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精霊星の物語 ~精霊島の物語~  作者: uki yoe
第一部 精霊島の物語
40/65

力の継承

子供の様に泣いた俺。

べそつき後、1度しゃくりあげたら気分が落ち着いた。


しん、とした静寂に包まれる時空間回廊。

俺はうなだれたまま、泣きべそ顔をゆっくりと上げ、カイラルプスの意識体と目を合わす。

カイラルプスは当然であるかのように其処にいた。

時空間回廊に変化はない。


思い起こされる楽しきコルニアの日々。


俺はあの日、思いがけずコルニアへ来た。

精霊と出会い、龍の背に乗り、世界樹林の足元まで行った。

パパと呼ばれ、王と呼ばれ、時間の遡行そこうまで行った。

そして俺は今まさに、生まれ育った環境、故郷日本へ帰ろうとしている。


この流れ。

これでいいのか?

逆行しているんじゃないのか?

俺を止めなくていいのか?

なあ、カイラルプス。


「俺はどうしたらいいんだ」


俺はカイラルプスの目線を外し、小さく呟きながら、涙を拭き拭き、鼻水をズッとすする。


カイラルプスの話を聞いて、思わず泣いてしまった。

こんな顔、サフィ達には見せられない。

見られたら最後、何を言われるか分からない。

――泣きべそユーキ――

――鼻垂れユーキ――

――お顔の崩れたユーキ。お鼻拭きますよーハイ、チ~ン――

全部サフィだよ、コレ。

キィィ、言わせておけばぁ。

いや、今はそんな事どうでもいい。

俺の顔なんてもともと大した顔じゃない。


それより、今後、今後の事だ。

このまま帰って良いのか否か。


俺は望まれてコルニアへ来ていた。

それも、俺でなくてはならなかったと、この意識体は言った。

じゃあ、俺はこの後の行動をどうとればいいのだろう。

このまま日本へさようならと、大手を振って帰っていい流れであろうとは、到底思えない。


だが……。


「俺はこの星に生を受けた者じゃないんだぞ」


このまま日本へ帰ったとしても、誰が俺の非難をしよう。

誰が俺を中傷しようか。

誰もいまい。

仮にいたと仮定しよう。

いたとして、このままの流れでバイバイと日本へ帰ったところで、リテラから恨まれるような筋合いは俺には無いのだ。

だがしかし……。

俺は望まれて、切望されてコルニアへ来た。


「精霊王としての俺の存在は、リテラに望まれている……」

「ええ、そうですね。リテラに貴方を望まない未来はありません」

「そうなんですよね。それはもう、とても良く分かりました……と思います」

「コルニアの大地、そしてこの星リテラは王の力を必要としています。悪素の蔓延はリテラ本来の姿ではないのです。星は世界樹を必要としています。世界樹は精霊王の力がなければ管理出来ません。これから生まれ来るであろう世界樹も、貴方を必要としているのです」

「ええ、だいたいわかりました。理解したつもりです。でも、でもですよ……俺は、くどいんですけど俺はリテラの人間じゃないんです。俺にだって、向こうでの生活があるんです。俺にだって家族や友人、やりたい事やしてみたい事。向こうでの生活でやり残している事。やらなければならない事があるんです。俺は……恥ずかしくない人生を送りたい。俺の家族に、病気で死んだ家族に……俺を支えてくれた家族に、顔向けできない人生は送りたくないんです。胸を張って生きていく道を選んで行たいんです。自分で自分の道を切り開いて行く、まっとうな人生を生き抜きたいんです」

