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精霊星の物語 ~精霊島の物語~  作者: uki yoe
第一部 精霊島の物語
38/65

最後の精霊人

カイラルプスの意識体が語る話の大筋。

大まかな流れは白銀龍のレスリーから聞いていた。


「俺は、貴方がコルニアを外界より断絶させて、力尽きたと聞いています」

「白銀龍ですね。そう…私は彼女にもこのような話をしたはずです……王の力を引き継いだ私は、世界樹林を管理する為にコルニアを住処としておりました。あの虚無の力に対しては、当時、既に張られていた空間遮蔽の力だけでは、到底太刀打ち出来るものではありませんでした。私は私の持つ全ての力を使って、コルニアを死守したのです。それは先代達が望んだ精霊王の……いえ、この星が望んだ最後の希望でもありました」


ここまで語られた中での幾つかの疑問。


結局、コルニアは今日まで護られ、その他の全ては原始の形へと姿を変えた。

何故、こんな最悪な未来を変える事が出来なかったのか。

問うた言葉が違うのだろうか?


全ての事が分かっていた上で変わらなかったのか……。

それとも、まさかとは思うが…変えなかった……なのか?


そして、その後どのような流れで、俺がこの星へ来る事になったのか……。


話が途方もない。

少しばかりデカすぎる。

俺はこの話を最後まで聞いていいのだろうか?

一抹の不安が消え去らない。




「先ほど、歴代の精霊王から伝わる禁忌の内容を言われましたけど、結局のところ貴方方は未来を変える事が出来なかったと言う事なんでしょうか。……それとも敢えて変えなかった……のでしょうか。繰り返しになりますけど、何故……どうして貴方方の滅ぶ未来は変わらなかったんです?見通しが甘かったという理由だけでは、決して成り立たない出来事のように思うんですけど……」


俺は最も知りたい疑問を胸にしまい込み、カイラルプスの意識体が語るリテラ崩壊の話に付き合った。


「未来は変えられなかった……結果的にそういうことになりますね。私達は未来で起きるであろう結果を把握した上で、その流れを変える努力はしました。けれども、私達が手に入れる進化のスピードでは、虚無が現れる時間に間に合わせる事が出来なかったのです。残念ながら、その様な意味において私達、精霊人の滅亡は必然だったと言えるかも知れません」

「必然、ですか」


必然。


甘かったとか、手を抜いたとか、諦めていた、とかではなく『間に合わなかった』とカイラルプスはそう言った。

それが必然だったとも言った。

滅亡の未来をその目で見、それでも尚、生き延びる事を信じて対策を練った。


……にも関わらず、悲劇は起きた。

避けられなかった。

そういう事か。


納得いかんと思っても、これは過去の事なのだ。

これはもう起きてしまった事なのだ。

過ぎてしまった事なのだ。

精霊族は滅びた。

それも、今より遥か6000万年も前に。

その事実は変えられない。

過ぎてしまった事と分かっていても胸が痛む。

俺なんかが同情したところで過去の出来事は何も変わらない。

1人の人間の労わる気持ちだけで、過去の出来事は何も変わらない。

遥か昔の太古に起きた、過去の出来事。




ならば俺は聞こう。

ならば、俺は聞くしかない。

俺が出来る事は、この意識体の話を最後まで聞く事だ。

途方もなく重く、大きな話になって当然だ。

種の滅びだけではない。

この星そのものが滅びた時の話なのだから。


だがこの意識体。

カイラルプス自身にも、少なからず良い思い出があったはず、せめてそんな話も聞いてやりたい。

そんな気持ちにもなって来る。

途方もなく重い話しの中にでも、少しは軽い楽しい話を入れてもらおう。

そうでなければ、俺の気持ちがやりきれない。


「私は精霊人の王として、その責務を果たしました。私はコルニアにあった世界樹を虚無の巨大な力から護り通したのです」


カイラルプスの話はまだ続く。

カイラルプス……あのさ、もっと楽しくなるような話しはないのかい?

貴方の話は、重たすぎるよ。


「その……カイラルプス王……の意識体さん。俺、何と言っていいか、貴方の孤軍奮闘ぶりが身につまされるようで、胸が痛いです。このコルニアが残ったのは貴方が頑張ったからなんですね。凄い事です」


なんとかして、重い話しの流れを変えようとした、俺の気持ちを知ってか知らずか、冷酷にも告げられた次の言葉。


「精霊人の全員が死んだ後、私は愛するリテラの姿を留めたコルニアで1人、自らの生を全うしました」

「1人で全うした!?」


マテ!

まて、まて、まて、まて、まて。

まてよ……待て!俺はゴクリと唾を飲む。


虚無によりコルニアを残して、リテラの世界は死に絶えた。

無傷で残ったコルニアには、たった1人生き残った精霊人がいた。

それは誰?


――生き延びた精霊人はカイラルプス唯1人――


たった1人で生き残った、リテラ最後の精霊人。

精霊王カイラルプス。

そしてこの意識体は、先程、確かに俺に告げていた。


――この結界回廊はコルニアにいた全ての精霊達の自己犠牲によって創られた。この回廊は数千万年前、新しい精霊王をコルニアに呼ぶ為に、生き延びたコルニアの精霊達そのもののエネルギーで創られた――と。


そうだ、コルニアに生き延びた全ての精霊はこの時空間回廊の動力に組み込まれ、ついにはカイラルプスと会話するものさえいなくなったのハズなのだ……そしてこの意識体は今、何と言った?


