる事にでもなったら、いくらお二人でも取り返しがつかぬことに……」
「時は来たれりだ、デュマ」
「その通り。何かしら大きな、時代の流れが変わるような、大きなうねりを感じます」
「デュマ、これは予言者マイムマイヤの予言でもある。今、この時、本日の我らの行動に間違いはない。自信を持て。そしてキース。エルフィの救出は、我々エルフが行っても決して叶うものではない。人であるお前が今この時に動き始めて、ようやく叶うものなのだ。お前が姫の救出に行動を起こせば、何かが変わってくるだろう。予言者マイムマイヤの名にかけて、エルフなりのやり方ではあるが、お前の望む出来る限りの謝礼は用意する。大荒野へ行き、エルファイムを助け出してはくれぬだろうか」
思案にふけるキースの顔が、つと上がる。
「謝礼か」
「それ相応の報酬は用意させよう」
「報酬……」
「我らに出来る礼であれば、可能な限り用意しよう」
「それがエルフの至宝でも?」
「構わぬ」
「マイム様、その様な約束は……」
「ならばこの女、エルファイムを貰い受けよう」
「なっ!バカなっ」
「よかろう」
「つじつまが合ってきます」
「ちょっ、あのっ!お二人共、正気ですか?この下郎、言うに事欠いて我らの姫君を……も、貰い受けるとか……」
「お前らの口車に乗ってみる訳じゃないが、この女。もし本当に、俺の事を待っているのだとしたら、会いに行ってやろうじゃねえか」
「おいっ!キサマッ!」
「俺もそろそろ30だ。ここのところ、所帯ってものを考えない訳でもなかったからな。女の尻を求めてゴブリン迷宮の探索たぁ俺らしくてちょうどいい。報酬はこの女だ、この女がいい。マイムマイヤ、前金をいくらかよこせ。大荒野のゴブリン迷宮、明日にでも発ってやる」
エルフの若者、デュマの怒号を宿場に響かせ、夜は耽る。
一夜明け、キースは装備を確認すると、久しく慣れ親しんだ宿屋を後に馬場へと出向く。
早朝とはいえ、この町に住む女達は水汲みや洗濯、朝食などの家事仕事に追われ、男達は商業ギルドへ出向いたり、商店の門を開くなどの準備に忙しい。
町へとやって来る商人や、冒険者達のエネルギーによっても、町には活気は注がれる。
今を真剣に生きる人々の生の声。
彼らの瞳の輝きが、この町の豊かさの象徴だ。
キースはそんな町の匂いを楽しみながら、旅に必要な道具を一式補充しつつ、愛馬を引き引き、町はずれに立つ三人のエルフと合流する。
目指すはゴブリン迷宮。
エルフの姫君、エルファイムが眠りし台座の間。
―――――――――――――――
次回サブタイトル予告です。
~旅の行方~
お楽しみに。