「どうしても、貴方の世界へ戻らなければならないのですね?」

「はい……そうです」


俺はどうしても日本へ帰りたい…はずだ。

理由がある。

俺はカイラルプスの意識体へ語りだす。

その理由。


妹の事。



決して忘れてはいけない事。


俺には5歳離れた妹がいた。

病気で死んだ家族。

俺の妹。

可愛いかった妹。

生きたくとも生きられなかった俺の妹。

血を吐きながら、苦しみぬいて、好きな物も食べられず、やせ細って死んだ俺の妹。

血を吐き傷つき、それでも尚生きようとした俺の妹。

生きる事が叶わなかった俺の妹。

苦しみぬいて……死んだ、俺のたった1人の妹。


俺は神を呪った。

世界を呪った。


彼女が死んだ時、俺は誓った。

俺が死んで、もし再び出会う事があるのなら、笑顔で再び出会えるよう精一杯生きてやると。

彼女に顔向けの出来ない、後ろめたい人生は送らないと。

妹に再び出会う時、決して恥ずかしくない人生を送ってやると。

彼女が生きられなかった、その分の人生を真剣に生き抜いてみせると。

いつか再び出会った時に――お兄ちゃん頑張ったね――って言われるような兄貴でいたいと。


その時まで、俺は勉強なんてしたことが無かった。

それまでは他人に迷惑を掛けてばかりの人生だった。

ずーっと、怠惰な後ろ向き人生だった。

自分に誇れる事なんて何もない。

それまでは自分を取り巻く環境の事なんて、どうでもいいと思っていた。

自分の人生なんて、妹の金魚のフンくらいにしか思っていなかった。


死ねばそれまで、何も残らない。

妹が生きていた証は、俺の中にしか、家族の中にしか残らない。


失って、初めて気が付いた。

ならば、俺は生きてやる。

腐りきった駄目兄貴の人間が変われば、お前を愛した証拠にならないか?

お前がどれほど立派な人間だったか、俺が生きる姿で実証出来ないか?

ダメ人間が立派な人間に生まれ変わるのだ。

それが俺の、俺なりの世界への反逆にならないか?

駄目な人間が妹の死をきっかけに真人間に変わるのだ。

悲しいな。

だが、それこそが俺なりのこの不条理な世界への主張となる。

見ていろ妹よ。

この俺を見ていろ。

そして誇れ。

俺はそういう人間になってやる。


そうして俺は、生まれて初めて勉強をした。

妹の生きようとした、彼女の頑張る姿を見たからだ。

俺は俺の人生をしっかりと生きて行かなければと思った。

精一杯に気を張って、一所懸命、一生懸命生きたのだ。

――ちょっと無理していたな――

だからこそ、いつの間にか俺の存在理由になっていた仲間の一言に、打ちひしがれたりもしたのだ。

――脆かったな――

弱かったからこそ、再生を期して1人、森の中をさまよったのだ。

――いい、経験だ…いい経験にしろよ――


そうだ。

あの経験も糧になる。

踏み越えて行かねば。

全ては俺自身の為に。

俺、自身の心の糧にして。




そしてその、素直なその思いをカイラルプスの意識体へと告げる俺。


「だからこそ今、俺は帰ろうとしていたんです。再出発を心に決めて……自分自身の人生を歩むために。こいつらのいるコルニアから、心を鬼にして帰ろうとしていたんです」




固まった精霊達を前に、迷いに迷う俺の心。


人には人の人生がある。

その人に合った人生がある。

俺はそう思う。


コルニア、そして、リテラの事も出来るものなら、なんとかしてやりたい。

俺が日本へ戻る事でコルニアが、滅亡への道へと進むというのであれば……それはそれで、何とか阻止してやりたい。

だが、俺には日本での人生があるはずだ。

日本には俺の両親や死んだ妹が待っている。


俺に合った人生とはどっちなんだ?


再びこの回廊を使ってコルニアへ舞い戻るなんて事は出来ないのか?

そもそも、俺のこの力は地球では本当に消えてなくなってしまうのか?