――1人で生を全うした――


そう言ったな。

確かにそう言った。

俺の感覚に間違いがなければ、カイラルプスのボッチ期間は尋常じゃないぞ……。

心が折れるなんてもんじゃない。

それはもはや『独房』でしかなかったのではないか?

もし、それが当たっているとすれば……気がふれるなんてもんじゃない。

大丈夫?だったのか?カイラルプス……精霊王。

この感覚よ、間違いであってくれ。

そう願いつつ、恐る恐る尋ねる俺。


「カイラルプス、貴方はいつ亡くなられたんです?コルニアで生き延びた精霊達は何時いつ、この回廊を創り上げたんですか。貴方は一体どれほどの時間を1人で生きなければならなかったんです?」


「私が1人で生きた時間ですか?そうですね、私にも寿命はありました。私が1人で過ごした時間は、この回廊が創り上げられてから、私の寿命が尽きるまで……その時までです」


カイラルプスの意識体は静かな微笑みを絶やすことなく、淀みなく簡単に、さらりと答えた。


あれ?今、話をずらされた?

話が噛み合っていなかった。

もしかしてこのカイラルプスの精霊体、俺が期待する答えを敢えてずらしたか?

今、この精霊体は敢えて軽い感じに答えて、敢えてちょこっとずらしたんじゃないか?

ワザとだな?

何故?そんな事をわざわざ?

核心……に触れたくない?

もしかして、この意識体も俺と同じくテンパっているのか?

だから少しずれた答えが、ずらした答えが返ってくる?

気のせいか?

いや、気のせいじゃないだろう。

ここまで重い話だ。

この意識体も語り出す内容に、心の余裕が無いのかも知れない。


だが、申し訳ないが、このままではラチがあかない。

今度はこっちらから、明確な所を突っ込んで聞こうか。


触れがたい核心は其処にある。


軽い話はもう無理だ。

あきらめよう。


この回廊の事。

精霊達の事。

世界樹の事。

精霊王の力の事。

俺が何故ここにいるのか、その(ことわり)の事。

問おう。

答えは其処にある。

答えは意識体の中にある。

突っ込んで聞くぞ、カイラルプスの意識体。

ナイフの刃のように鋭い聞き込みになるのは勘弁しろよ。

俺は意を決して、鋭い眼光を目の前にいるカイラルプスの意識体に向ける。


「教えてください。このリテラに虚無が現れた時、貴方は既にコルニアにいらしていたんですね?」

「そうです。私はここにいました」

「それで虚無が現れた瞬間、貴方はコルニアの周囲に時空間結界を張った」

「はい。私は……私達歴代の精霊王は古の言い伝え通りに、普段からコルニアを外部より空間遮蔽魔法を用いて、外部からの出入りを禁じておりました。けれど、虚無の力は遮蔽の力だけでは到底間に合うものではなかったのです。虚無の力がコルニアを冒そうそとした時、私は私の力の全てを使って、時空間結界を創り上げました。あの時空間結界はあの時に張られた私、カイラルプスのオリジナル結界です」


ああ……そうか、そうだったのか。

空間遮蔽ありきの時空間結界だった訳か。

空間遮蔽。

なるほど、もともとコルニアを覆う結界は空間遮蔽だったのだ。

当初の予定では、それで十分だったのだ。

それが不十分だった為に、その他の魔法を組み合わせていった訳か。

コルニアを覆う外部からの出入りを抑制されるための遮蔽。

悪素が空間の中へ広がっていく事を防ぐ為の空間遮断。

コルニア全体を時間の減速によって悪災の侵入を遅らせる時間の遅延。

そして、それらの魔法が展開された空間を広域に渡って固定させる、空間固定。

さらに色々と付け加えられていそうな、カイラルプスのオリジナル結界。

そりゃ、誰も入って来れないよ。


「ええっと。そして……そして?…あなたは次に何をしたんですか?教えてください。コルニアに残った貴方と、精霊達の事を」


まだ、カイラルプスから語られていない、肝心要のその部分。

カイラルプスの意識体と俺の視線が交差する。

一瞬、カイラルプスからのプレッシャーが強くなり、俺はあわてて目を閉じた。

カイラルプスの意識体から溢れる黄金則の力が激しい。

わぁ、どうした?意識体。

何か、問題でも起きたのか?


「何?どうしたんです?」

「問題ありません。だだ……少し時間をください。これは生前のカイラルプス本人の精神の揺らぎです。この精神の、気持ちの揺らぎは過去の物です。けれども当時のカイラルプス当人には……カイラルプスとしては、様々な思いがあったのです。今、ここに現れる黄金則の揺らぎはカイラルプス本人の気持ちの揺らぎです。申し訳ありません。私はカイラルプスの意識体。カイラルプス本人ではないとはいえ、この気持ちの揺らぎはどうにもなりません。少し時間をください。カイラルプスの気持ちが落ち着くまで、少しの間、時間を………」


徐々にではあるが、その輝きを落ち着かせていく意識体。


「………ああ…落ち着いてきました…申し訳ありません。不快な思いをさせてしまいましたね」

「いえ、不快だなんてとんでもない。そんな事、まったく思っていませんよ。それより大丈夫なんですか?」

「ええ、もう大丈夫です」


核心を聞いたら、おあずけを食らった気分の俺。

目をぱちくりさせながら、落ち着きを取り戻す精霊王カイラルプスの意識体に探りを入れる。


「本当に大丈夫?」

「はい」


よし、大丈夫だな?

では、答えてもらおうか。

俺の最も知りたい疑問。

その核心。

俺がコルニアへ来る事になったその訳を。



――――――――――――――




次回サブタイトル予告です。

~点と点~

お楽しみに。

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