独白
かつて、この星を支配していたのは現在の闇族、闇種でもなければ、人族、獣族、エルフ族、ドワーフ族のいずれでもなかった。
緑の惑星リテラを我がもの顔で闊歩し、陸、海、空、だけではなく、地中や海底まで、この星の全土を掌握していた、とある種族。
この星、リテラの全ての場所にわたり居を構え、つつましやかな生活を営んでいた平和な種族。
それが精霊族・精霊人だった。
3つ目の人型種族《精霊族》精霊人。
その人口の全ての者が何らかの属性素体を有していた人種。
近場に生きる者同士で、小さなコミュニティやサークルを形成し、心豊かな生活をしていた人達。
社会の中、各々が役割を持ち、協力し合い、質素ながらも満ち足りた生活を営んでいた、穏やかな時の流れの中に生きた過去の種族。
精霊人は子供を大事にし、子供達への教育を彼らの社会の第一に持って来る思想を有していた。
彼等、精霊人同士に主だった争いはなく、この星の子供達への教育を中心とした、政治、経済、魔法と科学の体系は実によく発展していのである。
政治や魔法、化学や経済は子供らの教育の次に来る、切っても切れ離せない主軸の4大柱として認識されて、各々の体系が独立した発展を遂げていた。
魔法が得意な者はその力を種族の繁栄の為に用い、科学を求める者はその知的欲求を満たすべく可能な限りの勉強を惜しまなかった。
けれど、精霊人に利権を奪い合う殺し合いといった同族争い、貧困や飢餓、差別や弾圧と言った問題は、存在しなかったのである。
その結果でもあるが、種族としての発展と進歩は、現代における獣族や人族の発展とは比べ物にならないほどゆっくりとしていた。
そう、精霊人の生活を知らぬ後世の者には、にわかには信じられぬほど……牛歩のごとく……ゆっくりとしたものだったのだ。
そんな彼らにとって精霊と世界樹は、時代を生き抜く為の同志だった。
精霊は、精霊人と共にいた。
リテラを司る11属性の精霊達。
姿を持たぬものから、姿、形を得、その果てに、大精霊とも呼べるべき偉大な存在にまでになった精霊達。
そんな彼らと精霊人は持ちつ持たれつの関係だった。
精霊族が大地を削り、海を渡り、空を飛ぶ時、そこには必ず精霊達が傍にいた。
多くの者は大地を彼らの住処としたが、中には地中を掘り、海底に空に、リテラのあらゆる場所に精霊人は住処を広げた。
そしてその、いずれの場所にも精霊は傍におり、又、聖なる樹、世界樹も常に彼らの傍にあったのだ。
その名の冠に、世界を乗せる聖なる樹。
世界樹。
世界樹は世界を潤す。
緑の星、リテラの空気を創り、水を生み、食物を育て、星に宿る精霊を育んだ。
世界樹はこの星の豊かさの象徴でもあった。
聖なる樹はコルニアだけではなく、世界中に点在していた。
精霊人は世界樹を聖なる樹とし、崇め、敬い、命を育む樹として種族を挙げて育てていた。
世界樹があれば、精霊は生まれる。
精霊が生まれれば、各素体から食料に代わるエネルギーを得る事が出来る。
世界樹があれば、無駄な争いをせずとも生きていける。
世界樹があれば、リテラは永遠に緑の星でいられるのだ。
精霊王。
精霊王はその中でも、特別な存在だった。
王は、血族で選ばれるのではない。
精霊王は種族の中で生まれて来る、ごく普通の精霊人から生まれ出る子が選ばれた。
普通の家庭に生まれ来る、たった一人の精霊人が、種族の王に選ばれていたのだ。
選ばれる子には資質があった。
資格、若しくは要素といっても良いかもしれない。
当然に、精霊人の誰でもが王になるべき、その資質を持っていたわけではない。
王の王たる資質。
その要素……。
黄金則。
星に宿る全ての精霊の属性、その全ての属性を生まれながらに持っている者。
11の属性、その全てをその身に宿す者。
その者こそが王となったのである。
その素質、その素体。
王として選ばれる者は、リテラに宿る全ての属性を生まれながらに持っている黄金則の要素・波長が求められた。
精霊王=黄金則の素体色を持つ者。
その者こそが、次世代の王となっていたその事実。
その存在は、リテラの意志とも言われていた。
11の属性に分かれて生まれ出でる、各属性の精霊。
その精霊を束ねる為に生まれ来る―星の意志―。
それが精霊王。
星の力。
その力。
黄金則のその力。
王の王たるその力は世代を超えて、次の王へと引き継がれて行く。
先代王から、リレーのバトンを引き継ぐかの如く受け渡される王の力。
過去の王の力を引き継ぎ、さらに受け渡していった歴代の王。
遠い遠い、遥かに遠い、さらなる昔の時代より引き継がれて来た強大な力。