どこか、宇宙空間へ行った気になれば、何でも出来てしまうような気もする。

時空間魔法を駆使すれば、日本でも黄金則の維持は可能なのではないだろうか。




「貴方は既に、精霊王の力の継承を一つ、済ませています」


カイラルプスの意識体が、俺の複雑な思いを払いのけるかのように語りかける。

何を言った?この意識体。

――継承が……済んでいるとか――


「はあ?何ですって?王の力の継承が、済んでいる?」

「はい。私の創った精霊晶、あの中には私が5つに分けた内の1つが封じられていました。貴方が私の精霊晶に触れた瞬間、次代の王へ受け継がれるべき精霊王の力が、間違いなく貴方に継承されました。コルニア全土を浄化した貴方の力は、精霊王の力の1部に間違いありません。私が貴方の中に入った瞬間、力の継承は起こったのです……あの伝承は間違いではありませんでした……私は死して尚、次代の王への力の継承を果たす事が叶ったのです」

「……」


驚きすぎて言葉が出ない。


バビが生まれる前と後とでの自分でも首をかしげるほどの能力の差。

何かのスイッチが入ったかのような俺の変わりよう。

あの時に、もう既に継承がされていたなんて。

俺の力は既に精霊王の力の一部を継承し、身に着けてしまっていたのか。

力を引き継いでいたからこその、力の爆発だったのか。


ああ、ならば俺はもう日本に帰れないではないか。

体から力が抜けそうになる。

精霊を束ねる為に生まれ来る星の意志。

世代を超えて、次の王へと引き継がれて行くこの力。

先代王から、リレーのバトンを引き継ぐかの如く受け渡されるこの力。

遠い遠い、遥かに遠い、さらなる昔の時代より引き継がれて来た強大な力。

その一部が既に俺の体に取り込まれている現実。


「カイラルプスの意識体さん。じゃあさ、この状況。俺もう既に、自分の星に帰れなくなってしまっているんじゃないですか?帰ったら歴代の王様達が俺の事、追いかけて来るんじゃないですか?」


絶望とも観念とも取れる感覚が俺を襲う。


「ははははは、ははは…………」

!?

「ははは、じゃないですよ。何笑ってんですか。俺は真剣なんですよ!」


何だ?この意識体、この状況で笑いやがった。


「すみません。この対話があまりに愉しいものですから、つい……」

「ついって!!――対話が愉しい――か……ああ……あ、いえっ、俺にはまったくその気持ちは分かりませんね!俺的にはまったく笑えない状況なんです。俺の気持ちも考えてくださいよ。このまま日本へ帰りたい気持ちと、コルニアに残りたい気持ちと、俺の気持ちは今、凄い事になっているんだから」

「ええ、ユーキ。異世界の人。私達の事を思ってくれてありがとう。」


――分かりませんね――とか言いながら、なんとなくカイラルプスの気持ちが分かってしまった俺。

どういたしまして、これでもカイラルプスの意識体が少しでも心安らかになるのなら嬉しいなと思っているんだ。

これでも気を使っているんだよ。

でも、もう疲れてきたな。

全部投げ出したい気分になって来る。

元来、めんどくさがり屋の俺。


「もし、許されるのであれば、私に一つの提案があるのですが、聞いていただけないでしょうか」


カイラルプスの意識体は嬉しそうに話を続ける。

提案?この状況を打破させる何かがあるのか?


「何です?何かあるんですか?あるなら勿体ぶらずに言ってください」

「はい。これから話す事はあくまでも提案です。強制ではありません。それを踏まえて聞いてください。その上で冷静な判断をしていただきたい。宜しいでしょうか?」


何やら含みのある言い回し。

何かしらのリスクがある提案なのか。

しかし、今は聞く事以外、俺に選択の余地はない。


「意識体さん。俺はもう貴方の言う事を聞くしかないんです。何でも聞きます。聞かせてください」


そう答えるとカイラルプスの意識体はニコリと小さく微笑んだ。


「貴方は既に精霊王の力の継承を済ませています」

「はい」


きっとそれは間違いないのだろう。

知らないうちに、力の継承は済まされていたのだ。


「その力。黄金則のその素体力をこの星に生きる生命に、転生させてやってはいただけないでしょうか」

「……ん?」


何?なんだって?


「宣誓?」

「違います」

「天才?」

「違います」


?!

じゃあ何?


「転生です」




――――――――――――――




次回サブタイトル予告です。

~ゆく星くる星 若しくはエピローグ~

第一部完です。

お楽しみに。

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