黄金則の波長、素体色を生まれ持ったその者は、次代を任される王として、歴代王の力を受け継ぎ、当代、唯一の精霊王となったのだ。
精霊王は世界樹林の管理者でもあった。
世界樹はリテラの精霊を生み、精霊を育む土壌を創っている。
世界樹が失われるような事があればリテラは滅ぶ。
そう言われ、信じられて来た。
精霊を生む世界樹を育み、増やす者。
リテラの宝。
それが精霊王。
精霊王の力の引き継ぎ。
それは1000年に1度ほどの厳粛な行為だった。
引き継ぎ時において、王のみに言い伝えられて来た予言もあった。
過去、時空間魔法を用いて未来に行ったと言われる精霊王から伝えられて来た禁忌の予言。
その、言い伝え。
――リテラの過去、未来へ行ってはならぬ――
――力を受け継ぎし王は、コルニアに結界を張りつづけ、他者の出入りを禁じよ――
――コルニアを護り、コルニアの世界樹を護れ――
――王は力の承継をたとえ死しても、行わねばならぬ――
――さすればリテラは、滅亡の危機を免れる――
歴代王はその言葉に忠実だった。
コルニアの世界樹林は当時であってもその規模、その質の高さが群を抜いていた。
精霊王はコルニアを禁足地として精霊人の入地を禁じ、又、精霊王が直轄管理地として治めていた事を精霊人達は世界樹林保護の為と認識し、その他の思いを抱いてはいなかった。
「……そうして私はあの日まで、このコルニアを護る守護者として、ここにいた多くの精霊達と慎ましやかに生きていたのです。あの日、私はいつものように身を清め、いつものように外部の者と定時連絡を取り合っておりました。それまでは何事も無かったのです。このリテラに虚無の力が現れるまで、当時、この星に生きていた者達は大変幸せに暮らしていたのです。全てはあの虚無が現れて終わりました。コルニアにいた私以外の精霊人は全員が息絶えました。精霊も、世界樹も例外ではありません。ここ、コルニアだけが当時の姿形のまま残り、コルニアで護られていた者を除いた全ての生き物が絶滅へと追い込まれたのでした」
カイラルプスの意識体はそこまで言うと、大きな仕草で肩を落とした。
人ならざる者。
既にこの世にはいない、死者の魂。
6000万年前に亡くなったとされる、精霊王カイラルプスの意識体。
過去を語るその口ぶりは、生者のソレと変わらない。
幽霊みたいな存在かと思いきや、喜怒哀楽があるのだろう。
その存在がガックリと肩を落とす仕草にも、悲哀のソレが醸し出る。
「虚無が現れた時、地下に住む精霊族の中にはまだ生き永らえている者もおりました。けれど、世界樹が枯れ、精霊達が消えていくと、もう我々精霊人には生き抜く術はありません。この星リテラは、命ある者が生きては行けない、死の星となってしまったのです」
滅び去った種族。
精霊族。
消え去った人種
精霊人。
その最後の生き残りだった、精霊王カイラルプス。
その思いは如何ほどだろう。
しかし、それにしても……。
「……分かりません。俺はバカだから理解できないんでしょうか?……未来へ行くことが禁忌であっても、未来予知は出来たはずです。それに、それほどの大災害が起こり得る事が、起きた瞬間まで貴方方がわからなかったとは到底思えません。悲劇が起こり得ると……それが何時いつ起こるのかは分からないまでも、起こってしまう事は把握いたのでしょう?少なくとも精霊王になった歴代の王達は、起こり得るだろう種族の悲劇をある程度は予見されていたはずです……出来たはずなんです。そうですよね?そうであるならば、それ相応の対策を、予防策をなされていたのではないんですか?」
俺は当然に思い浮かぶ疑問を投げかける。
「そうです。仰る通り。私を含めた国の首脳陣は対策を立てていました。精霊族のエリートで固めたプロジェクトチームは、地下や海底に数千年は持つ設計のシェルターを創りました。さらに地上には数本もの世界樹を内包した内循環式、走行防御ユニットまでも創り上げ、上層部の者は日々の警戒にあたっていました。けれども虚無は、私の力を遥かに超える時空間転移の力で現れたのです。当時のあの力は、精霊王が数十人いたとしても太刀打ち出来なかった事でしょう。虚無が現れた瞬間、その出現に気づいた私達、精霊人に、あれほどまでの力の暴走を抑え込む事は不可能でした。全てが一瞬の出来事だったのです」
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次回サブタイトル予告です。
~最後の精霊人~
お楽しみに。




